理論物理学者の一般向け解説書はあとをたたないが
マルセル・グライサーの”物理学は世界をどこまで解明できるか?”
は一見、地味な内容にみえるが、なかなか本質に迫る解説をしているところが少なくない。

たとえば、相転移とポテンシャルエネルギーの相関が強いというのは慧眼だ。

参考:
物理学は世界をどこまで解明できるか
真理を探究する科学全史
マルセロ・グライサー 著
藤田貢崇 訳
実用面で成果を挙げる物理学が、未だに宇宙の真理にたどり着けないのはなぜか?

現代物理学は物質を形づくったり力を伝えたりする何種類もの素粒子が存在すると示唆し、この宇宙の外に無数の宇宙が存在すると予測する。しかし、こうした理論のなかには実験や観測によって裏づけられていないものが数多くあり、実は科学者たちはそれらが存在すると信じているにすぎない。

理論物理学者の著者は、世界に関する知識の歴史をつぶさに調べ、人間はどのように世界の姿をとらえてきたのかをあざやかに描く一方、実証可能な理論と、「多宇宙」など人類には永久に立証できない理論とを明確に区別し、夢見がちな理論物理学を一刀両断。つかみがたい物質と宇宙の姿を巧みに描き、究極の実在とはどんなものか、人間はどこまでそれに近づけるのかを問う野心的科学書。
目次

序 知識の島

Ⅰ 世界の起源と天界の本質

1 信じる意志
信念の役割と、宗教および科学における外挿について検討する

2 空間と時間を越えて
さまざまな宗教があらゆる物の起源に関する疑問にどのように向き合ってきたのかを見る

3 あるべきか、なるべきか、それが問題だ
古代ギリシャの最初期の哲学者についてと、実在の意味についての彼らの注目に値する考えを学ぶ

4 プラトンの夢から学ぶこと
プラトンとアリストテレスは第一原因と知識の限界にどのように向き合ったのか

5 新しい観測ツールがもつ変革の力
新しい観測ツールを利用することのできた独創性に富む偉大な三人はいかに人類の世界観を一変させたか

6 天球に風穴を開ける
アイザック・ニュートンの才能とニュートン物理学が人類の英知の指針となった理由を探る

7 科学は自然の壮大な物語
科学は人間がつくり上げたその守備範囲の広さや高い開放性によって変化していく

8 空間の柔軟性
アインシュタインの特殊相対性理論と一般相対性理論、そしてそれらが空間と時間に意味するところを探る

9 落ち着きのない宇宙
宇宙の膨張と、時間の始点における特異点の出現について調べる

10 今というのはどこにも存在しない
「今」という概念は認識のつくりごとである

11 宇宙の暗闇
宇宙の地平線の概念と、それによって私たちの宇宙についての知識がどのくらい制限されるのかを探る

12 無限を分けてみる
無限の概念と、宇宙論ではそれがどのような意味になるのかを考える

13 転がり落ちる宇宙
偽の真空のエネルギーという概念を説明し、それが有名なヒッグス粒子とどう関係するのか、そしてどのように加速膨張する宇宙の原動力となるのかを考える

14 宇宙を数える
多宇宙の概念を取り上げ、その物理学的な意味合いと形而上的な意味合いを探る

15 幕間――ストリング・ランドスケープを望む散歩道
人間原理を求める動機とともに、ストリング・ランドスケープの概念を学ぶ

16 多宇宙説を検証できるか?
多宇宙がまっとうな物理学理論なのか、あるいは空理空論でしかないのかを検討する

Ⅱ 錬金術から量子へ――実在のとらえがたい本質

17 すべては無の中に浮いている
ギリシャ時代の原子論の概念を考える

18 技と自然の驚くべき力と効力
錬金術の世界を訪ね、方法論と精神の領域を通じて物質に隠された力を探索する

19 捉えどころのない熱の性質
熱の性質を説明するために提唱された奇妙な物質であるフロギストンと熱素について知り、それらがのちに、どのように否定されたかを学ぶ

20 不可思議な光
二十世紀初めに、光の奇妙な特性がどのように二つの科学革命を引き起こしたのかを学ぶ

21 手放すことを学ぶ
量子物理学の探求へと足を踏み入れ、私たちが世界について知りえることにそれがどのような制約を課すのかを探る

22 勇敢な人類学者の物語
量子物理学における観測者の役割と、測定が対象にいかに干渉するのかを物語から学ぶ

23 量子の世界における波とは?
マックス・ボルンによる量子力学の奇怪な解釈と、それによってどのように物理的な実在の概念が複雑になったのかを学ぶ

24 実在の正体を知ることはできるか?
実在に対する理解という点から、量子物理学が意味するところを探る

25 量子の幽霊を恐れるのは誰か?
量子物理学についてアインシュタインを悩ませたことと、それが私たちに世界について教えてくれることを再確認する

26 誰が為に鐘は鳴る
ベルの理論を知り、その実験的な意味合いから実在が小説よりどれほど奇妙であるかを学ぶ

27 意識と量子世界
量子の世界で何らかのはたらきをするかもしれない意識の役割について議論する

28 始まりに立ち返る
量子の謎が語りかけることに耳を傾ける

Ⅲ 心と意味

29 人間の法則と自然の法則
数学は発明なのか、それとも発見なのか、数学はなぜ重要なのかについて議論する

30 不完全性
ゲーデルとチューリングによる、
きわめて重要でありながら困惑させられる発見を簡単に見ていく

31 超人的な機械の不吉な夢、あるいは情報としての世界
世界は情報なのか、実在はシミュレーションなのか、そして意識の本質とは何か

32 畏怖と意味
私たちの知りたいという衝動と、それが重要である理由について


マルセル・グライサーの一般向け解説はここにも詳しい

彼の著作を読まないでもこのサイトだけでも十分のようだ。