、
その扉で待っていても
埒が明かないし 鍵も開かないので、
アリスは テーブルに戻りました。
別の鍵が 乗ってたりしないかな、と
都合の良い期待していたのです。
あるいは、望遠鏡みたいに縮まるための
ハウツー本がないかな、と思いました。
「 落ちてくる途中の本棚には
もしかしたら あったかもね 」
気づくと今度は、小さな瓶が乗っていていました。
「 これって さっきは無かったわよねえ
変ねぇ ? 」
と アリス。
そして瓶の首には 紙の札がついていて、
そこに 『 飲んで 』 という言葉が
大きな字で 印刷されていました。
『 飲んで 』 しかし 疑い深いアリスは、
♪ 飲めと言われて素直に飲んだぁぁあ ~♪
と 言うような素直な子ではありません。
「 いいえ、まずちゃんと見てみようっと。
『 毒 』 と書いてないか確認するんだ ! 」
と アリス。
と言うのも、簡単な忠告を無視したばっかりに、
熱傷になったり、野獣の餌食にされた
哀れな末路の おバカな子供たちについての、
ほのぼのした うきうきするお話を
いくつも読んだことがあったからです。
他人が どんなヒドイ目にあっても
「 人の不幸は 蜜の味 」 と
アリスは腹を抱えて大笑いできるので
ぜんぜん構いませんが、
自分が そんな目に合うのは さすがに勘弁です。
忠告というのは 例えば まっ赤に焼けた火かき棒を
長く握っていると熱いし重度の火傷をするよ、とか、
指をナイフで 深く切っちゃったら、
たぶん痛いし、血が出てくるよ、
もしかすると骨も観察できるかもね、とか
空腹の 肉食大型動物の前に
間抜け面で のこのこと出て行ってしまうとかです、
当然 生きたまま 捕食されてしまいます、
巨大な顎と鋭い牙で引きちぎられたり、
噛み砕かれてしまいます、
とっても 痛そうですね。
そして 『 毒 』 と書いてある
瓶の中身をたくさん飲んだら、
お腹が痛くなり ビリリリと下痢したりとか
ふぁがふぁがと息苦しくなる 呼吸器不全とか
やばいことになる心不全とか
あちこちの内蔵がだめになる 多臓器不全とかになり
いずれ困ったことになるよ、
という事も記憶していたのでした。
でも、瓶には 『 毒 』 とは書いてありませんでした。
「 まぁ いっか 」
熟考せずアリスは 試しに味見をしました。
そして それがとっても美味しかったのです。
( 例えると、チェリータルトと、
カスタードと、パイナップルと、
クリスマの七面鳥ローストと、トフィーと、
熱いバターつきトーストのような味です )
過去に食べた美味しいものを全て混ぜたような味でした、
本当に 混ぜると美味しいのかどうかは さておき、
すぐに それを飲みほしてしまいました。
<< し ゅ る る る ~ >>
「 うぉおお ! なんじゃこりゃぁ ~ !
