歩けメロス 5 | 藤花のブログ 詩と

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この胸に 湧き上がる気持ちを 言葉にして あなたに贈りたい




                 By かっちゃん




   メロスが村に着くと 陽は既に高く昇って

   村人たちは 野や畑に出て仕事を始めていました。

   メロスの妹も、帰ってこない兄の代りに

   羊の群の番をしていました。

   荷物を背負って よろめいて歩いて来る兄の 

   疲労した ヘロヘロな姿を見つけて驚き、
 
   うるさくメロスに質問を浴びせました。


 「 お兄ちゃん どういうつもり !

   さっさと用事を済ませば いくら短い足でも 

   夜には帰ってこられたでしょうに !

   かってに 朝帰りすんじゃないわよお ~ ! 」


 「 ぎゃぁぎゃぁ 騒ぐなよぉ 」


 「 なによ ~ その言い草 !  

   頼んだ物を ちゃんと 

   お買い物したんでしょうね !?

   それに、よれよれのボロボロで

   元々汚いけど、異常に汚いわ ! 」
  

 「 いろいろと 大人の事情があってだなぁ ~

   とりあえず 買い物はしてきたよぅ 」


 「 お兄ちゃん シラクス市で 

   歌の下手な ユニゾンでしか歌えない 

   ぼったくり少女歌劇団に行ったり

   極東の島国の変な議員みたいに

   浴びるほど お酒を飲んだり

   エッチな お店で悪い遊びや、

   非合法の薬物摂取とか ヤバい事

   してきたんじゃぁないでしょうね ? 」


 「 いや そんなことしないよ、

   だいたい そんな余計な金持って行ってないし、

   オイラは 大丈夫だから かまわないんだ。 

   後は 誰が どうなろうと 知らないよ~だ 」


 「 意味が わからないわ ? 

   元々 変だけど 頭、大丈夫 ? 」


 「 何が正しいんだか、ちっともわからない 

   いいや オイラの決断は 正しい ~~~! 」


   メロスは無理に 笑おうと努めました、

   いかに、臆病者で 卑怯者、

   ろくでなし、ひとでなしとはいえ、

   少しだけ 良心の呵責がありました。


 「 酒をくれ 酔っ払いたい気分だ 」


 「 いい気なものね 朝帰りして朝酒とは、

   いつから そんなに 

   ご立派になったのかしらぁぁああ ~? 」


 「 このとおり 頼むから、飲ませておくれ 」
 
   軽い頭を ぺこぺこ下げて 妹に許しをもらい、

   メロスは 酒を しこたま飲みました。


 「 ごきゅごきゅごきゅ !

   ぶっふぁぁぁあああ  ~!  」


   気の弱いメロスでしたが 

   酒が入ると人格が変わりました

   どこかの島国の議員のように

   酒癖が悪く 酒乱の気がありました。


 「 くそぉぉおお ~! 

   あの腐れ外道の ディオニス王め ~!

   オイラを小馬鹿にしゃがって ~!

   ブサイクとか、知性の欠片もないとか、

   マトン臭い トンマとか、

   許せねぇぇええ ~ 眼にもの見せてやる ~!

