先月読んだ「日本語が世界を平和にするこれだけの理由」の著者が書かれた、日本語文法学者三上章の評伝を読みました。
特定の分野で大きな成果を上げた人を知ると、その人の生涯にも興味が湧くものです。
三上章については、翻訳の講座の先生から勧められて「象は鼻が長い」という印象的なタイトルの本を読みました。
もう一年半も前に読んだのでした。
今回の「主語を抹殺した男」は、この三上章の生涯を取り上げた本です。
筆者の金谷氏は、ご自分が日本語教師として三上文法でカナダで日本語を教えていらっしゃった方です。ご自分の教師人生と重ね合わせながらこの本を書かれているので、三上章がより身近に感じられるようです。
三上章はこの写真を見ると孤高の学者、という感じですが、本来はとても快活で人を笑わせることが大好きな人だったようです。高校の数学教師を長く勤めましたが、日本語文法を研究すると心に誓い、街の学者として研究を重ねました。
しかし、日本の学界にはよくあることだと思いますが、有名大学教授という肩書きがないと、いくら素晴らしい研究成果を発表しても、見向きもされない、ということになってしまいます。
三上は自説に対する反論を待ち望んでいましたが、ついぞ訪れず、50代後半から身体と精神を病んで、晩年に訪れたチャンスを活かすことなく彼我の人になってしまいました。
三上がボストンでの共同研究に成功していたら、あるいは日本の学校で教えられる国語文法は、三上文法になっていたのかもしれない、と思うと、とても残念でした。
それでも、三上の人生は総じてとても幸福だったと思います。
学生時代は好きなことをして、友人にも恵まれていました。
社会人になると、自分に合わない仕事だと思うとあっという間に辞めて放浪したりしていますが、それは自分に自信があって、経済的に恵まれている人でなければできないと思うのです。
一生の仕事にした、というものに恵まれるのは、心身を病んだ後だった、ということだけは残念ですが・・・。
でも、人生は晩年だけで評価することはできません。
ただ、絶対にいえることは、人間にとって一番大事なのは健康、ということです。


