前回の続き。


学校で使っている客家語の教科書や、図書館で借りた子ども向けの客家語の本を調べたりしてみるが、当然のことながら出てくる語彙は限られている。


しかも客家語と一口に言っても、方言がいくつもあって、発音もそれぞれ異なる。


それで手がかりはないかとネットで調べてみたところ、教育部が編纂した客家語のオンライン辞書が見つかった。


しかもありがたいことに、音声まで収録されている。



何というか…すごい執念だな…。


日本語の方言も研究している人はたくさんいるだろうけど、こんなふうに国をあげて細かくデータベース化されたりしてるんだろうか。


しかも誰でもタダで利用できるなんて、なんて気前がいいんだろう。



まぁそれはともかく。



オンライン辞書に発音記号も表記されているので、早速一つ一つ調べては、子ども用の原稿に書きこんでいく。


予備知識ゼロの状態から始めているので、膨大な作業量である。


しかも同じ字で読み方が違うものや、辞書に出てこない字などもある。


音声データを聴き比べては修正を繰り返す。


あまりの煩雑さに途中で何度も泣きそうになった。



私は一体なんでこんなクレイジーなことをしているのか。


客家人じゃないし、台湾人ですらないのに。


そもそも一体誰のためのコンクールなんだ。


客家文化継承のためじゃないのか。


私は日本人だ。


意味がわからない。



ただ、これを義父母や夫に一日二日でやれと言っても確かに無理だろう。


客家語の発音記号はアルファベット表記だが、彼らは中国語すら注音符号で教育を受けているので、アルファベットで表記する習慣がない。


私は大陸式の漢語ピンインを最初に習ったので、アルファベット表記には慣れている。


だから客家語の発音記号もなんとなく理解できる。


だから。


だから?



…たとえ無理でもやってくれよ。


仮にもネイティブだろ。



と、散々心の中で泣き言を言い、悪態をつきながらも、何とかかんとか作業を終え、最後はドヤ顔で完成原稿を娘に渡す。


それを見た娘、明らかにほっとしている。


よしよし。



そして翌日からは毎日、音声データを聴きながら一緒に朗読の練習。


そうして迎えたコンクールの日。


すっかり原稿を暗記してしまった娘、本番でもそれほどプレッシャーなく読めたようで、あーやっと終わった、とスッキリした顔で帰ってきた。



結果はまだわからないが、それはもうどうでもいい。


ミッションインポッシブル、完了。


なんかもう、できないことなんか一つもない気がしてきた。