日本衛生学会の声明がここ
緊急事態なので
一部転載:
2020 年 3 月 27 日
新型コロナウイルス感染症対策についての声明(第 2 報) -流行拡大阻止と爆発的流行に備えた医療体制整備の要望-
日本公衆衛生学会理事長
業務執行理事
感染症対策委員会委員長
磯 博康
高鳥毛敏雄
前田秀雄
新型コロナウイルス感染症(以下 COVID-19)について、わが国では国民の衛 生行動や様々な対策により、今のところ感染者数の急増を回避できています。 しかし、COVID-19 は西側諸国やアメリカ大陸における爆発的な感染者数の増加 を伴いながら世界中に広がり、世界保健機関(WHO)がパンデミックである と宣言しました。
日本公衆衛生学会は、COVID-19 に対する重要な局面にあるわが国の状況にか んがみて、次の2点を中心に声明を出すことにいたしました。
1 COVID-19 の爆発的な流行拡大を阻止するためにクラスター対策(集団感 染)を継続し、その徹底と強化を行うとともに、国民の皆様にはクラスタ ー対策に対する積極的な協力をお願いしたい。
2 万が一の爆発的な流行に備えた医療体制の整備を至急進めていただきた い。そのために、都道府県には重症患者に対する病床の利用計画の策定と 必要な医療器材の確保と供給体制の確立を進めていただきたい。
以下、国民の生命と健康を保護する観点から、自治体、医療機関及び厚生労 働省に対する要望と、国民の皆様に対してのお願いを、以下に具体的にお示し ます。
1.封じ込め対策の徹底とその実施体制の継続と強化
中国などの周辺国との渡航制限や国内における感染拡大防止対策の徹底によ り、これまで国内の流行拡大が瀬戸際で踏みとどまっている状況にあります。 しかし、感染リンクの確認できない症例が増加し、また、海外の流行地から新 たに持ち込まれるなどのリスクが加わっています。封じ込め対策(Containment) の重要性は依然として変わらず、クラスターの検出対応の徹底強化を保健所設 置自治体(都道府県、指定都市、中核市)が一体となって行うことがより求め られています。しかし、患者数の増加とともにクラスター対策の難しさが増し てきており、保健所設置自治体においては、クラスター対策が行えるように、 部局横断的な職員の動員のみならず、地域の保健医療人材の総力を結集する体 制づくりをお願いします。
今後の保健医療政策は地域の感染状況別に社会経済的影響と感染拡大防止の バランスをとって進めて行く必要があります。しかしながら、全国でクラスタ ーが続発すると、厚生労働省新型コロナウイルス対策本部クラスター対策班に よる支援は限界に達してしまうことになりますので、各都道府県においては、
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教育研究機関への専門家の派遣要請も視野に入れ、地域の発生動向の疫学的な 分析やクラスター対策を行えるよう、集中的に指揮調整を行う強力な組織の構 築が場合によっては求められます。
一方で、地域において流行状況が異なることから、クラスター対策の重要性 及び業務量は必ずしも全国一様ではありません。このため、クラスター対策の 重要性及び具体的な実施方法について、感染症対策のリーダーである保健所長 及び実務を担う保健所職員が適時適切に判断して組織的に対策を実施するこ とが求められます。
〇感染症医療協議会において地域人材結集方法の検討 〇都道府県単位での疫学的分析やクラスター対策の指揮調整組織の構築 〇クラスター対策についての研修会の開催及びガイドライン等の整備
2.大都市圏域における大規模クラスターに対する自治体連携体制の強化
東京都、愛知県、大阪府における COVID-19 の多くは広域的な拡がりをもった クラスターとして発生したものでした。今後、頻度及び規模ともにこれまで以 上に広域クラスターが発生する可能性があります。そうなるとクラスター対策 を行う人員の補充に加えて、都道府県を跨いだ保健所設置自治体間の協働作業 が不可欠となります。
大都市部における保健所設置自治体が、具体的には九都県市首脳会議や関西 広域連合等の既存の自治体連携組織を事前に活性化するなど、連携・協働した 体制づくりを至急に整え、クラスター対策の効率化、介入の実効性をより高め る対応を行うことを求めます。
