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イモムシとアリスは無言で互いを見つめていました。
イモムシが、口から水パイプを離して、
めんどうくさそうな、けだるい声で、
「 君は 誰だ ? 」 と 問い掛けました。
アリスは 答えました。
「 あ、あ、あたす アリス で ありんす。
ずいぶん ちっちゃくなっちゃったけど、
ウサギでも無く ネズミでもない 霊長類のヒト、
でも 確実にそうかと問われると、
昨日までは 自分が何者かは 分かってたけど、
でも あたしに 色々変化が起きて 」
「 それは どういうことなのだね ? 」
と イモムシ。
「 えぇっとぉ 、、、 」
「 君は 自分の言いたいことも言えないのかね 」
「 なんて説明をしたらいいのやら、
だって今日のあたしは、昨日のあたしじゃないんですぅ 」
アリスは言いました。
「 具体的には どう違っているのかな ? 」
「 具体的って ?
自分でも わけがわからないし、
一日で こんなに大きさが 変化すると、
すごく 脳みそがシェイクされて混乱するんです 」
「 さっぱり 分からない 」 と イモムシ。
「 まあ、あなたも いずれ
多分 奇妙な気分になると思うんですけど
理解できませんか ? 」
「 できない 」 と イモムシ。
「 あたしが 言えるのは、
あたしには 奇妙な感じだってことです 」
「 奇妙な感じなのは こっちだ ! 」
と イモムシは言いました。
互いに にらみ合いになりました。
「 結局 君は 誰 ? 」
話が 振り出しに戻りました。
アリスは ちょっと頭にきました。
「 思うんだけど、あなたも ご自身のことを
まず 話してくれないと 」
「 な ぜ ? 」 と イモムシ。
「 自己紹介は 尋ねた方からするのが マナーですよ 」
「 ふ~ん そうかい、
私は 今ここに存在する、
君が見たままで それ以上でも それ以下でもないのだ 」
「 あなたは イモムシなのね ? 」
アリスは言いました。
「 ほう 興味深い
それが 君が私を認識するために使う
私に対する名詞なのかね ? 」
「 そうねぇ 世間一般に そう呼ばれているわ 」
「 イモ と言うのは何かな ? 」
「 食用にする でんぷん質の多い植物 野菜よ 」
「 ムシは ? 」
「 昆虫を 一般的に そう呼んでいるの 」
「 ならば 食用植物昆虫というわけだね 」
「 まぁ そうとも 言えるかもね 」
「 我々は やがて メタモルフォーゼする、
その場合も イモムシなのかね ? 」
「 サナギになって 羽化して 蝶になるのよ 」
「 ちょうか ? 」
「 蛾に なるかもね ? 」
「 が ? 」
「 そう 汚らしいの 」
「 汚いとは ? 」
「 あたしたちの 美意識に そぐわないの 」
「 美意識に そぐわないと 何か問題があるのかな ? 」
「 生理的に 甘受出来ないってことかな 」
「 それは 論理的に導かれた結論ではなく、
裏付けのない感情だけなのではないのかね ? 」
「 まぁね 好き嫌いがあるというだけよ 」
「 ふむ 興味深い。
それが君たちヒトの大好きな 差別的な行為なのだろう、
取るに足らぬ異差を あげつらい 貶め 諍いを起こし、
やがては 戦争にと 推し進めているのだね 」
「 ヒトは他者を貶めて 優越感を持たないと
愚かな自尊心を満足させることができず、
生きずらいものなのかもね 」
「 ふむ ふむ 」
「 まぁ 人の歴史は 戦争の歴史、
殺し合いは人が続く限り いつまでも付き纏うのよ、
だって 『 償いをさせる ! 』
って 言う勇ましい言葉を評価する人が とても多いですもの。
憎しみは憎しみを連鎖させ、増大肥大拡大再生産して、
また関係のない無辜な人々を 殺戮の嵐に巻き込むのよ 」
「 うむ うむ 」
「 でも、他者の価値のある物を奪うという
美味しい経済的側面もあるのよね、
埋蔵物資源の権利とかね、
正義の御旗の裏で がっちり儲けるスタイル ? 」
「 ほう ほう 」
「 もっとも それは 安全な場所にいる権力者や
政商 武器産業だけだけどね。
愚かな庶民は 正義を声高に叫ぶ
口と頭の軽い権力者に 付和雷同しがちだわぁ、
敵対する相手に対する憎悪を 無意味に掻き立てられ
一時の感情に突き動かされ、
やがて どこの国でも 熱狂に浮かれた一般庶民は
事が起きれば 貧乏くじだけ引かされ 蹂躙されるのよ。
みんな そんな事には気づかないものなのよねぇ、
政府の言う事は正しい、長い物にまかれろ、
平和を唱える奴は 反国家主義者だ !
