絹のカーテンがかかる部屋には、
子供の明るい未来を 祝福するかのように
暖炉の火が 絶やされることなく 燃え続けていました。
暖かさの中 母親と子供は ぐっすりと眠っています。
子供の上には、人の目には見えない
キラキラと美しく輝く 真珠を散りばめた
ブランケットが 広げてありました。
それは 親切な妖精たちが持ってきた、
人生のための 幸福の贈り物で、
一つ一つの真珠が
『 健康な 体 』
『 美味しい ご馳走 』
『 楽しい 遊び 』
『 仲の良い お友だち 』
などを 現しているのです。
この家を守るために 住み着いた
新任の精霊が、にっこり笑って言いました。
「 これで、全部の贈り物が そろいましたね、
この子は 完全な一生を、送ることでしょう 」
すると、子供を守る精霊が 答えました。
「 いいえ、実は、、、、
まだ一人の妖精が、
贈り物を持ってきていません。
最後の真珠が まだなのです 」
「 何と言う事でしょう。
この子の これからの人生に、
足りない物があってはいけません。
今すぐに、その妖精を 探さなくては 」
家を守る精霊の言葉に、子供を守る精霊が
落ち着くように言いました。
「 そんなに 慌てる必要はありません、いつか必ず来ますよ 」
「 いえ、待っているぐらいなら、私が取りに行きます、
急ぎましょう どこへ行けば、良いのですか ? 」
「 最後の真珠は 急がなくても良いのです 」
「 そうはいきません、、
家を守る私の 初めての仕事です。
この子の 幸せを 人生を、
一刻も早く、完全なものにしなければ、
それも 私の使命の一つです 」
すると、子供を守る精霊は、仕方なく言いました。
「 そこまで言うのなら、、、、
最後の妖精のいる所へ
連れて行ってあげましょう 」
子供を守る精霊は、家を守る精霊の手を取って
飛んで行きました。
そして飛びながら、最後の妖精について話しました。
「 最後の妖精は、
決まった場所に いるのではないのです。
王族や貴族の お城にも、
富める人の家にも、貧しき人の家にも、誰の家にも、
どこの国にも、必ず 最後の贈り物を持って行くのです。
確か今は、この辺りの家に来ているはずです 」
子供を守る精霊は 一軒の
町外れの、お屋敷を見つけました。
「 最後の妖精は 今、ここの家に います 」
子供を守る精霊が 案内したのは、
火の気のない 寒く、暗い部屋でした。
その部屋には、父親と子供達だけしかいません。
一番小さい子は、父親に抱かれています、
他の子も 父親にしがみついています。
この家の母親が、病気で亡くなってしまったのです。
葬儀を終えた、父親と子供たちの頬は 涙にぬれて、
すすり泣く声が 部屋に響いています。
家を守る精霊が、子供を守る精霊に言いました。
「 贈り物を持っているはずの最後の妖精は いませんね 」
「 いいえ、そこに いますよ 」
子供を守る精霊は、
今は火の消えた 暖炉の前の、
揺り椅子を 指差しました。
それは、母親が生きていた時、
子供たちを膝に乗せて 遊ばせていた椅子です。
その椅子には、影のような女の人が
深い蒼い色の服を着て うなだれるように腰かけています。
子供を守る精霊は、そっと言いました。
「 あそこにいるのが 最後の妖精、悲しみの妖精です 」
その時、悲しみの妖精の目から涙が 一滴 こぼれ落ちて
見る見るうちに 七色に輝く真珠になりました。
子供を守る精霊は、その真珠を 手に取って言いました。
「 この真珠は、悲しみです。
これで、あの子供への贈り物は 全部そろいました。
人は悲しみを知ると本当の幸福が 理解できるようになり、
自分にも他の人にも、優しくすることが出来るのです。
子供は、たっぷりと 幸せな時間を過ごし、
やがて成長した後、悲しみを知る、
人として、人生の本当の意味を知るために。
そのために必要な物が 最後の真珠なのです
家を守る精霊は その言葉を聴かず 喜び勇んで、
子供を守る精霊から 真珠を奪い取りました。
「 これさえあれば 完璧ですね、
早く 与えてあげなければ
急いで帰りましょう 」
「 いや 急がないほうが 良いのですよ 」
「 そんな事は ないでしょう 善は急げです 」
うきうきと 家を守る精霊は、
浮かぬ顔をした 子供を守る精霊と
子供の眠る家へ 急いで帰りました。
「 これさえあれば この子の人生は
完璧になるのでしょう ? 」
「 そうです でも 、、、、、
最後の真珠は まだ与えてはいけませんよ 」
「 なにを 惜しむことがあるのです 」
「 物事には 時期というものも必要なのです 」
しかし、焦る家を守る精霊は
ぐっすりと眠る子供に 最後の真珠を与えました。
「 あ ぁ ! 」
子供を守る精霊は 止めようとしました。
しかし 人の眼に見えないブランケットに、
最後の真珠は 取り付けられたのです。
赤々と燃える暖炉の 暖かい部屋の中、
安堵し満足そうな顔で 家を守る精霊は言いました。
「 これで良い 一安心、
肩の荷も 下りたような気持ちです。
私も のんびりできそうです 」
家を守る精霊は 慢心してしまいました、
暖炉の炎は ゆらゆらと 燃えていました。
「 この子の人生が 幸 多からんことを うふふっ 」
子供を守る精霊は 心配そうに
ただ、子供を見つめるだけでした。
そ し て
精霊たちが 思うよりも 早く
悲しみは この家を、
訪れる事になったのです 、、、、、。
おしまい