日本最高の詩人・金子光晴

 

 

オットセイ

 

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だんだら縞のながい陰を曳き、みわたすかぎり頭をそろへて、拝礼してゐる奴らの群衆のなかで
侮蔑しきったそぶりで、
ただひとり、 反対をむいてすましてるやつ。
おいら。
おっとせいのきらひなおっとせい。
だが、やっぱりおっとせいはおっとせいで
ただ
「むかうむきになってる
おっとせい。」

(昭和12年4月「文学案内」に発表、詩集『鮫』昭和12年8月=1937年人民社初版200部刊に収録)