森には キノコが生えていました。
アリスの 背丈以上の大きさです。
アリスは キノコの周囲に両手を伸ばし、
左右の手で キノコの端を それぞれ
< ぶちっ > < ぶちっ > と引きちぎりました。
「 さて、これで 片側づつを取ったことになるはず、
どっちが どっちかな ? 」
とアリスは 右手のキノコの欠片をかじってみました。
< が ぶ っ >
次の瞬間、
< が つ ~ ん ! >
「 いてぇぇえ ~! 」
アゴに 衝撃が走りました、アゴが足にぶつかったのです。
なぜならば2頭身を通り越し
1頭身になってしまったからです。
「 やっべぇぇぇええ ~!
顔から下が足 ~! 視線がとっても低いわぁ ~ 」
アリスは慌てて もう片方の
左手のキノコの欠片を飲み込みました。
< ごっくん ! >
< び ろ ~ ん ! >
「 あぁぁ、頭が自由になった ~ ! 」
とアリスは思いましたが、
すぐに 驚きに変わりました。
なぜか 頭に強烈な風圧と 加速感を感じたのです。
「 変 な の ぉ ~ ? 」
と思いながら下を見ると自分の肩が見えないのです。
見えるのは 自分の長い首で、
それは はるか下の方にある緑の森の
茂った木々の葉の間から伸びています。
「 あたしの肩は どこ ~!
どうして見えないのぉぉお ~ !
あたしの手は どこ ~! 手を振ってみなさ~い 」
アリスは手を動かしてみましたが、
ずっと下の緑の葉っぱが、
< ガサ ガサ > と 揺れるだけでした。
手を頭に持ってくるのは無理だと思ったったので
頭を手まで 下ろそうと試みました。
幸いなことに 首は自由に曲がりました。
首をクネクネと曲げ葉っぱの中に突っ込もうとしました。
その時 < バサ バサ ! > という音がして、
アリスは慌てて 顔を引っこめました。
ハトが顔に跳びかかり、
アリスを羽根で殴っています。
「 このぉお ヘビめぇぇえ ~ ! 」
と ハトが叫びました。
「 だれが ヘビやねん ! 」
と アリス。
「 長くいて ニョロニョロしてる
きしょく悪うぅうて やっぱヘビじゃないか ! 」
「 違うって 言ってるのに 」
「 お前ら どうしても来るんだね ! 」
「 何の話だか、さっぱりわかんないわ ! 」
と アリス。
「 木の根、川岸、生け垣も 営巣を試してみたのに 、
お前ら ヘビときたら、所構わず襲いやがって、
卵を まるっと丸呑みしやがってぇぇええ
~ ! 」
アリスは わけが分かりません。
「 卵を孵すだけでも たいへんな大仕事だってぇのに !
昼も夜も 卵を見張ってなきゃなんないんだから !
ずっと ヘビーな每日、
この頃、ほとんど寝てないんだよ ~! 」
「 まぁ それはそれは大変なことで、お気の毒 ~ 」
アリスは ハトがヘビから卵を守ることに
腐心していることが分かりました。
「 やっと森の中で 一番高い樹木に巣を作って、
やっとヘビから解放されたと思ったら、
空からクネクネと 降りて来やがって !
まったく お前らヘビときたら 油断ならない ! 」
「 あたし ヘビじゃないって
言ってるでしょうがぁぁああ ~ ! 」
と アリス。
「 ふん、じゃぁ あんた、いったい何者なのさ ! 」
と ハト。
「 あ、あたす アリス で ありんす、
可愛くて 可憐で おしゃれな、
そうね オードリー・ヘップバーンみたいに
首の長い 人間の女の子よ 」
と アリス。
「 バ~ロ !
もっと ましなウソついたらどうよ ! 」
と ハト。
「 えぇ~ どうみても あたしってばデビュー当時の
オードリー・ヘップバーンに クリソツでしょう 」
「 言うに事欠いて 図々しい。
お前がオードリー・ヘップバーンのわきゃないだろうが、
今まで 人間の女の子なら、たくさん見てきたけどね、
そんな長い首の女の子は、見たことないよ !
お前はヘビだよ、ごまかそうたってダメさ。
するってぇと なんだい、
今度は 『 あたしぃぃ 卵を食べたことなぁぃい 』、
なんてぇ言わけするんだろうが ! 」
「 卵なら 食べたことあるわよ 」
と 馬鹿正直にアリス。
「 ほ~ら ヘビじゃないか ! 」
「 でも 人間の女の子だって普通に卵を食べるのよ 」
「 それなら、女の子だって ヘビと一緒だろうが。
お前が 卵を狙ってるんだろう、
それは間違いないね。
女の子だろうと ヘビだろうと、
あたしにゃ 何ら違いはないだろが、違うか ! 」
「 あたしと ヘビじゃぁ 相当な違いなのよ ~ ! 」
と アリス。
「 どうだかねぇ ? 」
「 卵なんか 探してないわよ。
仮に探してても 生卵では食べないわ、
調理して 食べるのよ。
スクランブルエッグ、オムレツ、ポーチドエッグ、
エッグ・ベネディクト。
極東の島国の人たちとは違うのよ、
生卵の殻をわって ライスの上に落として、
ソイソースかけて ぐじゃぐじゃにかき混ぜて、
卵の黄身と白身とライスが渾然一体となったものを、
ズルズルと すすり込んで
朝食になんかしないわよぉおお ~! 」
「 だったら さっさと 失せろよ !
あたしゃ 種族保存、子孫繁栄のため
卵を 孵さなきゃならないんだよ !
お前に かまってるヒマはない、
おととい おいで ~! 」
と ハトは 吐き捨てるように言って、
さっさと 自分の巣に戻って行きました。
「 なるほど ハトは ハトなりに
未来への 『 ピ ジョン 』 ( はと )
じゃなくて 『 ビ ジョン 』 ( 展望 )が
あるのねぇ ~ 」
続 く