なんて考えをして 自分だけは大丈夫とか思いこんでね。
結局、最終破壊兵器を喰らわないと わからないのかもね、
この世に 地獄が生まれ、
そこに 巻き込まれないかぎりはね、
一瞬で 焼きつきされる事も知らずにね、
うふうふうふうふふふ ♪ 」
「 君も 強欲で強奪する側の レイシストなのか ? 」
「 どうかしらねぇ 絶対にレイシズムを否定するかといえば
正直わからないわ、だって まだ夢見る少女ですもの、
気色悪い イモムシ ウジ虫 毛虫 ゲジゲジより
色男の ジョニー・デップや ブラピや
ベネディクト・カンバーバッチの方が好き。
タックス・ヘイブンに口座持ってる金持ちに擦り寄って
安楽で豪華で派手な生活もしたいじゃない ?
グレイス・ケリーなんて理想よねぇ、
ケリーバッグも欲しいわぁ ~♪、
愛のある 非正規労働者より、
金のある 不正蓄財者のほうが好き、
それが一般的な普通の女の子の感覚でしょう ?
わたし ペシミストじゃないわ、 オプティミストかも、
ノベリストになりたいし、パシフィニストであろうと思うわ、
でも 抗議のため ハンガーストはしないわ、
だって 食べるのが好きだもの、
私は 食物のイモは 好きよ ♪
スイートポテト、ポテトフライ、ポテトチップス、
焼いても、蒸しても、フライにしてもいいわ 」
イモムシは サッと顔色を変えました。
「 あっ あなたを 食べるということじゃないわ、
植物のイモの方よ さすがに我が家には
イモムシを食べるという ゲテモノ食文化はないわ 」
「 私の存在は ゲテモノか !? 」
「 いや それは 言葉の綾であってぇ 、、、 」
何となく微妙な空気になったので、
アリスは ここを離れることにしました。
「 戻っておいで ! 」
と イモムシが後ろから呼びました。
「 えっ ? 」
「 大事な話がある ! 」
アリスは 戻ってきました。
「 君は どんな大きさになりたいのかね ? 」
と イモムシがたずねます。
「 あ、大きさは そこそこでいいの 」
ただ、こんなにしょっちゅう
極端に大きさが変わるのが 不便なの 」
「 それで 今の状態には 満足なのかい ? 」
「 まあ、もっと大きくなりたいわ。
身長 8センチだと、危険なことも多いんですもの 」
「 ほど良い身長だと思うがな 」
と イモムシは 立ち上がってみせました
ほぼ身長 8センチでした。
「 でも あたしは このサイズに慣れてないんですもの 」
「 このままでいれば いずれは慣れるだろうがな、
あるがままを 受け入れることも
生物が生きる上で 大切なことであると思う、
万物の成り立ちには 必然性があるのだよ 」
と イモムシは 水パイプをふかしはじめました。
「 まだ あたしは若いし そこまで悟れないわ 」
「 片側で 背が伸びる、反対側で 背が縮む 」
イモムシは水パイプを口から出して言いました。
「 片側って 何 ?
反対側って、なんの ? 」
「 キ ノ コ 」
と イモムシが言い、去って行きました。
アリスは キノコを眺めていました。
「 どこからが半分なの ? どこが片側になるの ? 」
キノコは丸型で、
アリスには どこから どこまでが
半分に相当するのか わからなかったのです。
続 く