ワグナーが記憶をなくしているかもしれない。
そんなこと想像もしなかった。
しかし、100%無いとも限らない。
「もし仮に、若にあらゆる記憶が無くて、自身のことも、我々のことも判らなかったら?」
ハンターを続けさせるべきだろうか。
満足に力を出し切れぬ自分が一緒だとしても…。
若は元来、ハンターになるべく育てられた男では、ない。
ジョウジが荷台で考え事をしていると、つかさの執事が静かに側に立った。
「先ほどからため息ばかりついておられる。」
ジョウジは一礼した。
「やや、これはお見苦しいところを。」
「失礼ながら、お話を聞かせていただきました。
…若様にご記憶が無かった場合を思案なさっておられるのですか…。」
ジョウジは頷いた。
「元来、ハンターになるような育ちではないのです。」
植物や小動物に囲まれ、その生態を研究しながら穏やかに生きる、そんなのが似合うような…。
「我が姫もそうでございます。」
男は、向こうにいる主人を見やり、優しげに微笑む。
「あの方も本来、キャラバン専属ハンターなどという荒っぽいことをせずとも生活できるご身分なのです。」
「さようですか…。」
「時に、ジョウジさん。
ハンターとは、モンスターを狩るだけの野蛮な仕事だと、心のどこかでお考えではないですか?」
ジョウジは考えこむ。
男は続ける。
「ハンター=モンスターハンターというのは、正確には間違いであると、私は思いますね。
広義でのハンターは、例えば、こちらの団長のようなトレジャーハンターも含みます。
その他、鉱石だけをターゲットにする者や、食材を追求する者…。」
「爺やさんは、きっと難しく考えすぎるのじゃなくて?」
張りと艶のある、女性の声がした。
いつの間にか、つかさが立っている。その後ろから、とわも顔を覗かせる。
「若様にも、とわちゃんにも、追いたいものを追わせれば良いのよ。
記憶の有無、育ちは関係ないわ。
自分のやりたいものを、自分の足で追うのって、浪漫でしょう?」
ジョウジはふむ、と頷いた。
「つかさ姫は、生きる意味を追ってハンターをなさっておいでですか。」
つかさは笑う。
「そんな大層なものじゃないわ。
ただ、死ぬときには、悔いなく笑って逝きたいと思うわ。
だから、こうして彼と旅を続けるの。」
男が跪き、彼女の手をとり口づけする。
「私も、この身をもって、御身をお守りする所存。」
つづく