偽作 不思議の国のアリス 17 | 藤花のブログ 詩と

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この胸に 湧き上がる気持ちを 言葉にして あなたに贈りたい



  イモムシとアリスは無言で互いを見つめていました。

  イモムシが、口から水パイプを離して、

  めんどうくさそうな、けだるい声で、

「 君は 誰だ ? 」 と 問い掛けました。


  アリスは 答えました。

「 あ、あ、あたす アリス で ありんす。

  ずいぶん ちっちゃくなっちゃったけど、

  ウサギでも無く ネズミでもない 霊長類のヒト、

  でも 確実にそうかと問われると、

  昨日までは 自分が何者かは 分かってたけど、

  でも あたしに 色々変化が起きて 」


「 それは どういうことなのだね ? 」

  と イモムシ。


「 えぇっとぉ 、、、 」


「 君は 自分の言いたいことも言えないのかね 」


「 なんて説明をしたらいいのやら、

  だって今日のあたしは、昨日のあたしじゃないんですぅ 」

  アリスは言いました。


「 具体的には どう違っているのかな ? 」


「 具体的って ?

  自分でも わけがわからないし、

  一日で こんなに大きさが 変化すると、

  すごく 脳みそがシェイクされて混乱するんです 」


「 さっぱり 分からない 」 と イモムシ。


「 まあ、あなたも いずれ

  多分 奇妙な気分になると思うんですけど 

  理解できませんか ? 」


「 できない 」 と イモムシ。


「 あたしが 言えるのは、

  あたしには 奇妙な感じだってことです 」


「 奇妙な感じなのは こっちだ ! 」 

  と イモムシは言いました。

  互いに にらみ合いになりました。


「 結局 君は 誰 ? 」


  話が 振り出しに戻りました。

  アリスは ちょっと頭にきました。


「 思うんだけど、あなたも ご自身のことを

  まず 話してくれないと 」


「 な ぜ ? 」 と イモムシ。


「 自己紹介は 尋ねた方からするのが マナーですよ 」


「 ふ~ん そうかい、

  私は 今ここに存在する、

  君が見たままで それ以上でも それ以下でもないのだ 」 


「 あなたは イモムシなのね ? 」

  アリスは言いました。


「 ほう 興味深い 

  それが 君が私を認識するために使う

  私に対する名詞なのかね ? 」


「 そうねぇ 世間一般に そう呼ばれているわ 」


「 イモ と言うのは何かな ? 」


「 食用にする でんぷん質の多い植物 野菜よ 」


「 ムシは ? 」


「 昆虫を 一般的に そう呼んでいるの 」


「 ならば 食用植物昆虫というわけだね 」


「 まぁ そうとも 言えるかもね 」


「 我々は やがて メタモルフォーゼする、

  その場合も イモムシなのかね ? 」


「 サナギになって 羽化して 蝶になるのよ 」


「 ちょうか ? 」


「 蛾に なるかもね ? 」


「 が ? 」


「 そう 汚らしいの 」


「 汚いとは ? 」


「 あたしたちの 美意識に そぐわないの 」


「 美意識に そぐわないと 何か問題があるのかな ? 」


「 生理的に 甘受出来ないってことかな 」


「 それは 論理的に導かれた結論ではなく、

  裏付けのない感情だけなのではないのかね ? 」


「 まぁね 好き嫌いがあるというだけよ 」


「 ふむ 興味深い。

  それが君たちヒトの大好きな 差別的な行為なのだろう、

  取るに足らぬ異差を あげつらい 貶め 諍いを起こし、

  やがては 戦争にと 推し進めているのだね 」


「 ヒトは他者を貶めて 優越感を持たないと

  愚かな自尊心を満足させることができず、

  生きずらいものなのかもね 」


「 ふむ ふむ 」


「 まぁ 人の歴史は 戦争の歴史、

  殺し合いは人が続く限り いつまでも付き纏うのよ、

  だって 『 償いをさせる ! 』

  って 言う勇ましい言葉を評価する人が とても多いですもの。

  憎しみは憎しみを連鎖させ、増大肥大拡大再生産して、

  また関係のない無辜な人々を 殺戮の嵐に巻き込むのよ 」


「 うむ うむ 」


「 でも、他者の価値のある物を奪うという

