森の若葉
         金子光晴


なつめにしまっておきたいほど
いたいけな孫娘がうまれた

新緑のころにうまれてきたので
「わかば」という 名をつけた

へたにさわったらこわれそうだ
神も 悪魔も手がつけようない

小さなあくびと ちいさなくさめ
それに小さなしゃっくりもする

君が 年ごろといわれる頃には
も少しいい日本だったらいいが

なにしろいまの日本といったら
あんぽんたんとくるまばかりだ

しょうひちりきで泣きわめいて
それから ちいさなおならもする

森の若葉よ 小さなまごむすめ
生まれたからにはのびずばなるまい



《よその誰かのしあはせを、そっと失敬しているやうで、そはそはとおちつかない》

ねむりながら、キャッキャッと声を立てて
わらう若葉

若葉は、おもしろい夢をみているだろう。
たのしい夢をみてるにちがいない。

ジジは、そばで蚊を追ってやりながらおも


その夢のなかに、入れてもらえない
ものかと。

でも、それは、しゃぼん玉のなかへ入るよ
りむずかしいね。

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