「 ねぇ ピーター 、、、
フック船長は あなたの 双子の弟さんなの ?
「 まぁね でも大昔のことさ、
今じゃ あんな奴 弟でも何でもないさ
兄弟は 他人の始まりってね ふふふっ ♪ 」
「 もともとは ティンカー・ベルが
あなたを この島に 連れてきたのね 」
「 そうだよ ちょうど 今の 君たちのようにね 」
「 あなたは 歳をとることを 望まないのね 」
「 ピンポ~ン ♪ そのとおり
僕は永遠の子供さ 大人になんか なるものか ! 」
「 フック船長の 言ったことが正しければ
あなたは ティンカー・ベルに
永遠の時の中に 閉じ込められてしまったんだわ 」
「 それが悪い事かい ?
僕は満足しているんだよ この生活をね ふふっ ♪ 」
「 でも あなた方は 子供たちを 、、、 」
「 えっ ? なんだってぇ ! 」
ピーター・パンの 顔色が サッと変わりました。
「 いえ 何でもないわ 、、、、
ピーター、私たち 家に帰りたいの 」
ウェンディーは 震えながら
ピーター・パンに頼みました、
フック船長が言っていた 新しい墓が増えている
その言葉が 気になっていたのです。
「 おやぁ 楽しくなかったのかい ?
僕の活躍は すごく、かっこ良かったろう ? 」
「 そっ それは 、、、 」
「 われながら 惚れ惚れするよ、
賞賛の拍手は ないのかなぁ ? 」
最後は無様で 反撃出来ず、
防戦一方だったことは
都合よく もう忘れてしまっているようです。
「 これが子供の喜ぶ、冒険の醍醐味なのになぁ
ウケないと 張り合いがないや あははは ♪ 」
「 私、死ぬほど怖かった、もう、ここには いられないわ 」
「 チッ ! しかたないなぁ 、、、、、
まぁいいや 楽しくないなら、家に帰れよ ! 」
フック船長たちを追い払い、上機嫌のピーターパンは、
あっさり、冷たく言い放ちました。
もしかすると 母性に芽生え
大人の自覚を始めたウェンディーの存在は
ピーター・パンにとって、
疎ましくなったのかも知れません。
いえ、いつか ウェンディーは
ピーター・パンや ティンカー・ベルの
存在そのものを 否定する日が来る、
その事を、彼は恐れているのかも知れません。
「 ねぇ ティンカー・ベル~
ウェンディーは 家に帰りたいんだってさ 」
「 ふ~ん さては ビビったわね、
私達の 秘密に 感づいているのかも 、、
他の子どもたちに 何やら
余計なことを 吹き込まれると まずいわ。
それならば 家に帰したほうが良さそうね 」
ティンカー・ベルが、妖精の粉をかけると、
海賊船は フワリと空に 浮かび上がりました。
「 さぁ 出帆だ ! 」
船は ウェンディーたちの家へと進みました。
そして、ようやく家へ着くと、
ウェンディーたちは 窓から子ども部屋に飛び込みました、
そこには 心配していた お母さんがいました。
「 ただいま、ママ ~! 」
「 ただいま ~ 」
「 やっと 帰れたぁ ~ 」
「 おゃ ウェンディー、ジョン、マイケル、
よかった やっと、眼を覚ましたのかい、
熱も ようやく下ったんだねぇ、
みんな 高熱が続いて ず~っと 眠り続けていて、
このまま 死んでしまうのではないかと、
パパもママも とっても心配していたんだよ 」
「 だまって出て行って、ごめんなさい。
あたしたちね、ピーター、パンと冒険に出ていたの
ほら あの船で帰ってきたのよ 」
「 出ていって だって ?
何を言っているの ?
夢でも 見ていたのかい ?
ずっと ベッドに寝ていたじゃないの
きっと まだ 熱があるのね 」
後ろを振り返り、窓の外を見ると、
ピーターと ティンカー・ベルと
幼い子どもたちを乗せた海賊船は
向きを変え、ネバーランドに帰るところでした。
「 あの船に乗って 帰ってきたのよ 」
「 ええぇっ ?
私には 何も見えないけど ?
ねぇ 頭は だいじょうぶかい ? 」
母親には 普段と変りない 外の風景が見えるだけです。
飛んでいく海賊船に乗った ピーターパンを見送りながら、
ウェンディーたちは、少し悲しくなりました、
もう、ネバーランドに行くことも無いだろう、そう思いました。
いろいろな経験をして、少し大人になったような気がしました。
そして、ウェンディの眼には ピーターパンの姿が、
霞んで 消えかかっているように見えました。
「 ピーター・パン ~! ティンカー・ベル ~! 」
ウエンディーたちは、お別れに 手を振りました。
そんな ウェンディーたちに、
ピーターは手を振り返すと 言いました。
「 ネバーランドに来たいと思った時は、
いつでも僕を呼んでおくれ、
もし、君が 僕の存在を望み
君自身も 永遠の若さを望むのならね。
きっと、すぐに迎えに行くから。
これからも 僕は 思うがままに生きるんだ、
誰にも 邪魔させはしないのさ、
あはははっ あはははははっ ♪ 」
ティンカー・ベルも
ピーターの傍らで 妖しく微笑みました。
ネバーランドから帰ってきて、ずいぶん経ちました、
ウェンディーは 時折 考えます。
遠い空の彼方の 不思議な島の住人たちを、
若さと 老い、
自由への渇望、果たさねばならない責任、
相克する魂の せめぎ合い。
ピーターパンとフック船長は、
誰の心にも住む、二律背反、
自己矛盾の 存在なのではないのかと、
そして 与えられるだけの 代償を払わない
” 理 想 の 国 ” など
どこにも 有りはしないのだろうと。
もしかしたら 私達が 足を踏み入れた あの島は
黄泉の国への 入り口だったのではなかったのか
そして あの 多くの子供達は 何らかの理由で
大人になれないまま この世を去る 定めの
可哀想な 子供達だったのかも、
子供達は 天国に行く前に
心いくまで ネバーランドで 遊んでいたのかもしれない、
この世に 未練を残さないためにも と 、、、、。
ピーター・パンは、今もネバーランドの
文字を刻んだ 大きな石の置かれた
冷たい 地面の下の 狭い部屋に住んでいます。
彼が 何処からか連れてきた 子供たちと一緒に。
誰かが、ピーターパンの存在を 望む限り、
歳を取ることもなく、
永遠の 子供として、
彼は その地に
生き 続けるのです、
いつまでも、
いつまでも、
いつまでも。
おしまい