令和元年の最後、ちょっとした病気になった。
こういうとき何より困るのが食事である。
我が家は私以外に料理をできる人間がいないので(しかもその私すら料理上手ではない)、私が体調を崩すと必然的に食事はほぼすべて外食になる。
台湾というと、おいしい食べ物がたくさんある場所、というイメージを持つ人が多いらしい。
私自身も最初はそうだったが、滞在期間が長くなるにつれて、そういう印象は少しずつ薄れていった。
故郷の食べ物は毎日食べていても飽きないが、外国のものはしばらくすると飽きる。
どんなにおいしいと思っていたものでも飽きるのである。
体調を崩している間、ゴハン買い出し係の夫から毎日、「何食べたい?」という質問(催促)があった。
平日は夜、週末になると昼・夜の二回である。
健康で余裕のあるときなら、ステーキだの寿司だのローストチキンだのと、好きなものを頼めばいい。
だが今は体調が悪い上に懐も寂しい月末である。
注文できるものは限られている。
最初の数日間は、普段からよく利用している近所の店やデリバリーで何とかしのいだ。
が、それも一週間がたつ頃には、思いつくものを全部食べ尽くしてしまった。
しかも病気が治って来たと思ったら、今度は胃腸の具合が悪い。
これはきっと、前日夕飯に食べたリゾットのせいだ。
夫と子どもたちが昼食に食べ残したのをテイクアウトしてきたリゾット。
これでもかとニンニクの入ったリゾット(台湾のイタリアンはどこもやたらニンニク入れすぎだと思うのは私だけだろうか?)。
「何食べたい?」
と聞かれて、もはや何も頭に浮かばない。
聞かれるのが苦痛ですらある。
何かアイデアは浮かばないかとUberを必死に検索したところで、何も浮かんでこない。
だって食べたいものが何もないのである。
いや、そうではなくて、正しくは…
食べたいものが、「ここに」、何もない。
私が食べたいのは、日本食。
日本の家庭料理。
出汁の香りがするもの。
脂ぎってないもの。
薄味でもおいしいもの。
日本米。
和食に限らず洋食でもいい。
そんな日本にいたら当たり前に手に入る食べ物が、自分が動けない今、ここでは、手に入らない…。
私は半分ヤケクソになりながら、こう言った。
「コンビニでサラダ買って来てくれる…?」
生野菜。
究極にあっさりしたもの。
それにレンチンした白ゴハン。
本当は生野菜じゃなくて梅干し食べたいところだけど。
弱った胃には、もうそれだけでいいのである。
…なんてことを言っていて、いつか入院が必要な病気にでもなった場合、私は一体どうすればいいのだろう…。
台湾では入院中の食事も基本自分で用意しなければならない(らしい)というのに…。
そうなる前に逃げ帰るべきか、などという考えに無駄な時間を費やす、滞在十数年目の悲しい日本人であった。