  美味しい経済的側面もあるのよね、

  埋蔵物資源の権利とかね、

  正義の御旗の裏で がっちり儲けるスタイル ? 」


「 ほう ほう 」


「 もっとも それは 安全な場所にいる権力者や

  政商 武器産業だけだけどね。

  愚かな庶民は 正義を声高に叫ぶ

  口と頭の軽い権力者に 付和雷同しがちだわぁ、

  敵対する相手に対する憎悪を 無意味に掻き立てられ

  一時の感情に突き動かされ、

  やがて どこの国でも 熱狂に浮かれた一般庶民は

  事が起きれば 貧乏くじだけ引かされ 蹂躙されるのよ。

  みんな そんな事には気づかないものなのよねぇ、

  政府の言う事は正しい、長い物にまかれろ、

  平和を唱える奴は 反国家主義者だ !

  なんて考えをして 自分だけは大丈夫とか思いこんでね。

  結局、最終破壊兵器を喰らわないと わからないのかもね、

  この世に 地獄が生まれ、

  そこに 巻き込まれないかぎりはね、

  一瞬で 焼きつきされる事も知らずにね、

  うふうふうふうふふふ ♪ 」


「 君も 強欲で強奪する側の レイシストなのか ? 」

「 どうかしらねぇ 絶対にレイシズムを否定するかといえば

  正直わからないわ、だって まだ夢見る少女ですもの、

  気色悪い イモムシ ウジ虫 毛虫 ゲジゲジより

  色男の ジョニー・デップや ブラピや

  ベネディクト・カンバーバッチの方が好き。

  タックス・ヘイブンに口座持ってる金持ちに擦り寄って

  安楽で豪華で派手な生活もしたいじゃない ?

  グレイス・ケリーなんて理想よねぇ、

  ケリーバッグも欲しいわぁ ~♪、

  愛のある 非正規労働者より、

  金のある 不正蓄財者のほうが好き、

  それが一般的な普通の女の子の感覚でしょう ?

  わたし ペシミストじゃないわ、 オプティミストかも、

  ノベリストになりたいし、パシフィニストであろうと思うわ、

  でも 抗議のため ハンガーストはしないわ、

  だって 食べるのが好きだもの、

  私は 食物のイモは 好きよ ♪ 

  スイートポテト、ポテトフライ、ポテトチップス、

  焼いても、蒸しても、フライにしてもいいわ 」


  イモムシは サッと顔色を変えました。


「 あっ あなたを 食べるということじゃないわ、

  植物のイモの方よ さすがに我が家には

  イモムシを食べるという ゲテモノ食文化はないわ 」


「 私の存在は ゲテモノか !? 」


「 いや それは 言葉の綾であってぇ 、、、 」


  何となく微妙な空気になったので、

   アリスは ここを離れることにしました。


「 戻っておいで ! 」 

  と イモムシが後ろから呼びました。


「 えっ ? 」


「 大事な話がある ! 」

 
  アリスは 戻ってきました。

「 君は どんな大きさになりたいのかね ? 」

  と イモムシがたずねます。


「 あ、大きさは そこそこでいいの 」

  ただ、こんなにしょっちゅう

  極端に大きさが変わるのが 不便なの 」


「 それで 今の状態には 満足なのかい ? 」 


「 まあ、もっと大きくなりたいわ。

  身長 8センチだと、危険なことも多いんですもの 」


「 ほど良い身長だと思うがな 」

  と イモムシは 立ち上がってみせました

  ほぼ身長 8センチでした。


「 でも あたしは このサイズに慣れてないんですもの 」

 
「 このままでいれば いずれは慣れるだろうがな、

  あるがままを 受け入れることも 

  生物が生きる上で 大切なことであると思う、

  万物の成り立ちには 必然性があるのだよ 」

  と イモムシは 水パイプをふかしはじめました。


「 まだ あたしは若いし そこまで悟れないわ 」


「 片側で 背が伸びる、反対側で 背が縮む 」

  イモムシは水パイプを口から出して言いました。


「 片側って 何 ? 

  反対側って、なんの ? 」


「 キ ノ コ 」 

  と イモムシが言い、去って行きました。


  アリスは キノコを眺めていました。


「 どこからが半分なの ? どこが片側になるの ? 」


  キノコは丸型で、

  アリスには どこから どこまでが 

  半分に相当するのか わからなかったのです。

  


      続 く