偽作 マッチ売りの少女 | 藤花のブログ 詩と

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この胸に 湧き上がる気持ちを 言葉にして あなたに贈りたい





  酷く冷え込む 寒い日でした

  雪も降っており すっかり暗くなり

  もう夜 今年最後の夜でした


  この寒さと 暗闇の中

  絶望を抱え 一人の男が歩いていました

  寒さと空腹で 震えながら男は歩きました


  頭に帽子も被らず 足に何も履いていません

  少し前には 靴を履いていました


  しかし 人生の意義を見失ってしまっていた男でしたが

  空腹には耐えられず その靴を質屋に売りました 

  今夜 かろうじて食事ができるだけの お金になりました

  何か 食べようと男は思いました


  男は 素足で歩きました

  両足は冷たさのため とても赤く

  また青くなっていました


「 マッチは いかが マッチは いかが 」


  街角に 一人の少女が立っていました

  少女は 古いエプロンの中に 

  たくさんの マッチを入れ 

  手に 一束持っていました


  どの窓からも 蝋燭の輝きが広がり 

  夕食の 美味しそうな香りがしました

  今日は大晦日です

  男は そのことに気づきました


  二つの家が 街の一角をなしていました

  その屋根が 前にせり出しています

  風の吹き込みが 少ない場所です 

  少女は そこにいました

  男の両手は 冷たさのために

  もう かじかんでいました


 ” 寒くて 仕方がない 

  マッチの火で かまわないから 

  今すぐ 温まりたい ” 


  そう思い 男は少女に近づきました


  ひらひらと 舞い降りる雪が

  少女の 長くて金色の髪を覆いました
 
  その髪は 首のまわりに美しく

  カールして下がっています


「 あぁ まるで あの子のようだ 、、、 」


  男は つぶやきました

  束の中から マッチを取り出して

  たった一本のマッチでも 火をつけて指を温めたい

  男は 思いました


「 マッチは いかが 」

  少女は言いました


「 お願いだ 一本だけでいいから火をつけてくれないか  」


  お金を渡すと 少女は一本取り出しました 

  男は 少女からマッチを受け取ると 擦りました


  ≪ シュッ! ≫ 


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  煙が立ち上り 火がつきました

「 何という輝きだ 何と良く燃えるのだろう 」


  温かく 輝く炎で 

  上に手を かざすと まるで蝋燭のように感じられ

  男には この世のものとは思えないほど

  美しい光に見えました 


  男には まるで 大きな鉄のストーブの前に

  実際に 座っているように感じられました

  そのストーブには 光る真鍮の足があり

  てっぺんには 真鍮の飾りがついていました

  かって 男の家にあったストーブでした

  その炎は、まわりに祝福を与えるように燃えました

  男は 妻と結婚した頃を思い出しました

  毎日が楽しく 二人未来を夢見て 

  希望に溢れていました

  喜びで満たすように 炎は周りを温めます

  男は足も伸ばして 温まろうとします


  しかし炎は消え ストーブも消えました

  残ったのは 手の中の燃え尽きたマッチだけでした

  男は もう一本 マッチをもとめました


  マッチは明るく燃え その明かりが壁にあたった所は 

  ヴェールのように透け 部屋の中が見えました

  テーブルの上には 雪のように白い 

  テーブルクロスが 広げられ

  その上には 見覚えのある磁器が揃えてあり

  焼かれた七面鳥は 美味しそうな湯気を上げ

  男の妻が まだ赤ん坊の娘を抱き微笑んでいました


  その時 マッチが消え

  冷たく湿った 壁だけが残りました

  男は もう一本 マッチを擦りました

  明るく マッチが灯ると

  男は クリスマスツリーの下に座っていました

  たくさんの 飾り付けがしてありました

  かって 妻と幼子の娘と一緒に飾り付けをした 

  見覚えのある クリスマスツリーでした


  幾つもの光が 緑の枝の上で燃え

  楽しい色合いの絵が 男を見おろしています

  男は 両手を伸ばしました

  その時 マッチが消えました

  クリスマスツリーの光は 高く高く上っていき

  天国の星々のように見えました

  そのうちの一つが流れ落ち 長い炎の尾となりました





「 今 誰かが 亡くなったのか ? 」

  と 男は思いました

  男を たいそう可愛がってくれた 

  今は もう亡きおばあさんが

  昔 そんな事を言っていたからです


「 星が 一つ 流れ落ちる時 

  魂が 一つ 神様の所へ向かうのよ 」 と

  マッチを もう一本 壁で擦りました

  辺りは再び明るくなり その光輝の中に

  妻と 少し成長した娘が立っていました

  二人の髪は 金色に輝いています

  とても明るく光を放ち 

  とても柔和で 妻も娘も 

  愛と幸せに 満ち溢れた表情をしていました



  男は 吹き荒れる不況のため失業し 

  貧困の中 妻と娘を病気で相次いで亡くしたのでした

  男は それから一人で生きる希望も失くし

  失意の日々を過ごしていました


  男は 大きな声をあげました


「 お願いだ 僕も連れて行ってくれ !

  マッチが燃えつきたら 君たちは行ってしまう 

  暖かいストーブみたいに 美味しそうな七面鳥みたいに

  それから あの大きなクリスマスツリーみたいに

  僕を残して 消えてしまう !

  もう 一人でぼっちで生きていたくない ! 」


  男は 急いで有り金を少女に渡し

  全てのマッチを求め ありったけ壁に擦りつけました

  妻と娘の そばにいたかったからです


  マッチの束は とても眩い光を放ち 

  昼の光よりも 明るいほどです

  この時ほど 妻が美しく娘が愛らしく 

  見えたことはありません

  男は妻と娘を その腕の中に抱きました

  三人は 幸せな表情で微笑み合いました


「 すまなかった もう 二度と離さないよ 」


  男の言葉に 妻が男の耳元で囁きました
 
  夜空に 星が一つ 流れました





  夜明けの街角に 素足の男はいませんでした
 
  地面に残されたマッチは 全て燃え尽きていました


















「 いいえ あなたは失意のまま 

  こちらに来ては だめです

  まだ やるべき事があるはず

  でなければ 天国の扉は開かず

  あなたを 迎え入れてはくれないでしょう 」


  マッチの燃える明かりの中

  妻と娘を抱きしめた時

  男の耳には そう妻の声が聞こえました


  絶望を抱えていた男は 妻の言葉に

  生きる気持ちを取り戻しました

  きっと いつか また逢える日が来る

  その日まで 精一杯生きよう

  凍える体を 奮い立たせ

  明日に向かい 歩き出したのです 
 

  寒く凍える夜 

  しかし

  人々が 希望を胸に宿し

  新しい年を迎えるようとする 大晦日の夜の事でした




                                  by auspices