精神科、心療内科での向精神薬の漫然処方はよく問題になる。私自身の経験からも、副作用による後遺症の原因は結局長期漫然処方に行きつく。誤診も問題だが、それは患者をよく見ている中で起こることだから、ある意味医師の観察は患者へ向いている。

 

ある中年の女性からこういう話を聞いた。

 

生理の際の出血が多いので産婦人科の診療を受けたところ、ピルの処方を受けた。

 

医師は紙カルテで診察をし続け、次第に診察はほとんど数分以内で終わるようになっていった。「じゃあ、いつものようにだしておきます」という感じ。女性は、1ヶ月に一度くらいの通院を10年以上も続けていた。

 

ある日、女性が診察を受けているとき医師とのやりとりで、医師がそもそもなぜピルを処方しているかを忘れていることに気が付いた。

 

医師:「えっ、あなた避妊のためにこの薬を飲んでいるんじゃなかったの」

 

個人経営のクリニックなので、ずっと同じ医師だった。女性はかなり立腹してその日以来通院を打ち切った。

 

私の場合、最初の大学病院での2年はそういうことはなかった。よく話をしていた。変わったのは、通院や服薬をやめたいと申し出て、医師から「いや、あなたは維持療法を続けなければならない。土曜日通院できるこのクリニックへ来なさい。」と言われて転院してからである。上記と同じように「じゃあ、いつものようにだしておきます」のセリフで5分診療、秒単位診療が続くようになった。女性と同じように日常の忙しさを縫って通院していると、こういうことが当たり前になっていく。

 

私の場合は、診断を忘れられたということはなかったと思う。しかし、処方薬の定期的な見直しが行われた形跡はない。これが20年近く続くのだから実は不必要な、さらには有害な薬物投与であったことがわかったときの怒りはすさまじい。

 

医師は、漫然処方になってしまうとどうして定期的な見直しを行わなくなるのだろう。

 

女性の場合は、複数の患者を診ているうちに、紙カルテの煩雑さもあって、ある時からそもそもの処方理由を誤解してしまったのだろう。長期処方する意図はなかったのかもしれない。

 

私の主治医の場合は、長期処方そのものが目的だった可能性が高い。まず、私が通院を止めようとしたのを説得して、大学病院から自らの勤めるクリニックは転院させていること。自ら診断を変えるまで、私自身の状況が長期に安定していたこと(実はその後も基本的に安定している、投薬による混乱を除くと)。通院中に主治医は自らのクリニックを開業していること。

 

私は経営学・経済学や心理学の専門家ではないが、漫然処方が最も効率の良い安定した収入確保の手法になっていることくらいわかる。患者の立場からは、定期的な見直しをしてもらうことで、不必要な投薬、有害な投薬を防ぐことができるのでこんなに良いことはない。女性の場合も、「出血の方はどうですか」などと問診するように心がけていればもっと短期間に薬物投与を止められた可能性がある。私の場合もそうであるが、主治医が「維持療法を続けなければならない」「ベンゾは常用量ではどんなに長期に連用しても依存はない」と主張しているので、定期的な見直しをしても、医師は投与を止めなかった可能性が高い。

 

私の主治医は有名大学の医師であったので、プライドは高いようだった。定期的に学会へ行っていたし、学術的な話もよくしていた。だから、2008年頃に私が過労を訴えたときに、当時の双極性障害過剰診断ブームを気にせずにはいられなかったに違いない。漫然処方だったのを幸いに、トリプタノールをこっそりリーマスに置き換えることに成功して、徐々にリーマスを増量していった。体重低下や交通事故など投薬の変更による身体の変化や混乱に困っていた私は、薬のせいとは知らずに状況報告だけはしていた。

 

私の18年間近くの漫然処方は突然の定期的見直しによって終了したが、薬物投与は減るどころかどんどん増えていった。軽症うつ病から双極Ⅱ型障害へと診断名が変わっただけで、薬漬けの方針は変わることがなかった。通院回数や薬価の高い薬、新たな病気という理由で医療費はどんどん上がっていく。

 

今から考えると、18年間の漫然処方を止めると同時に、よくよく状況を観察していれば、このときに通院や服薬を止めるチャンスだったのは間違いない。本当に双極Ⅱ型障害かどうか、主治医と議論になったが、私の方がおれて病気を受け入れたのが間違いだった。私の主張の最大の根拠は、何の社会的障害もないことだった。ここから不必要だけでなく有害な薬物治療が実に8年も続くことになる。

 

さすがに最後の1年ぐらいになると、主治医も自分の診断が怪しいと思い始めたようだった。私の診察の前になると「定期的見直し」をこっそりするようになっていたのである。

 

紙カルテは膨大な量になるはずで、これらをまとめた「診療経過の要約書」というものがあるらしい。私は25年以上同じクリニックへ通院しているのでこれが数十枚あるようだ。私の診察の前になると、堪らず診察室から飛び出してこの書類を持ち込む光景が毎回みられるようになった。後から分かったが、主治医はこれらを袖の下に隠し持って私の診察をしていたことが看護師の指摘で明らかになった。

 

最近、減薬中の薬処方のために近所の精神科クリニックへ4か月ぶりに通院した。ここへの紹介状は「双極性障害確定診断根拠なし」ということだったが、念のため3ヶ月分リーマスをもらっていた。「先生、私はほんとうにリーマスを飲んだ方がいいんですか」と訊いたところ、「いや、飲まなくていいと思います」とのことだった。私の自己診断の方が正しかったことを認める医師がまた一人増えた。

 

定期的な見直しは漫然処方中にやるべきで、しかも正しくやるべきである。つくづくそう思う。