朝陽が昇る。
並んで座っていたとわが、不意に口を開いた。
「ガロン、あなたも、いつまでもうちに居なくてもいいのよ?
……もう、帰る家も守る財産も無いんだし。わたくし達に縛られず、自由になってもいいのよ…。」
ガロンはとわを見た。
髪をなびかせ、静かに朝陽を見つめる表情の、元お嬢様。
「突然何を言い出すんだ、おめーは。」
「行きたい所があったり、やりたいことがあったら、構わないんだからね。」
「……ぶぁーか。俺は俺の意思でここに居るんだよ。余計な心配するんじゃねぇ。」
口調はぞんざいだったが、いつもより穏やかな語り口。
とわは、そっと笑った。
そうだった、ガロンはいつもこうして、兄様とわたくしの側に居てくれた。
きゅっと膝を抱えてゆらゆらするとわに、ガロンはライチの実を投げて寄こした。
「食えよ。うめぇぞ。」
「…ありがと。いろいろありがと、ガロン。」
本格的に、空が明るくなる。鳥のさえずりが耳に優しい。
「どれ、そろそろオッサン達を起こすか。
……なあ、とわ。俺には他に行きたいところはねぇからよ…。ここが一番いいんだ…。」
呟いた最後の方は、とわの耳には届かなかった。
旅の二日目の朝。
昨日採取した木の実とキノコとココットライスで、リゾットのようなものを作る。
サラダにはシモフリトマトとオニオニオンをふんだんに使い、クルミを散らす。
塩ミルクと、デザートには熟れたスイカを。
虎姫とアイルー達が、腕を振るう。
どれも、その辺で採れた、自然の恵み。頑張ったオトモ達に感謝である。
「どれ、では出発しようか。」
食事を終え、英気を養ったワグナーの一声で、一行は海辺の別荘を目指し、また歩き出した。
「ちょっと山になって来たわね。」
坂道が増えてきた。狩りの疲労とは少し違った疲れで、とわはため息をつく。
鍛えているはずなのに、使っている筋肉が違うのかしら?
「ええ、この辺りは山の入口です。できるなら、このまま一気に越えてしまいましょう。」
ジョウジが言う。
昼間ならば、それほど凶暴なモンスターはいないだろう。
一行は、また採取をしながら一歩一歩進む。
「爺や!アオアシラだ!」
突然のワグナーの叫びに、ジョウジとガロンが咄嗟に武器を構える。
「どこだ!」
数十メートル先に、そこそこの大きさのアオアシラが1頭、現れた。
「あれか!」
ガッショッ。ジョウジがライトボウガンに弾を込めた。
スコープを覗き、照準を合わせる。
「……待って、爺や!」
とわがジョウジの肩にすがりつく。
「見て、子どもがいるわ。」
転がるようにして、稚い子グマが母グマに寄って来た。
子どもを目で追う母グマが、こちらに気づく。
彼女は、子どもをその背後に庇うように後足で立ち上がり。
グォォォォォォォォォ!!
威嚇をしてきた。
「お嬢様、子連れの母グマは気が荒くなっております。危険ですゆえ、お下がりください!」
ジョウジが再度照準を合わせる。
「ダメよっ爺や!ママがいなくなったら、あの子はどうなるの!」
とわの悲鳴にも似た叫び。
「しかし…。」
ジョウジが一瞬とわを見る。
「あんな小さくちゃ、まだひとりでは生きられないわ!」
泣き出しそうなお嬢様。
母グマがこちらに突進してきた!
「ダメだ、お嬢様、下がって!」
ジョウジの一発目が母グマの右肩に命中し、彼女がひるむ。
「いやっ!止めて爺や!」
なおも騒ぐとわを担ぎあげ、急いで場を離れるガロン。
「爺やお願いーー!殺さないで!」
退避している虎姫たちを守るように、ワグナーが太刀を抜いている。
母グマが、再びジョウジに怒りの眼差しを向けた、その時。
ピルルルル~…ピルルル~…
風に乗り、細く美しい旋律が聞こえてきた。竹笛の音だろう。
……ガルゥ?
母グマの足が止まり、周りをきょろきょろし始める。
この繊細な音が気になるようだ。
ピルルル~ピルピルル~…
音がだんだん遠ざかって行く。
つられるようにして、母グマも踵を返した。そして、笛の音の方に小走りで向かって行く。
小グマもその後を追う。
ジョウジは、ゆっくりと武器を収めた。
「………。」
一同が見守る中、2頭のアオアシラは、森の奥へと姿を消した。
「……参りましょうか。」
再び、一行は歩き始める。
とわは、ガロンに担がれたまま、考えていた。
――さっきの笛はいったい…?まるで、わたくしの想いを感じとって戦闘を回避させるような、優しい笛だったわ。
でも本当に良かった。素材がほしい訳でもなく、ましてや、子どものいるあのアオアシラを殺さずに済んで。
できれば、無駄に生き物の命を奪うことはしたくない。とわは目を瞑る。
ふと、ズイムに会った時に言われた言葉が思い浮かんだ。
「一流のモンスターハンターとは、モンスターを倒す方法も、生かす方法も心得た者を言うのだよ。
自然界の一員として、調和をもたらすのが役目だからね。どちらかに偏った考えでは、いずれは自然の営みから外れてしまうだろう。」
耳を澄ますが、もうあの優しい音は聞こえない。
陽が頭上に差し掛かった頃。
山頂付近に辿り着いた一行は、休憩をとることになった。
「皆様、このまま山を下れば、いよいよ別荘に到着いたしますぞ。」
ジョウジが告げると、やや疲れた一行の顔が明るくなる。
「本当?爺や」
とわが目を輝かせる。話に聞いていた、秘密基地のような別荘。
「はい…お嬢様はまだお小さかったですから覚えていらっしゃらないでしょうな。」
主に拙者と姉君で抱いて来たのですぞ、身振り手振りでこんな小さかったと説明するジョウジ。
とわはくすくす笑う。
「それじゃ覚えているはず無いわよね~。」
「わたしも微かに記憶があるだけだしな。」
難しい表情で思い出そうとするワグナーに、
「良いじゃないの。これからまた、皆で楽しい思い出をつくって行けば。ね?」
虎姫が明るく言う。
「だな。良いこというぜ、お嬢ちゃん。」
「左様ですな。」
さわやかな笑いがおこる。
「わぐにゃ~たちも来てるんだし、もしかすると次に皆でする旅行の時には、1人増えてるかもだから、今回は思い切り楽しみましょ♪」
とわの言葉に、ワグナーと虎姫がそろって赤くなり、ガロンがニヤニヤしながら2人を茶化す。
「1人どころじゃねーかもなぁ?」
「そうだニャ!いっぱい増えたら、もっと楽しいに違いないニャ!」
「皆で楽しむニャ!でもまずは、今回の旅行を楽しむニャ!」
「旦那しゃんといっぱい、いっぱい遊ぶニャ~!」
「「「「ニャーーーッ!!!」」」」
オトモ達のテンションも急上昇!隊列を組み、歩き出す。
空にはさんさんと輝く太陽。山の湿気を含んだ、良い空気。
目的地まで、もうすぐだーーー。
つづく
とわ&GG共著