   一発 ぶん殴ってやる がるるぅぅうう ~! 」


   酒の勢いで 王様に愚弄されたままではすまさないと

   今頃になって 怒りがこみ上げてきました。


 「 オイラは シラクス市に用事を残して来た、

   また すぐ市に行かなきゃならないんだ、

   だから、明日、おまえの結婚式を挙げるぞ、

   早くしろ ~! 」


 「 えぇ ~? 」

   妹は困惑しました メロスは いつも変ですが 

   どうも 今日は特に様子が変です。


 「 うれしいだろう、綺麗な衣裳も買って来たんだし、

   さあ、これから村の人たちに知らせて来い、

   結婚式は 明日だと ! 」


 「 そんな急に 何を言っているの ? 」


 「 善は急げだ 時間がないんだ ! 」

   メロスは、よろよろと神々の祭壇を飾り、

   祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、


 << が~ が~ が ~ ! >>


   と 大イビキをかき、

   深い眠りに落ちてしまいました。


 「 まぁ 実の兄ながら 呆れたわ 」

   妹は 更にメロスを軽蔑しました。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


   メロスの眼が覚めたのは 夕方でした。

   二日酔い状態で頭が痛く 罪悪感を感じながらも、

   王様の所に戻るのが、とても怖くなりました。


 「 しかたない 悪いけど 

   やっぱり セリヌンティウスには

   オイラの身代わりになってもらおう、

   オイラ もともと 冤罪なんだし  

   結局 王様は処刑できれば

   誰でも いいんじゃないのぉ ? 」


   ズキズキと 頭が痛みました。


 「 二日酔いだぁ ~

   やっぱ こんな時は やっぱ 迎え酒だなぁ

   ゴキュゴキュ ゴキュゴキュ プッハ ~ ♪ 」


   酔いがまわり また 酒の力で気が大きくなり

   ディオニオス王への怒りが燃え上がりました

   メロスは千鳥足で、花婿の家を訪れました。


 「 悪いけどさぁあ 少し事情があるからぁあ、

   結婚式を明日にしてくんないぃぃい ~ ? 」


 「 それはダメですよ、こっちは 

   まだ仕度も出来ていないし 待ってください 」

   婿は驚き 答えました。


 「 待ってられないの 頼むよ

   どうか明日にしてくれよ ~! 」

   メロスは、更に押して頼みました。

   しかし婿も頑強でした、

   なかなか承諾してくれません。


 「 明日は 仲間内の集会があるのですよ

   出席しないといけない 」


 「 仲間より結婚式だ ~! 

   そうだ そいつらも呼べばいいじゃん !

   オイラって なんて賢いんだろぉぉお ~

   うひゃひゃひゃ ♪ 」


   夜明けまで、ちびちびと酒を飲みがら議論を続けて、

   どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せました。


   結婚式は、婿の仲間たちも 急遽、

   大勢 列席して真昼に行われました、

   新郎新婦の、神々への宣誓が済んだころ、

   メロスは、ぐびぐびと酒を飲み 酔いが回りました、

   また酒の勢いで つい気が大きくなり

   ディオニス王の 残虐な行いについて

   一席ぶちました。


 「 オイラは ひっく! 無実の罪で 捉えられ ~!

   王様に はり付けに されそうになりました ~! 

   王様は無実の者を 処刑するのが好きなのです ~!

   妹の 結婚式を口実に 逃げ帰ってきました ~!

   でもオイラが 三日以内に戻らなければ ~ おぇっ!

   身代わりの 友人は 処刑されてしまいます ~!

   こんな 非人道的行為が

   許されるのでしょうか ~? 」


   しかし少しずつ酔いが冷めてきて、 

   メロスは また弱気になりました。


 「 でも帰ると オイラが処刑されちゃうのよ。

   だから 帰りたくないし オイラは 

   どうしたら 、いいのでしょうかぁぁ ~? 」

   結婚式会場は どよめきました。


 「 お義兄さん それは 戻らなくてはいけません 」

   新郎が 言いました。


 「 そうよ ! お兄ちゃん

   お友だちを見殺しにする気 ? 」
   
  
 「 お義兄さん 私の仲間というのは 

   王様に無慈悲にも 投獄されたり

   処刑された 被害者の会なのです、

   あちこちに 支部があり

   反王制の 地下活動をしているのです 」


 「 え~えぇ ? それは知らなかった、

   それって共謀罪で 反体制行為で 反逆罪で 

   ヤバいんじゃないの ~? 」


 「 王様の 残虐行為をこのまま

   続けさせることはできません、 

   仲間に頼んで あちこちの支部の人間を集めましょう、 

   お義兄さん あなたが代表として

   抗議行動に出るのです ! 」


 「 ちょっと待って

   それ こわいなぁ 危なそうだしぃぃぃ 」


 「 何を言っているのですか ?

   親友が殺されてもいいのですか !?

   人間として恥ずかしいでしょう ? 

   私も そんな義兄が身内では恥ずかしい ! 」


   話は 大事になってしまいました。


 「 みなさぁぁあ~ん ! お聴きの通り 

   私の義兄にも類が及び、親友が今、義兄の代わりに、

   ディオニス王によって人質になっています ~! 」


 「 がやがやがや がやがやがや がやがやがや 」

   会場は異常な熱気に沸き立ちました。


 「 さあ 今こそ 立ち上がりましょう ~! 

   我々は 義兄メロスの下に集い 

   義兄の友人を この手で 奪還しましょう ~! 」


 「 うお ~~~! メロス ! メロス ! メロス ~! 」


   皆が 拳を 天に突き上げます。

   幼なじみを 一人、身代わりにして 

   うやむやにしてしまおうとも思っていたのですが、

   いつしか、結婚式は 反体制集会と変わり、

   メロスは 活動の お神輿にされてしまったのです。


 「 正義を成す時は 来たれり ~!

   時代を変革するために、

   さぁ シラクス市に向けて

   出発しましょう 義兄様 ~ ! 」


 「 お兄ちゃん 行くわよ

   ほんとに グズグズしてちゃ ダメでしょう ! 

   もう 一日半しかないんじゃないの ? 」


 「 でも、セリヌンティウスを助けても 

   オイラが死んだら 意味無いじゃ~ん

   とほほ 、、、 」


   メロスは 妹たちに 背中を押されて 

   しかたなく 逃げ帰ってきた道を 

   とぼとぼと 歩きはじめました。




   嗚呼 再びシラクス市に向かう羽目になった

   卑怯者のメロスの運命はいかに ?


         続 く