悲しみの真珠 | 藤花のブログ 詩と

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この胸に 湧き上がる気持ちを 言葉にして あなたに贈りたい

  絹のカーテンがかかる部屋には、

  子供の明るい未来を 祝福するかのように

  暖炉の火が 絶やされることなく 燃え続けていました。

  暖かさの中 母親と子供は ぐっすりと眠っています。


  子供の上には、人の目には見えない

  キラキラと美しく輝く 真珠を散りばめた 

  ブランケットが 広げてありました。


  それは 親切な妖精たちが持ってきた、

  人生のための 幸福の贈り物で、

  一つ一つの真珠が 


 『 健康な 体 』 

 『 美味しい ご馳走 』 

 『 楽しい 遊び 』 

 『 仲の良い お友だち 』 


  などを 現しているのです。


  この家を守るために 住み着いた

  新任の精霊が、にっこり笑って言いました。


「 これで、全部の贈り物が そろいましたね、

  この子は 完全な一生を、送ることでしょう 」


  すると、子供を守る精霊が 答えました。


「 いいえ、実は、、、、

  まだ一人の妖精が、

  贈り物を持ってきていません。

  最後の真珠が まだなのです 」


「 何と言う事でしょう。

  この子の これからの人生に、

  足りない物があってはいけません。

  今すぐに、その妖精を 探さなくては 」


  家を守る精霊の言葉に、子供を守る精霊が 

  落ち着くように言いました。


「 そんなに 慌てる必要はありません、いつか必ず来ますよ 」


「 いえ、待っているぐらいなら、私が取りに行きます、

  急ぎましょう どこへ行けば、良いのですか ? 」


「 最後の真珠は 急がなくても良いのです 」


「 そうはいきません、、

  家を守る私の 初めての仕事です。

  この子の 幸せを 人生を、

  一刻も早く、完全なものにしなければ、

  それも 私の使命の一つです 」


  すると、子供を守る精霊は、仕方なく言いました。


「 そこまで言うのなら、、、、

  最後の妖精のいる所へ 

  連れて行ってあげましょう 」


  子供を守る精霊は、家を守る精霊の手を取って

  飛んで行きました。

  そして飛びながら、最後の妖精について話しました。


「 最後の妖精は、

  決まった場所に いるのではないのです。

  王族や貴族の お城にも、

  富める人の家にも、貧しき人の家にも、誰の家にも、

  どこの国にも、必ず 最後の贈り物を持って行くのです。

  確か今は、この辺りの家に来ているはずです 」


  子供を守る精霊は 一軒の 

  町外れの、お屋敷を見つけました。


「 最後の妖精は 今、ここの家に います 」



  子供を守る精霊が 案内したのは、

  火の気のない 寒く、暗い部屋でした。

  その部屋には、父親と子供達だけしかいません。

  一番小さい子は、父親に抱かれています、

  他の子も 父親にしがみついています。

  この家の母親が、病気で亡くなってしまったのです。

  葬儀を終えた、父親と子供たちの頬は 涙にぬれて、

  すすり泣く声が 部屋に響いています。


  家を守る精霊が、子供を守る精霊に言いました。


「 贈り物を持っているはずの最後の妖精は いませんね 」


「 いいえ、そこに いますよ 」


  子供を守る精霊は、

  今は火の消えた 暖炉の前の、

  揺り椅子を 指差しました。
 
  それは、母親が生きていた時、

  子供たちを膝に乗せて 遊ばせていた椅子です。

  その椅子には、影のような女の人が

  深い蒼い色の服を着て うなだれるように腰かけています。

  子供を守る精霊は、そっと言いました。


「 あそこにいるのが 最後の妖精、悲しみの妖精です 」


  その時、悲しみの妖精の目から涙が 一滴 こぼれ落ちて

  見る見るうちに 七色に輝く真珠になりました。

  子供を守る精霊は、その真珠を 手に取って言いました。


「 この真珠は、悲しみです。

  これで、あの子供への贈り物は 全部そろいました。

  人は悲しみを知ると本当の幸福が 理解できるようになり、

  自分にも他の人にも、優しくすることが出来るのです。

  子供は、たっぷりと 幸せな時間を過ごし、

  やがて成長した後、悲しみを知る、

  人として、人生の本当の意味を知るために。

  そのために必要な物が 最後の真珠なのです 


  家を守る精霊は その言葉を聴かず 喜び勇んで、 

  子供を守る精霊から 真珠を奪い取りました。 


「 これさえあれば 完璧ですね、

  早く 与えてあげなければ

  急いで帰りましょう 」
 

「 いや 急がないほうが 良いのですよ 」


「 そんな事は ないでしょう 善は急げです 」


  うきうきと 家を守る精霊は、

  浮かぬ顔をした 子供を守る精霊と 

  子供の眠る家へ 急いで帰りました。


「 これさえあれば この子の人生は 

  完璧になるのでしょう ? 」


「 そうです でも 、、、、、 

  最後の真珠は まだ与えてはいけませんよ 」


「 なにを 惜しむことがあるのです 」


「 物事には 時期というものも必要なのです 」


  しかし、焦る家を守る精霊は

  ぐっすりと眠る子供に 最後の真珠を与えました。


「  あ ぁ !  」


  子供を守る精霊は 止めようとしました。


  しかし 人の眼に見えないブランケットに、

  最後の真珠は 取り付けられたのです。


  赤々と燃える暖炉の 暖かい部屋の中、

  安堵し満足そうな顔で 家を守る精霊は言いました。

 
「 これで良い 一安心、

  肩の荷も 下りたような気持ちです。

  私も のんびりできそうです 」


  家を守る精霊は 慢心してしまいました、

  暖炉の炎は ゆらゆらと 燃えていました。


「 この子の人生が 幸 多からんことを うふふっ 」


  子供を守る精霊は 心配そうに 

  ただ、子供を見つめるだけでした。















  そ し て 

  精霊たちが 思うよりも 早く 

  悲しみは この家を、

  訪れる事になったのです 、、、、、。



     おしまい



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