また、広域的な連携を効率的・効果的に推進するためには、地方自治体が発 生動向、患者情報、対策の実施状況等を迅速に共有し、共同でリスクアセスメ ントできる情報ネットワークシステムの構築が不可欠です。国には、自然災害 時に活用される「広域災害救急医療情報システム(EMIS)」や感染症発生動向 調査(NESID)を発展させ、国と自治体、更には関係医療機関が迅速に感染症 情報を共有できる情報システムの構築を要望します。
〇既存の自治体連携組織を活用した地方自治体間の広域的連携の推進 〇国、地方自治体間で情報を迅速に共有・意見交換できるシステムの構築
3.重症患者に対応できる医療供給体制の確立
COVID-19 の感染拡大に伴い、感染者が急激に増えると、高齢者や基礎疾患を 有する方を中心に重症肺炎の患者数が大幅に増加します。感染症による死者を 減らすためには、指定感染症とされている状況にありますが、感染が確認され た患者に一律に入院勧告をするのではなく、これを柔軟に運用し、重症患者に 重点をおいた医療体制づくりをすることを求めます。
都道府県には、医療計画策定の体制を活用し、感染が疑われた患者の診療を 行う医療機関や病床の拡充や軽症患者のための施設や居室の確保など、地域に おける医療連携体制の構築をお願いします。保健所は、平時から二次保健医療
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圏や管轄内の地域における病診連携や病院間の調整などに携わっていることを 発展させ、COVID-19 の患者に対する医療が適切に提供できるよう地域の医療体 制と医療環境の整備に努めてください。
地域医療の中核となっている医療機関には、COVID-19 医療に積極的に参画し て頂くようお願いします。ただし、院内感染により診療機能が低下することは 最も避けるべき事態です。このため、国、都道府県には、徹底した院内感染防 止体制を構築するための十分な財政措置や感染防御資器材の優先的な調達をお 願いします。
患者が急増した場合に備え、都道府県を越えた医療機関の連携の協議を進め ておくことが不可欠です。都道府県間の調整を行える広域的な調整を行う組織 や体制を構築してください。
また、感染のオーバーシュートが発生すると、医療器材(人工呼吸器や体外 式膜型人工肺など)の需要が急激に拡大し、大きく不足することが予測されま す。このことはすでに中国、イタリア、スペインなどの感染のオーバーシュー トがあった海外で示されています。その場合に救える重症患者への治療を優先 するトリアージが必要となります。国はトリアージの方針をあらかじめ地域医 療機関と共有すると共に住民の理解を求めておくことが望まれます。また、国 には、都道府県や保健所がトリアージを行うための基本指針を策定しておくこ とを求めます。
こうした医療体制の構築には厚生労働省による制度的、財政的支援の役割が 大変重要ですので、十分な支援をお願いします。
〇重症者中心の指定感染症としての柔軟な対応ができる医療体制の確立 〇重症者中心の医療体制確立のための医療機関の積極的参画 〇オーバーシュートした際のトリアージの方針策定と国民の理解の推進 〇国による制度整備と財政的支援の確立
4.クラスターの発生防止のための事業所及び事業主への社会的支援
感染の連鎖によりオーバーシュートを起こさないためにこれまでの確認され たクラスターに共通する、1換気の悪い密閉空間、2多くの人が密集、3近距 離での会話や発声をする密接、という「3つの密」の条件が同時に重なる活動 を最小限に留める働きかけを続ける必要があります。そのため、公的な事業・ 行事のみならず、民間機関・団体による活動や事業に関して、実施者に対し自 粛の継続への協力を広く、強く呼びかけることが重要です。
一方で、事業の自粛は、主催する企業、雇用される非正規従業員、個人営業 主等に、多大な経済的損失を与え、経営の継続、生計の維持に支障をきたしか ねず、そのために事業の自粛・中止の判断を躊躇されることが想定されます。 そのため、自主的な自粛・中止の協力を得るためには、経済的損失への補償や 経済支援が不可欠です。国や自治体には自粛要請と経済的支援や補償を一体と した対応と施策の実施を求めます。
