五つの湖
金子光晴
五つの湖が
ふじをめぐる。
山中湖は鶺鴒せきれい。
霧のなかの
かるい尾羽。
額ぶち風な河口湖。
樹海のふところからとりだした珠。
明眸めいぼうの精進しょうじよ。
嫉ねたみぶかさうな、秘やかな西湖。
そして、無の湖、本栖もとす湖こよ。
五つの湖が
ふじをみあげる。
芒すすきからのぞく
雪の額。
緒おが切れて
裾野にこぼれた五つの珠。
五つの湖がしぐれると
ふじはもう、姿がみえない。
移り気なふじよ。
雪烟けむりにかくれまはり
つゆつぽい五つの湖と
ふじは心の遊戯をする。
五つの湖を
めぐりあるくふじは
どの鏡にもゐて
どれにも止まらない。
(所出 昭和23年・北斗書院『蛾』)
(昭和38年・昭森社『金子光晴全集』3)
http://fkoktts.hp.infoseek.co.jp/KANEK0-ITUTUNO.html
金子光晴
五つの湖が
ふじをめぐる。
山中湖は鶺鴒せきれい。
霧のなかの
かるい尾羽。
額ぶち風な河口湖。
樹海のふところからとりだした珠。
明眸めいぼうの精進しょうじよ。
嫉ねたみぶかさうな、秘やかな西湖。
そして、無の湖、本栖もとす湖こよ。
五つの湖が
ふじをみあげる。
芒すすきからのぞく
雪の額。
緒おが切れて
裾野にこぼれた五つの珠。
五つの湖がしぐれると
ふじはもう、姿がみえない。
移り気なふじよ。
雪烟けむりにかくれまはり
つゆつぽい五つの湖と
ふじは心の遊戯をする。
五つの湖を
めぐりあるくふじは
どの鏡にもゐて
どれにも止まらない。
(所出 昭和23年・北斗書院『蛾』)
(昭和38年・昭森社『金子光晴全集』3)
http://fkoktts.hp.infoseek.co.jp/KANEK0-ITUTUNO.html