Chapter1.0「12月18日午前11時」
カレンダーの日付は12月17日。12月も半分が過ぎ、この時期になれば世間は騒がしくなるものだ。少し早めの年越し準備や忘年会、そして、日に日に近付くクリスマス。
「…遅いですね、美月さん」
「うーん、ちょっと遅いかな?」
騒がしい世間とは逆に、この場は静かだった。天海高校一年のとある教室の一角。そこにいたのは二人の少女が一つの机を向かい合うように座っている。
少女の一人は久地 悠-くじ はるか-。肩から少し伸びる程度で切り揃えられている髪型をしており、鞄以外に大きな袋を持っている。その袋の特異な形から、中にはギターのような楽器が入っていることが容易に想像できた。
もう一人の少女は天導 ひなた-てんどう ひなた-。髪を腰まで伸ばしており、その色は金色に輝く。そして背は悠よりも一回りも低く、悠と同じ学生服を着ていなければ同学年と思われないだろう。
「…まぁ、本来は親を交えた三者面談ですからね。両親のいない美月さん相手では色々勝手が違うのでしょうね」
ひなたは同学年でもあるにもかかわらず、悠に向かって敬語で会話する。悠も苦笑いを浮かべ、「そうだよね」と答えた。
悠とひなたの学校では12月の授業は既に終了しており、今日二人が教室に居るのは、三者面談に呼ばれたためである。親も交え、今後の進路を相談するものだった。悠とひなたは数分もかからず終わったものの、残る美月は十分以上も面談したまま帰って来ない。それはおそらく、ひなたの言ったとおり美月には両親がおらず、担任教師が全て責 任を持って相談をしないといけないため長引いているのだろう。
「…それに、美月のことだから『いいよ、何でも。テキトーで』とか言って余計困らせてそう」
クスクスと笑いながら悠はその光景を想像する。
「確かに、美月さんなら言いかねませんね」
釣られて小さく笑うひなた。そんな会話をしている間にも時間は流れているが、美月は一向に帰って来ない。
ふと、ひなたは悠に質問をする。
「もうすぐ、クリスマスですね。悠さんはどうするんですか?」
ひなたの脈絡のない質問に、ひなたは一瞬硬直する。
「どうって。…毎年、家族と過ごしてるよ?」
「家族って…。美月さんは?」
「うーん。一応毎年誘うけど。『家族の団欒を邪魔できないって』って言って断るの」
「あ、いや、私が聞きたいのはそうではなく…」
軽く頭痛を覚え、頭を掻くひなた。小さく深呼吸をして改めて聞く。
「…つまり、美月さんとクリスマスを一緒に過ごしたことがないんですね?」
「うん、ないよ」
その答えにひなたはバンと机を叩き、身を乗り出す。いきなり顔が近付き、悠は反射的に後ずさる。
「クリスマスですよ!?好きな人と過ごしたいと思わないんですか、アナタは!?」
「こ、声が大きいよ…!」
その反応にひなたは軽く咳払いをして、平静を装ってイスに座った。心中、穏やかではなかったが。
悠は美月のことが好きだった。友人以上に。そう、恋をしていた。幼馴染であるにも関わらず、同性であるにも関わらず。そして何故かこの友人、ひなたはその恋を応援しているのだ。それも積極的に。
「もちろん、過ごしたいよ。でも、どう誘って良いか分からないし…」
「何を言っているのです。ストレートに言えば良いではありませんか。『クリスマス二人きりで過ごしたい』と」
「す、ストレート過ぎ!無理、恥ずかしいよ、そんなの!」
「ですから、それこそ何を言っているのです。あなた方は女友達で、親友で、幼馴染でしょう?ストレートに誘っても全然、違和感ないではありませんか」
「…あ。そっか」
などと話していると、教室の扉が開き、一人の少女が入ってくる。真っ黒な髪を腰まで伸ばして、眠そうな目をこすっている。それでも右手に持っている携帯電話を器用に手元でクルクルと回している。彼女が、今二人が話していた神薙 美月-かんなぎ みづき-だ。
「…先生の話って、授業じゃなくても眠くなるもんだね」
「それは、ただ単に美月さんが寝不足なだけです」
美月は悠の隣に座ると、その肩に頭を乗せる。目を瞑り、このままでは寝てしまいそうだ。
「…寝る前に、美月さん。悠さんが貴女に言いたいことがあるそうですよ?」
「え?」
いきなりのことに悠が戸惑う。そして先程の会話を思い出し、一気に顔を真っ赤にしてしまう。
「ん、何?」
「え、いや、その…!」
しどろもどろとする悠に怪訝そうな表情を見せる美月。仕方ない、と溜め息をついてひなたが代弁する。
「クリスマス、二人で過ごしたいそうです」