あたし、望遠鏡みたいに縮まっちゃってるぅぅう ~! 」
アリスは 身長25センチに 縮まりました。
これで あの小さな扉を通って綺麗な庭に行くのに
ジャストサイズの大きさになったと思い
アリスは ニタニタ笑いました。
でも、もう少し様子を見て
もっと縮むかどうか確認しました。
これは ちょっと杞憂したところでした。
「 だって あたしがロウソクみたいに、
ぜんぶ消えちゃって
消滅するかもしれないでしょう、
そうなったら あたし、どうなっちゃうんだろ ? 」
アリスは、ロウソクを吹き消したあと、
ロウソクの炎が どんな様子かを想像してみようとしました。
というのも、消えた炎の行方を
今まで見た覚えがなかったからです。
「 消えろ、消えろ、つかのまの燭火、
人生は 歩いている影にすぎぬ。 『 マクベス 』
( by シェークスピア ) なんちゃって 」
それは 人が死んだ後の魂が
どこへ行ってしまったのか、どこに消えたのか、
誰にも見えないのと同じ事のような気が
アリスには するのです。
しばらくして、それ以上 何も起きないのがわかり、
アリスは お庭に行こうとしました。
しかし 扉のところに来ると、
あの金色の鍵を持ってきていないのに気がついたのです。
「 あたし ダメじゃん
鍵 持ってきてないじゃん ! 」
そして あわててテーブルに戻ってみると、
体長25センチに縮んでいるので 手が届きません。
ガラス越しに、下から見えています。
アリスはテーブルの脚を 何度も よじ登ろうとしましたが 、
つるつるとして登れません。
「 やっと 扉を通れる小さなサイズになったのに
小さいサイズのために 肝心の鍵に手が届かないなんて
あぁ 何たる不条理なのよぉぉお ~ ! 』
アリスは泣き出してしまいました。
しかし、
「 こら、アリス いつまでも泣いてちゃだめだぞ ! 」
アリスの自意識は、きびしく自分を叱責した。
「 いいわね、いますぐ泣きやみなさい ! 」
アリスが自分にする忠告は、概ね適切なのです
そして ときどき 厳しく叱責しすぎ、
自分の言葉が辛くて 涙が出てくるほどでした。
一度、自分相手にやっていた クロケー
( クロケー とは、芝生のコートで行われる
イギリス発祥の球技で
日本におけるゲートボールの原型である。
マレット( 木槌 )により木製、
またはプラスチック製の球を打ち、
6個のフープ( 門 )を通して、
最後に中央に立っているペグ( 杭 )
に当てる早さを競う )の試合で
自分で自分に勝とうと インチキをしたので
インチキをした自分を 自分の自意識が反省し
自分自身を鉄拳制裁するため
殴りかかったくらいなのです。
右手で殴り掛かると 左手で防御するので
膠着状態が続いて めんどくさくなってやめたのでした。
なぜそんなことをするかと言うと
アリスは一人で二役をやるのが 好きだったからです。
と言うか それは 二重人格、
解離性人格障害の兆候があったのかもしれません。
「 でも今、二役をやってみてもしょうがないわよね。
だって あたしは縮んでしまって
もうほとんど残ってなくて、
人間一人には 寸足らずなんだもの ~! 」
と アリスは考えました。
「 おゃぁ ~ ? 」
テーブルの下の小さなガラスの箱が
アリスの目にとまりました。
開けてみると、中には小さなケーキが入っていて、
干しぶどうで 『 食べて 』 と文字が書いてあります。
「 これは きっと 重要なアイテムなのよ、
こんなところに 必然性が無く
余計な物が 偶然 置かれているはずがないもの、
合理的に考えれば きっとそうよ、
ふふっ 初歩的な推理だよ アリス君 !
これを食べて 大きくなれたら、鍵に手が届くでしょ、
小さくなるようなら、扉の下から もぐれるわ。
物事の展開と言うのは そういうものなのよ。
だから どっちにしても お庭には行けるはずよね。
あたしは どっちだっていいわ 食べちゃおうっと 」
< ぱ く り ! >
「 大きくなるの ? 小さくなるの ?
どっちかな ? どっちだと思う ? 」
そして頭の上に手をかざして、
自分が伸びているかを確かめようとしました。
しかし 変わらず同じ大きさのままだったので、
アリスは予想がはずれ がっくりしました。
「 あぁぁ ~ 失望 落胆 がっくし 、、、 」
アリスは 次の驚くべき展開を期待していたので、
あい変わらず 人生が平穏に
当たり前に続いて行くという事が、
なんだか バカバカしく思えたのです。
「 何だよ 期待はずれじゃん !
ここで 一波乱なくちゃ
全然 盛り上がらいだろうがぁぁ ~ !
半端な展開で続きで 誰が喜ぶんだよ ~! 」
アリスは 腹を立て 怒鳴りましたが、
「 まぁ いいや ケーキに罪はないしぃ 」 と
残りのペロリとケーキを たいらげてしまいました。
「 おっ ! それなりに おいちい ~♪ 」
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