タンジア奇譚 エピローグ2 | 徒然とわ日記

徒然とわ日記

日々の暮らしの中、心に留まった事を綴ります(^-^)
雑記帳みたいなものです。
見てくださったら嬉しいです(^_^)/

「…?」
男は不思議そうにしている。

「いや失礼。何でもありません。」
ワグナーは男に背を向け、荷物の中から袋を取り出す。

「…これをどうぞ。」
たくさんの硬貨が入った革袋を、男の年老いた手に渡す。

「ちょっとワグナー!」
驚く虎姫。

ワグナーは、その場の誰とも目を合わせることなく、足早にその場を離れようとする。

「いいから、行くよ、虎姫。」

何か言いかける虎姫。
深々と頭を下げる物乞いの男。

ただならぬ気配に、虎姫は黙ってワグナーの背を追う。

そのまま、宿の部屋まで会話は無かった。


部屋に入るなりワグナーは虎姫を抱きしめる。
すまない、と小さくつぶやく。

虎姫は、手を伸ばして彼の頭を撫でてあげる。

少しの沈黙が2人を包む。

「さっき会った男だけど…。」

「うん…。」

「わたしの、父なんだ…。」

「え?」

「向こうは気付かずにいたけど、わたしはすぐに気付いたよ。
あれは間違いなく父上だ。」

「だからなのね、あんなにたくさんのお金を渡したのは?」

こくりとワグナーの頭が揺れる。
またしても彼は沈黙した。


「…は……はははっ…」

しばらく無言だったワグナーが、突然笑いだした。

虎姫は穏やかにに問う。
「どうしたの?」

――家と名前を捨てた時は、憎しみしかなかった父親。
しかし、見る影も無く落ちぶれた今の姿。

「あの、誰よりも尊大で傲慢だった父が…。」

大きくなった息子に気付かない父親と、一目で気付いた息子。

越えるべき存在が、自分よりも遥かに下になってしまった虚しさ。

「あんなにも落ちぶれて、他人から施しを受けているなんて…。」

ワグナーは絞り出すように言葉を続ける。

「わたしは、家も名も捨てた…。そのつもりだった。
しかし父上の姿を見たら……憐れで……。
わたしがあの家を捨てたばっかりに……。」

言葉が続かない。

虎姫には、ワグナーが必死で嗚咽を噛み殺しているのがわかった。

…痛々しかった。

その胸に、何も言わずにワグナーを抱きしめる…。
「いいのよ…何も言わなくても……。」

室内に、時計の針音だけが異様な音で響く。

――ワグナーの気の済むまで、抱いてあげよう。




翌日。

まだ太陽が昇りきらぬうちに、2人はバルバレに向かう商隊の荷車で揺られていた。



とわ&GG共著