ー「刑法」から見直し、スパイへの甘い認識を改めよー

Summary:
日本では有効なスパイ防止体制を構築すべく、基本法典である「刑法」に「スパイ罪」を創設し、「スパイとはどのような存在か」を法的に定義する必要がある。その上で、現行の「特定秘密保護法」や「不正競争防止法」をも見直す必要がある。
 それは、現在の日本では、スパイを法的に定義できていないことから、本来なら「スパイ罪」である行為を窃盗罪などの既存の基準で裁く法体制になってしまっているからだ。
 抜本的な刑法見直しを経る事を通し、安全保障感覚の欠如した日本人の『スパイ観』に転換をもたらす事が不可欠であり、それが本考察の大きな目的だ。

<まえがき>

 日本は、自分の国は自分で護る体制を整える為にも『刑法』に「スパイ罪」の規定を創設し、「スパイ」と「窃盗犯」などを同一視する甘い認識を改めることで、有効なスパイ防止体制を整えるべきだ。「全世界がスパイ天国になっているなかで、日本が一いちばん野放しになっている。」という認識が心ある日本人にもようやく浸透してきたところではあるが、世界規模でスパイが横行するなか、リーダー国家たるべき日本の責任ある体制創設が、世界から求められている。

 戦後の日本はソ連や中国、北朝鮮などの国家によるスパイ活動の温床となり、しばししば「スパイ天国」と揶揄されてきた。なぜ”天国”か、日本にはスパイ活動自体を罰する法律、即ち『スパイ罪』が存在せず、摘発した「スパイ」を「スパイ」以外の容疑でしか裁くことができない状態が長く続いているからだ。
『スパイ罪』が無いということは、日本には「スパイとはどのような行為を指すのか」「スパイとはどのような利益を侵害するのか」などの、スパイに関する法的な定義が一切存在しない事を意味している。
 『スパイ罪』とは、国家の重要な秘密を外国に漏らそうとする「スパイ行為」を禁止することで、「国家の安全保障の保護」を目的とした罰則規定である。「スパイ行為」とは、外国の利益や、自国を害する目的のもとに、「国家の秘密を探知・収集する行為」や「その秘密を外国へ通報する行為」、「秘密を取り扱う業務にある者が、守秘義務を破り、秘密を外国へ漏洩させる行為」などと理解される。こうした活動は、国家の防衛情報や企業の機微技術等を、国外の敵対勢力に流出させる可能性を秘めていることから、スパイは国家安全保障上の「敵」と認識される。よって、この活動を禁止するスパイ罪規定は、「国家の安全保障」という、「国家全体に関する利益(国家的法益)」を保護するための法規定だと考えられる。その様な重大な罪であるからこそ、各国では「刑法」にスパイ罪が規定され、その上で諸々の関連法令による不足部分を補う法体制が敷かれる。

 一方、日本ではこのような定義が出来ていない弊害として、「スパイ」を「窃盗犯」と同一視する誤った認識が拡がっている。その結果、スパイ行為が、本来の罪の大きさに見合わない“軽い罪”といて扱われ、国民のスパイに対する危機意識も低いままになっている。実際に、現行の秘密保護を目的とした法律で設定されている懲役刑が、主に「窃盗罪」等の刑罰基準をモデルとしていることによって、スパイ事件に対する裁判所の量刑は、他の国に比べ軽くなる傾向にある。
 しかし、国家の安全保障を脅かすスパイを、窃盗罪の基準で取り締まることには限界がある。「窃盗罪」は、他人の財産を盗む行為を罰することで、「個人の財産」という「個人的な法益」を保護する事を目的としている規定だ。スパイも、秘密を盗むという行為だけをみれば、窃盗行為と大きく変わらなく見えるが、結果として侵害される利益の大きさを見れば、両者には大きな違いがあることを理解しなければならない。つまり、安全保証感覚を持ってスパイ事件に臨むには、既存の法律の範囲で考えるのではなく、『スパイ罪』という新しい概念を打ち立てる事が必要不可欠だということだ。実際、刑法にスパイ罪を持つアメリカの事例を見れば、「安全保障に与えた影響」を量刑の判断基準としてスパイを裁く司法体系が整っているように見える。
 以上より、やはり日本に於いても、まずは刑法(狭義の刑法である刑法典)に、『スパイ罪』を新設し、スパイに対する定義を法体系内に示した上で、主な関連法制である「特定機密保護法」や「不正競争防止法」の見直しに取り組む事が必要だと考える。刑法に『スパイ罪』を規定することは、「日本はスパイをどのような罪として認識しているか」という事を、国の内外に明示する意味合いを持つだろう。それは、刑法は日本の法律で最も根本的な基本六法の一つであり、「罪と罰の在り方」を定めた刑法体系の基礎となる法典だからである。
 具体的には、まず刑法の改正として、1960年代に刑法への導入が検討された「機密探知罪」を再考する事が、最も単純な方法だと考える。その規定は、一般的なスパイ罪としての要件を備えている。また、「特定秘密保護法」や「不正競争防止法」は、刑法のスパイ罪規定を基礎に見直しを行い。より外国からのスパイ攻撃の防止を目的とした法体制へと変えてゆかねばならない。現状、特定秘密保護法は、安全保障の確保を目的に据える一方で、罰則規定には窃盗罪と同様の基準が用いられている。不正競争防止法は、そもそも産業スパイを防止する目的の法律ではないから、「産業スパイによる安全保障の侵害」を対象とするような新法の設置が必要だ。
 ただ、過去の歴史から見て、秘密保護法制の強化に関しては、一定勢力からの激しい反発が予想される。彼らは、『スパイ罪』規定は、政府による恣意的な情報統制や、取材活動の萎縮を引き起こし、「取材・報道の自由」や「国民の知る権利」が侵害される危険性があると主張する。しかし、過去の最高裁の判断をみれば、正当な取材行為がスパイとして裁かれることはないとされる。刑法の改正には、こうした打ち返しの理論も必要になるだろう。
 日本では、戦前の国家権力による統制と秘密保護法制を結び付け、スパイ防止に向けた法強化をネガティヴに捉える主張や批判研究が多く見られる。戦後70年を経てようやく成立した特定秘密保護法も、既存の法律の枠組みの範囲での法整備となった。しかし、1960年代の刑法の改正論議や、1985年に議員立法で国会にスパイ防止法案が提出された際には、より強く「スパイ罪」の必要性が議論されていたはずだ。
本論考は、中国などによる高度な情報戦が激しさを増す中、改めて『スパイ罪』に関する議論を日本で活発化させること、さらに「スパイと窃盗の同一視」という誤った認識を断つためには、「刑法」から抜本的に構築し直した「スパイ防止体制」が必要であることを主張する。



Chapter 1

日本に存在しない『スパイ罪』とはどのような罪なのか?

以下続く

☆スパイに対する戦後日本の歴史
☆「スパイ罪」とはどのような罪なのか
☆スパイとはどのような行為を指すのか
☆スパイ罪規定によって保護される利益とは何か


Chapter2
『スパイ罪』が存在しない事による弊害

Chapter 3
スパイ防止に向けた法整備について



②に続く


付記:
<本ブログ記事は某所で手に入れた論考の概要を紹介するもの(言い回しなどは一部変えている)。
某独裁国家警察が我が国に「派出所」を不法に設置し、国家主権を堂々と侵犯、各方面にも侵略を進め、日本人の拉致殺害も大きく懸念される様になってきた現状に鑑み、管理者(高齢者)が楯となり、本論考内容を弘める事を決意。心ある愛国者・国士の目にとまることを祈念するものである。>