小さな淑女(レディ)1 | 徒然とわ日記

徒然とわ日記

日々の暮らしの中、心に留まった事を綴ります(^-^)
雑記帳みたいなものです。
見てくださったら嬉しいです(^_^)/

時は少し遡り。
ワグナーと虎姫の結婚式まで一週間となった、ある日の午後…。

「こんにちはー!」
外から聞こえて来る、女の子の声。
「どちら様かニャ?」
執事オトモのマトイが小走りで玄関の扉を開ける。
そこには。

……大きな旅行鞄がポツンと立っていた。

「ニャ?」
少し警戒しながらマトイが旅行鞄に近づいていくと…。

「ワグナーさまのお家って、ここよね?」
ひょこっと、小柄な少女が鞄の影から顔を出す。
マトイはびっくりし、尻尾の先をブワッとさせた。

「アニャ!?…あなたは誰かニャ?」
マトイの問いに彼女は敬礼ポーズをとり、元気に答えた。
「あっ!あたし、虎ねえさまの従姉妹のアリスと言います!」
「アリスさんニャ?」
「はいっ!」
「…そのアリスさんが、ここに何の用かニャ?」
訝しげな表情のマトイ。
アリスはにっこりと破顔した。
「実は…虎ねえさまが結婚するって聞いて、あたしに何かお手伝いできないかな~って思って、ここに来ちゃいましたーー♪」

つまり、押し掛けお手伝いちゃんってことか。
マトイはぽりぽり頭をかいて、奥に戻って行く。
「ウニャ…ちょっと待っているニャ。旦那さんに話してみるニャ。」

しばらくして…。

勢いよく扉が開く。
「アリスーーっ!」
中から飛び出して来た虎姫が、アリスに抱きつく。
「ねえさまっ!」
「ちょっと久しぶりねーー!!元気だったー?」
「うん!」
「おじ様とおば様は元気?」
「元気元気、ねえさまの結婚式に参加するって色々と準備してたよ!」
「わぁぁ…結婚式に来てくれるんだー!嬉しいわ♪」
アリスも大好きな虎姫に、すりすりとしがみつく。

よしよしと頭をポンポンされつつ、
「うん!それでね…何かお手伝いできないかなって思って、一足先にあたしだけ来ちゃった♪」
元気な少女は再び敬礼した。ビシッ。
「そうなんだ、ありがとうアリスーーー!」
虎姫は強くアリスを抱きしめた。
「う、うぐっ……ね…ねえさま、く…くるしいよっ!」
潰れたカエルのようなアリスの声に、
「あっ?ごめんね~、だって嬉しくって。」
慌てて離れる虎姫。
「ねえさまは相変わらず強ーい!かっこいい!!美人だし、優しいし、その辺の男より強いし。」
嬉しそうなアリス。
少女にとって、虎姫は憧れの人なのだ。

近所の悪ガキによく泣かされていたアリス。
アリスと一緒に、彼女の飼っていた小さな子犬も一緒にいじめられていた。
それを見つけるたびに庇ってくれたのが、この従姉妹だった。


ふと、2階の窓に人影が映る。
窓枠に頬杖をつくように、その人は窓辺に佇んだ。


「そうだ!アリスにまず会わせたい人がいるのよ!」
虎姫が突然声をあげた。
アリスは興味深げに目を輝かせる。
「会わせたい人?」

虎姫は、少し頬を染めながら微笑む。
2階を見上げると、優しげな男と目があった。
「…ワグナーっていうんだけどね。」
視線の先の男は、そっと片手を挙げる。

「あーーー!もしかして、ねえさまの?」
「そうよ!わたしの大好きな大好きな旦那さま♪」
幸せそうに手を振り返し応える虎姫。
アリスは虎姫の視線を追って、2階の人影に気がついた。
逆光。眩しくて、一瞬目がくらむ。
ようやく慣れた視界に映ったのは、白いシャツと翻った銀の髪だけだった。

「ふふっ、王子様みたいないい男よー。」
見上げるアリスの髪を撫でる虎姫。
「わーーー!生ワグナーさま!!会わせて!会わせてーっ!」
虎姫にじゃれつくアリス。
手紙では散々話は聞くが、いよいよ実物とご対面。
王子様みたいって、どんな感じだろう。
優しいんだろうな、かっこいいかな?
ねえさまが好きになるんだから、とっても素敵な人なんだろうな。
小さな胸はドキドキと踊った。

「それじゃ中に入りましょうか。」
マトイが扉を開ける。
よっと。
虎姫は片手で、ズワロポスの革製の旅行鞄を軽々と持ち上げた。
それを見て驚くアリス。
「ねえさま…すごいっ!」
虎姫はクスッと笑った。
「えーっ?こんなの、狩りで使っている大剣に比べれば、全然軽いわよ~。」
「…………!」
呆気にとられるアリス。
お口はぽっかり。
狩りに行くのに、女の人でもそんな重い武器背負って行くんだ?

