クリスマスイブの夜、
痛み止めの モルヒネを打ったスクルージは
ベッドで ぼんやりとしていました。
いつしか 空間がねじれるような 奇妙な感覚に襲われました
部屋が 霧に包まれたようになり
やがて霧の中から 元共同経営者のマーレィが現れました
「 やぁ 久しぶり 元気にしているかい？
病気とかしてないかい？
いまも、相変わらず 強引な商売をしているようだな 」
「 はて ？ マーレイ 君は ７年も前に 死んだはずだが ？ 」
「 昔のよしみで 忠告に来たのだ
その強欲のままで死んだら
とりかえしのつかない事になるぞ ！、」
「 具体性に欠けて、何を言っているのか わけがわからんのだが ？ 」
「 これから お前を救うため、
三人のクリスマスの精霊が 次々現れるから、
しっかり耳の穴かっぽじって 彼等の言うことを聞けよ ！ 」
「 精霊が ワシに 何の用があるのだ ？ 」
「 お前は このままでは 地獄に落ちるぞ
今の生き方を 悔い改めるのだ
地獄に行かなかったら 天国でまた会おう じゃぁな～ 」
マーレイの姿は消え、やがて第一の精霊が現れました。
「 あんた だれじゃい ？ 」
「 わしは『 過去のクリスマスの精霊 』なのだ
これから お前の過去を思い出させてやるのだ
これでいいのだ 」
スクルージの 幼かった頃の 姿が見えました。
「 父ちゃん ウチには なぜ サンタさんがこないの ？ 」
「 貧乏だからなぁ 」
「 貧乏だとサンタさんが こないの ？ 」
「 そうだ 貧乏人の所は サンタは避けて通る 」
「 じゃぁ クリスマスだから 父ちゃんが オモチャかって～！ 」
「 駄目だ ！ 」
「 友達は みんな もってるよ 」
「 人は人 うちは うち 」
「 どうして ？ 」
「 金が ないからだ 」
「 どうしてないの？ 」
「 帝国主義下で 植民地からの搾取や 産業革命のおかげで
大英帝国や 資本家連中は 潤ってはいるが
一介の労働者は ただただ搾取され やっと生きているだけだ
われわれは 女王バチに奉仕する 働きバチのようなものさ
お前は大きくなったら 甘い蜜を吸える 搾取する側にまわれ
それが 賢い生き方というものだ 」
父親は大酒を飲みながら言いました。
「 そうか 貧乏だから 父ちゃんは あまり食べないで、
朝から たくさん お酒を飲むんだね そうなんでしょう ？ 」
それを聞き 母親は、すすり泣いていました。
やがてスクルージが働き出し、金を稼ぐようになると
もうオモチャは 欲しくはなくなりましたが
金儲けこそが スクルージの生きるための意義になりました。
次は 青年になった頃を見せられました、
彼女とのクリスマスの思い出です。
「 ねぇ クリスマスなんだから
たまには 美味しい物を食べたいわ
安くてもいいから どこか レストランに行きたいわ 」
「 無駄だ ！ 」
「 どうして ？ 」
「 食事は 生命維持活動に必要量のカロリー、栄養を摂れればいいのさ
レストランの家賃や、シェフや、給仕の給料を払うために
わたしは 稼いでいるわけではない ！ 」
「 それなら私が料理するわ じゃぁ お部屋に飾る お花を買ってくださる ？ 」
「 無駄だ！ やがて枯れ朽ちてしまう そんな物のために 金は使えん 」
「 ふ～ん じゃぁ もうすぐ 私の誕生日なの 何かプレゼントくださる ？ 」
「 誕生日か 毎年あるんだろぅ？ しかたないなぁ、、、
では １ペニー銅貨を あげよう 大切に使えよ 」
「 なんだと～！ 子どもの小遣い以下かよ～？
あ～あっ 私も安く見られたもんだ、
このドケチ！ 私の人生から出ていきなさい～！ 」
守銭奴のスクルージに 憤慨して去っていった恋人、
今までは思い出さないように 心の中に封印した過去の出来事に、
スクルージの涙が流れました。
「 ２ペンス銅貨にしておけば 良かったのかなぁ ？ 」
次の精霊が 現れました。
「 あんたは だれ～？ 」
「 だれってか？ そうです わたすがぁ『 現在のクリスマスの精霊 』です 」、
精霊は クラチットの家へ連れて行きました。
自分の使用人の一家が貧しさに苦しみながらも、
楽しく和やかにクリスマスを祝っている様子が見えました
「 今年は チキンさえ 買えなかった 許してくれ 」
パンとスープだけの 侘しい食卓でした。
「 しかたないですよ あなた 勤め先が倒産して
転職して お給料が下がってしまったのだもの 」
「 相場より そうとう低いのだが 歳も歳だし 他には働き口はなかったんだ 」
「 いいんだよ パパ 僕 クリスマスプレゼントを もらったから 」
彼の息子のティムは 病気がちで 足が不自由でした。
クラチットは息子のため 素人細工の松葉杖を作ったのでした。
「 せめて ボーナスでも出れば良かったのにぇ あなた 」
「 吝嗇家で有名なスクルージさんだ 残念だが 無理だ 」
「 私たちだけなら いいのですが、
でも この子の病気のこともあるし
お医者さんに診てもらうために あまりに薄給では、、、」
「 それもそうだ 次の仕事の事を 考えなくてはいけないなぁ
国内では、あまり稼げないかも知れないなぁ 、、、 」
「 その話は、後にして、さあ 食事の前に 神様にお祈りしましょう 」
「 神さま、僕たちを祝福して下さい そして 世界中のすべての人にも 」
ティムは 健気に 神に祈りました
クラチット夫妻の眼に涙があふれました。
スクルージは クラチット家にとって自分は
酷薄な搾取者なのだと知りました。
特に小さく足の不自由な息子の姿から
目を離すことは出来ませんでした、
幼い頃、貧しさを理解できなかった頃の 自分を思い返しました。
続く