婚前旅行 6 | 徒然とわ日記

徒然とわ日記

日々の暮らしの中、心に留まった事を綴ります(^-^)
雑記帳みたいなものです。
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突然抱きしめられ、虎姫は驚く。
「…話って?」

ワグナーは静かに語り出す。
「…実はね、ワグナーという名は、この家を出る時に決めた名前なんだよ…。」

虎姫はワグナーの顔を見あげる。
「それって…。」
彼の表情は少しだけ、厳しかった。

「わたしの、本当の名前は…。」

一瞬の間が、虎姫には数秒に感じられた。

「…セシオス。」

「セシオス…。
それが貴方の本当の名前なのね。」

ワグナーは、虎姫としっかりと目をあわせる。

「そうだ、貴族の生活と一緒に捨てた名前さ…。
嘘偽りまみれのこの狭い世界で、家督を継ぐのが嫌になってね…。」

ふと遠くを見る青年の横顔。育ちが良さそうだとは思ったが、貴族出身だったのか。

「そう、ハンターとして生きることを選んだ時に、この場所に置いていった名前…。
…二度と口にする事は無いだろう、そう思っていたよ。」

どことなく切なげに笑う彼を見つめる虎姫。

ワグナーは、もう一度、虎姫を抱きしめる。

「だけど…どうしてかな、君には知ってもらいたかったんだ。」

恋人の背中を抱きしめ返してあげながら、虎姫は言った。

「セシオス…ワグナー…、そんなのどっちでもいい。
あたしには、どれがあなたの本当の名前かなんて、関係ないよ…。
だってあなたは、あたしの一番大切な『あなた』なんだから…。」

名前であなた自身が変わるわけじゃない。
虎姫の言葉を、ワグナーは何度も噛みしめる。

――やはり、この女性で正解だった。
わたしが、わたしであり続ける為に、この人が必要なんだ――。

ワグナーの、愛しい者を見る視線に、虎姫の視線が交錯する。

「「愛してる…。」」

寄り添う二人の影。

草原の向こうで、キラリと何かが光る。
抱きあう二人を遠くから見守る人影。
その胸で、青緑の宝石が揺れた。


「大きくなったわね…、セシオス……。」

白い花が、ひゅうと舞い上がった。


婚前旅行 fin
とわ&GG共著