「どうかした、アリス?」
可笑しそうな虎姫。
「な…なんでもないっ!」
「……ズワロポスの革って丈夫よねー。水にも強いし。良いもの選んだじゃない♪」
「えへへ♪」
褒められて嬉しげに、虎姫の腕にしがみつく少女であった。


2人は、先導するマトイの後について、家の中に入る。
「お邪魔しまーーーす。」

それを出迎えたのは、白いシャツに身を包んだ、銀髪の穏やかな雰囲気の若者だった。
「ようこそ、お嬢さん。」
穢れなき湖のような碧い瞳。魔力さえ宿っていそうだ。

「………………。」
「どうしたのアリス?」
虎姫はアリスの顔を覗き込む。
「え?な、なんでもないからっ!虎ねえさまっ!」
慌ててごまかすアリス。
「そう?ならいいけど。アリス、この人がワグナー。わたしの旦那さま。」
虎姫が、誇らしげにワグナーの横に立つ。
美男美女の、似合いのカップルだ。

「初めまして、ワグナーと申します。以後お見知りおきを。」
青年は左手を腹部に添え、右足を引き、軽く頭を下げる。
耳にかけられた髪がさらりと滑り落ちる。
少女の目には、青年が、いつも読んでいたおとぎ話の王子様に見えた。

「……レディ?」
声かけにハッとすると、王子様はその姿勢のまま、困ったように少女を見ていた。
すかさず虎姫がアリスの手をとって彼にそっと差し出す。
ワグナーはアリスの手の甲に唇を近づけ、キスを落とす仕草をした。

ーーへえー、実際にはキスしないんだ…。
アリスは一連の動作に魅入っていた。

虎姫は笑う。
「男性から女性に握手って求めちゃいけないらしいわよ。女性から右手を差し出された場合のみ、握手の代わりにこういうことするんですって。」
アリスはへえー…と頷いた。
「講義が終わったところで、姫、こちらのお嬢さんを紹介してくれないかい?」
ワグナーも面白そうに微笑む。

「わっ!わたっ!じゃなくって!あたしは虎ねえさまの従姉妹のアリスって言います!」
少女は顔を真っ赤にしながらぴょこんと頭を下げる。
「そう、君がアリスちゃんか。君の事は、色々と姫から聞いているよ。」
「え?虎ねえさまから?なんて?」
「うん、昔から実の妹みたいに可愛がっていたってね。」
ワグナーは、側に控えていたマトイに目配せする。
マトイは、はいニャと姿を消した。


と、そこに…。

「おーい!マトイ!何か食いもんねぇかーっ!」
ドカドカドカ。
ワグナーよりも一回り大きな男が、大声を上げながらやって来た。

ーーで…でかっ!
アリスはぎょっとした。

「やだ、にぃにったら、さっきお昼ご飯を食べたでしょう!」
そのあとを紫色の髪の女性が追いかけてくる。
「あぁん?あんなちょっとじゃ食った気しねぇよ。」
頭ボサボサの半裸の大男は、ワグナーの後ろの戸棚を漁り始めた。
「食いもん食いもん、っと。…お…?」

ばちっ。
大男と、小娘の目がばっちり合った。

ーーー!!怪獣っっっ!!
アリスは硬直した。

「おいワグナー、この目ん玉かっ開いたお嬢ちゃんは誰だ?」
大男が立ち上がる。でかい。やっぱりでかい。
アリスは急いで虎姫の後ろに隠れた。
紫色の髪の女性もアリスに気づいたみたいで、虎姫に問う。
「あら、ねえさまの知り合い?」

ワグナーは堪えきれんという風に、笑い出した。
「こちらの小さなレディは、アリス。虎姫の従姉妹だよ。
アリスちゃん、この怪獣はガロン。俗称は頭悪竜だ。つまるところの、バカだ。」
「んだと、コラ!」
「で、こっちがわたしの妹のとわだ。」
「ねえさまの従姉妹なのね、わたくしはとわ。ようこそ、アリス。」
「俺様は…」
口を開きかけたガロンを遮るように、ワグナーがしれっと宣う。
「バカだ。」



……続く
とわ&GG共著