昨日、緊急で気管切開をしたというのに、朝、私が病室へ行くと、ベッドを上げて、テーブルの上で、昨日職員から受け取った、カルテや書類書きをしている。
「大丈夫!?」驚いた私はそう発した。
夫は、口パクで「大丈夫」と。
ペンやジェスチャーで、私に説明をする。
頭の中は、患者さんを心配していることでいっぱいのようだ。
ほとんどが、紹介状だった。
毎日職員が交互にカルテや書類を持ってきて、夫が書いたものをクリニックに持って帰り、患者さんに連絡をとる。
そして、夫は胃瘻を造設し、胃瘻から経管栄養を入れるようになった。
シャワーも自分で、私の介助もなく入っていた。
だが、日に日に夫が弱っていくのがわかる。
カルテや書類書きも、日に日に減っていった。
検査ばかりでストレスも溜まっているようだ。
だが、夫は弱音を吐かない。
私なら耐えきれないのに‥
子供たちは、毎日のように学校から帰ったら父親に会いにきてた。
夫の嬉しそうな眼差し。
時間が過ぎてほしくなかった‥。
面会時間ギリギリまでいつもいた。
夫が、「もう帰る時間だよ」と教える。
子供たちは不服そうだが、「明日また来るね!」と。
夫の体調が安定しているときは、看護師に伝えて私はクリニックの仕事に走った。
卸業者には先ず、在庫の点滴など、薬品を返品してもらい、(袋や箱が空いていたら返品不可だと。)
医師会に出向いてことの説明をしたり、職員の給与明細の準備‥
作業も中途半端なまま、また病院へと向かう。
そして、その日のクリニックでの作業報告を夫にする。
夫と私は、代診を探すか、クリニックを閉めるかを迷っていた。
代診をしてくれるところは見つかったが、相手先の指定する時給がバカ高く、夫は即座に断った。
私たちは希望を捨てなかった。
私は夫に、「今、クリニックがあるから心配事や、やらないといけないことがありすぎる。店舗代も高額だ。
また、職員のこの先のことも考えてあげないといけない。
先ず、今のクリニックを閉めよう。
そして、治療に専念して、また復帰したかったら、もう一度クリニックを復活させよう。」
夫は泣いていた。
うん。
うん。
と、頷いていた。
ありがとう。
ごめんね。
口パクで言って、私の手を握った。
力強く握っていた。
続く‥