世界一美しいもの 8 | 藤花のブログ 詩と

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この胸に 湧き上がる気持ちを 言葉にして あなたに贈りたい



  次の朝 小麦を刈入れに来た農夫が、 

  倒れていた奥方を 見つけました。

「 あぁ ! どうしたことだ !

  人が 倒れているではないですかぁぁああ ~ 」

  農夫は その顔を見て驚きました。

「 なんという事でしょう !!

  髪はボサボサ、化粧気もなく

  薄ら汚れて やつれているが、

  この人は 見間違うはずも無い

  あの 奥方様ではないか ! 」


  農夫は かって世界一美しいものを探し

  小麦を持ち帰ったため 奥方の逆鱗に触れ、  

  あっさりと首にされた 元船長だったのです。


「 貿易船団が 嵐に沈んだという話を聞いていたが

  まさか こんな姿で こんな再会になるとは、

  おいたわしや ぐす ぐす ぐすん 」


  元船長は 首にされたにも関わらず

  奥方に 深く同情しました。

  彼は、小麦畑の美しさに魅せられ、

  この地に畑を手に入れ、持ち帰った小麦を植えて

  今は小麦畑を 経営しているのでした。


「 ここで会ったのも 偶然では無いのだろう 

  奥方様も 何か感じる入るものがあったに違いない

  だから この麦畑まで辿り着き 倒れたのだろう。

  きっと 神様の お導きがあったに違いない

  わたくしめの手で 手厚く葬ってあげよう 」





  元船長によって 奥方の葬儀が行われました。

「 灰は灰に 塵は塵に 、、、、 」


  金融業者たちが 奥方の足取りを辿り 

  昔雇用関係のあった 元船長の所に押しかけました。

「 なんだ ! 奴は 留守じゃぁないか 」

「 隣の家で どこに行ったか聞いてこい ! 」
 
  もと船長が 今 教会で葬儀をしていると聞きつけ、

  金融業者たちは 教会に向かいました。

  彼らが 教会の墓地に駆けつけた時、

  すでに 小高い丘の教会での葬儀が執り行われ

  棺が 墓地に埋められた後でした。

  元船長は 墓の前に佇んでいました。


「 おい ! あの おデブの奥方はどうした ~! 」

「 行き倒れになって

  もう 亡くなられましたよぉ ~ 」

  元船長が 言いました。

「 なんだと ~! 」

「 たった今 埋葬がすんだところですよぉ~ 」

「 お前は 誰だ ? 」

「 私の 小麦畑に倒れていたので

  そのまま置くわけにも行かず、仕方なく 

  墓地に埋葬することにしたんですょぅ ~ 

  地縛霊にでもなって 化けてでられたら

  怖いですからねぇ ~ 」

「 くっそ ~!

  借金残したまま あの世に 

  遁走( とん そう )したか ~! 」 

「 豚みたいに おでぶのくせに 」

「 逃げ足だけは 早かったからな 」

「 究極の とん ずら だな 」 

「 迷惑かけたままで とん でもねぇ女だ 」

「 ちきしょうめ ! とん だ 無駄足だったぜ 」


  元船長に寄り添う 喪服姿のほっそりした女性が

  彼らに声をかけました。

「 どうぞ 彼女を哀れみ お祈りを捧げて下さい 」

「 ふざけんな ! 」

「 そんな義理は ない ! 」

「 俺達は 上の命令で動いてるだけだ 」

「 取りそこねたら オイラ どれだけ どやされることか 」

「 債権回収できなきゃ 給料も出ないのにぃ 」

「 あぁもう 死んだものはしょうがない

  引き上げるぞ ! 」

「 地獄までは 追いかけられない てか 」

「 ぶ ~! ぶ ~! 」

  金融業者は ぶうぶうと 

  ぶぅたれて帰って行きました。

 
  棺には 夕日に照らされて 黄金色に輝いていた、 

  世界一美しい 小麦の穂が入れられました。

  小麦の穂は 墓前にも供えられました。

  小高い教会の墓からは 

  美しく輝く小麦畑が 一望のもと見渡せました、

  広い畑に美しい小麦が 静かに揺れていました。


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