また、事業所等におけるクラスターの発生を防止するためには、雇用主・事
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業主には、感染が疑われる症状を発生した者に対して、従業員を一定期間の出 勤・出務を差し控えさせることを徹底することが必要です。有症状者に対して 従業員が躊躇せず自宅療養できるよう、有給休暇に影響させない休暇制度の柔 軟な適用、待機期間 3 日間の短縮等の傷病手当金の支給要件の緩和等、従業員 本人の負担をできる限り軽減させる支援制度を整えることを求めます。
〇リスクのある集会の自粛を促すための経済的損失に対する社会的支援 ○有症状時の自宅待機を促すための事業主・雇用主に対する補償および従
業員への経済的支援
5.水際対策の体制強化と国内対策と連動した対策の推進
中国が発生の端緒となった COVID-19 は、韓国、中東、欧州、米国へと流行が 拡がり、先進国の多くの地域・都市で非常事態宣言が発せられる事態となって います。世界保健機関(WHO)は、さらに今後アジア・アフリカに急速に COVID- 19 の流行が拡がってきていると懸念を表明しています。今や、国際保健規則 (IHR)が示す国際的な健康危機管理上のリスク評価基準の、「公衆衛生上の深 刻性」、「予測不可能性」、「国際的な伝播の可能性」、「国際交通・通商の制 限の可能性」、のすべてのものを満たす事態に至っています。
最近、国内の感染者の中に占める海外から帰国して検疫所及び国内で感染が 確認される者が目立ってきています。世界的に爆発的に感染者が増えているこ とから、水際対策の徹底強化を図ることの重要性が高まっています。世界的な 蔓延が続くと推測されることから中期的にも手を緩めることはできません。
中東、欧州、米国等の国・地域からの帰国者に対する入国制限措置及び入国 後の行動制限措置がとられ、また検疫体制が強化され、これらの国々からの入 国者に対して検疫所長が指定する場所で 14 日間の待機の要請及び国内におけ る移動に公共交通機関使用の自粛要請が行われています。
しかし、帰国後に公共交通機関を使用せずに帰着空港から遠隔の都道府県へ 移動することは困難であり、また、帰宅後に感染が確認された帰国者も少なく ありません。さらに、自宅待機中の健康観察は、水際対策の対象国が増加する に伴い、保健所にさらなる重い業務負担を生じさせつつあります。
これまで、チャーター機やクルーズ船からの帰国者に対する停留措置を行っ たことにより国内の感染拡大を阻止できた実績があります。流行国からの帰国 者には、生活環境に配慮し、人権の制限を必要最小限とすることを基本として、 保健所設置自治体の負担が拡大しないように、停留措置が必要な帰国者が増え ていくことに対応した施設の確保を含めて、国が主体となって管理体制として 充実強化をしていただくことを求めます。
〇停留を基本とした全世界方面的な水際対策の強化
6.国民の皆さまの積極的なクラスター対策への支援と協力のお願い
公衆衛生対策は、政府・行政、専門家の力だけでは成果をあげることはでき ません。国民の皆さまには、まずこのことをご理解ください。
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COVID-19 がオーバーシュートすることなく制御できるかどうかには、国民の 皆さんのご理解と行動にかかっています。これまでの国民の一人一人による、 咳エチケットの遵守、手洗いなどの励行等の予防行動、活動やイベントなどの 自粛をしていただいたことが、この感染症のオーバーシュート発生をいままで 抑止できた大きな要因と考えています。
今後も、不要不急の集会・活動の自粛、「3つの密」の回避、有症状時の自 宅療養の徹底による感染リスクの低減に是非とも努めていただくようお願いし ます。
本学会は、国民の皆さまが COVID-19 対策の主役と考えています。国民の皆さ まと共に、COVID-19 の感染拡大の防止に尽力していく所存です。
主体的な感染拡大防止対策へのご協力とご参加を、是非ともお願いします。