偽作 ナイチンゲールと赤いバラ 5 | 藤花のブログ 詩と

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この胸に 湧き上がる気持ちを 言葉にして あなたに贈りたい


                                  "KIUKO"
 

 夜が明け 日が昇ると

 学生は ナイフで切り取った薔薇を手に

 喜び勇んで 彼が学ぶ大学教授の家に行きました。

 そこには 彼が心惹かれる一人娘がいるのです。

 教授の若く美しい愛娘は 

 早くに母を亡くしていたので 

 父のために裁縫することがあります。

 戸口の揺り椅子に座りながら

 糸巻きに 青い糸を巻きつけていました。


「 僕が 赤い薔薇を持って来たら

 僕と踊ってくれると

 貴女は前におっしゃいましたね  」


 学生は 荒い息で彼女に言いました。

 彼女は驚きました、学生が唐突に来て、

 そんな事を いきなり言い出したからです。 


「 そうでしたっけ ? 」


「 ほら、ここに世界で一番 赤い薔薇があります。

 今夜 貴女が これを

 心臓の 一番近くにつけるのです、

 僕らが いっしょに踊るとき、

 僕が どれだけ貴女を好きなのか

 この薔薇が 伝えてくれるでしょう 」


「 せっかく持ってきて頂いても、

 その薔薇は 私のドレスと似合わないと思います 」
  
 少女は 眉をひそめ答えました。


「 ああ、何という事を。

 あなたは まったく感謝の気持ちがない人だ

 僕が苦労して せっかく手に入れた、

 いや、僕の血潮で創りあげた

 こんなにも赤い 情熱の薔薇なのに ! 」


「 感謝の気持ちを 知らないですって !?

 何を おっしゃっているの !

 そんな 汚らわしいバラを持って来て

 あなた、私を からかっているのね ! 」


「 汚らわしい ? 」

 学生が その手にしたバラは

 すでに血液が乾き 変色していました。






「 あぁ なんということ ! 

 我が身を傷つけて 創りあげた赤い薔薇なのに 」

 学生は言いました。
  

「 あなたは とても失礼よ。

 たしかに 私は赤い薔薇が好きだわ、

 でも、朝から そんな不吉で

 醜悪な薔薇を持って来るなんて !

 おまけに血だらけのシャツを着ているし、

 王子様も出席する舞踏会に 

 その格好で 私と一緒に

 出席するつもりだったの ? 」
 
  少女は 学生に言い放ちました。

 学生は 屈辱感に体が震えました。

「 先日、ある男性が ご自分の家で 

 代々受け継がれてきた指輪を

 私に プレゼントしてくれました。

 それがどういう意味か あなたに おわかりですか ?

 今宵は その方と舞踏会に出かけます。

 お話は これで終わりです、お帰りください 」


 彼女は 椅子から立ちあがり、

 家の中へ入ってしまいました。


 学生は 薔薇を地面に投げ捨て踏みつけました。

 そして、うめくように言いました。

「 こっ この屈辱は けっして忘れない、  

 あの冷たい夜の 月の下、

 僕が どんな想いでいたか、

 僕の 熱い情熱、真心を知ろうともしないで 

 汚いゴミでも見るかのように

 簡単に否定するなんて 、、、、 」



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