「ねえねえ、片付け終わった?」
ひょっこりと、とわさんがキッチンに顔を出した。
ボクは木製の皿を棚にしまい、扉を閉める。
「はいですニャ。たった今終わったところですニャ。」
ボク専用のキッチン。
窓から、月明かりが差し込んでくる。
この家の家主のワグナーさんが、ボクの身長に合わせて、特別に作ってくれたもの。
「お邪魔するわね。」
とわさんが中腰で入って来た。入り口だけは少し低くなっている。
「今夜のディアブロスのテイルスープ、中までしっかり味がしみてて美味しかったわー。
ねえさまの焼いたパンによく合うし、さすがね♪
ガーグァの金の卵のスフレも絶品だったわ!
ナイト様も早く戻って来て、食べれば良いのにね。」
とわお嬢さんは、毎日ボクの料理に感想をくれる。
こうして寝る前のひと時、抱っこして撫でてくれる。
だからボクは、旦那さんのナイトさんが永らく留守にしていても、ちょびっとの寂しさで済んで……。ほ、本当は、とっても寂しいんだ…けど…。
とわさんと2人、月を見上げる。
「そういえば、昨日満月だったわね。今日は十六夜の月、ってところかしら。」
「旦那さん、どこらへんを旅しているでしょうニャ…。」
「風来坊ですものね、あの方は。」
「早く会いたいニャァ…。」
ぎゅっとボクを抱く腕に力が込められる。
「そうね、あと4カ月もすれば、あの人、きっと帰って来るわ。」
しばらくぶりです、お嬢。きちんと修行は続けていましたかな?
きっと不敵に笑って、その玄関に立つに違いない。
ガロンも、よお、元気だったか!ってべしべし叩き合って。
爺やとお兄様と、ねえさまとお話して、居間のテーブルに腰掛けるんだわ。
ジェット君、飯だ!ってなって、その夜は宴会になるの。
見知らぬ旅の話を聞きつつ、みんなで雑魚寝して、朝起きて薪割りして。
一狩り行こうぜ!って。きっと金ゴリパークだーー!って激昂ラージャンに連れて行かれるんだわ。
ボクは楽しげに話すお嬢さんを見ていた。
彼女もまた、旦那さんの帰りを待ってる。とってもとっても、待ってる。
お嬢さんの髪に揺れる、輝く月の髪飾り。
旦那さんを待つ時、お嬢さんは必ずこの飾りを身につけている。
……旦那さん、あと何回満月になったら帰って来るニャ?
「鏖魔(おうま)ディアブロス。砂漠の方で噂になってるの。」
「おうま?二つ名持ちですニャ?」
「ええ、昨日観測隊の方からちらっと聞いたの。角の片方が非常に大きく、もう片方が三叉角なんですって。きっと、昔片角が折られて、そこから再生して3本に見えるのね。」
「強そうですニャ。」
「この情報が出回ったら、ナイト様、きっと戦いに来ると思わない?」
「そうですニャ、旦那さんならきっと飛んで帰って来ますニャ。」
「一般ハンターにまで情報が出回るのがおそらく3月に入ってからだから、あと4カ月よ。」
早くお会いしたいわ、お嬢さんのつぶやきに、ボクは頷いた。
ボクも旦那さんに早く会いたい。
一緒に狩りに行きたい。
ジェット君の飯はうめぇなあ。そう言って、大きな手でナデナデしてほしい。
本当は、寂しいニャ。
旦那さんの編笠で丸くなるのが好きなのニャ。
でも、あと4カ月。
あと4回十六夜を待てば良い。
ボクも二つ名ディアブロスに向けて修行しながら、旦那さんを待つことにしますニャ。
fin.
とわ著