「え、誰と誰?」
悠は自分と美月を交互に指差す。理解した美月は一応確認する。
「アタシと悠で?」
「う、うん」
「いいよ、別に」
悠と違いあっさりと答える美月に対し、即オッケーを貰ったことに喜ぶべきか、それとも自分が何にも意識されていないことを嘆くべきか、戸惑う悠。
「ひなたは?無理なの?」
いきなりひなたにも矛先が向かうが、ひなたは至極冷静だった。
「申し訳ございませんが、家族と約束があるもので」
「あぁ、なら邪魔しちゃ駄目か」
先程の悠との会話を思い出し、確実に回避できるであろう選択肢を用意し、見事に回避するひなた。この冷静さを見習うべきだと、悠は密かに思った。
「でも、クリスマス。アタシはバイトあるから。夜になるけど良い?九時位だけど」
「うん、全然大丈夫」
「なら、それで」
と言うと、美月は眠りに衝いた。それを見計らって悠は小さくガッツポーズを取った。何故か、対面にいるひなたの方が大きくガッツポーズを取っていたのが不思議でしょうがなかった。
カレンダーの日付は12月17日。12月も半分が過ぎ、この時期になれば世間は騒がしくなるものだ。少し早めの年越し準備や忘年会、そして、日に日に近付くクリスマス。
「…遅いですね、美月さん」
「うーん、ちょっと遅いかな?」
騒がしい世間とは逆に、この場は静かだった。天海高校一年のとある教室の一角。そこにいたのは二人の少女が一つの机を向かい合うように座っている。
少女の一人は久地 悠-くじ はるか-。肩から少し伸びる程度で切り揃えられている髪型をしており、鞄以外に大きな袋を持っている。その袋の特異な形から、中にはギターのような楽器が入っていることが容易に想像できた。
もう一人の少女は天導 ひなた-てんどう ひなた-。髪を腰まで伸ばしており、その色は金色に輝く。そして背は悠よりも一回りも低く、悠と同じ学生服を着ていなければ同学年と思われないだろう。
「…まぁ、本来は親を交えた三者面談ですからね。両親のいない美月さん相手では色々勝手が違うのでしょうね」
ひなたは同学年でもあるにもかかわらず、悠に向かって敬語で会話する。悠も苦笑いを浮かべ、「そうだよね」と答えた。
悠とひなたの学校では12月の授業は既に終了しており、今日二人が教室に居るのは、三者面談に呼ばれたためである。親も交え、今後の進路を相談するものだった。悠とひなたは数分もかからず終わったものの、残る美月は十分以上も面談したまま帰って来ない。それはおそらく、ひなたの言ったとおり美月には両親がおらず、担任教師が全て責 任を持って相談をしないといけないため長引いているのだろう。
「…それに、美月のことだから『いいよ、何でも。テキトーで』とか言って余計困らせてそう」
クスクスと笑いながら悠はその光景を想像する。
「確かに、美月さんなら言いかねませんね」
釣られて小さく笑うひなた。そんな会話をしている間にも時間は流れているが、美月は一向に帰って来ない。
ふと、ひなたは悠に質問をする。
「もうすぐ、クリスマスですね。悠さんはどうするんですか?」
ひなたの脈絡のない質問に、ひなたは一瞬硬直する。
「どうって。…毎年、家族と過ごしてるよ?」
「家族って…。美月さんは?」
「うーん。一応毎年誘うけど。『家族の団欒を邪魔できないって』って言って断るの」
「あ、いや、私が聞きたいのはそうではなく…」
軽く頭痛を覚え、頭を掻くひなた。小さく深呼吸をして改めて聞く。
「…つまり、美月さんとクリスマスを一緒に過ごしたことがないんですね?」
「うん、ないよ」
その答えにひなたはバンと机を叩き、身を乗り出す。いきなり顔が近付き、悠は反射的に後ずさる。
「クリスマスですよ!?好きな人と過ごしたいと思わないんですか、アナタは!?」
「こ、声が大きいよ…!」
その反応にひなたは軽く咳払いをして、平静を装ってイスに座った。心中、穏やかではなかったが。
悠は美月のことが好きだった。友人以上に。そう、恋をしていた。幼馴染であるにも関わらず、同性であるにも関わらず。そして何故かこの友人、ひなたはその恋を応援しているのだ。それも積極的に。
「もちろん、過ごしたいよ。でも、どう誘って良いか分からないし…」
「何を言っているのです。ストレートに言えば良いではありませんか。『クリスマス二人きりで過ごしたい』と」
「す、ストレート過ぎ!無理、恥ずかしいよ、そんなの!」
「ですから、それこそ何を言っているのです。あなた方は女友達で、親友で、幼馴染でしょう?ストレートに誘っても全然、違和感ないではありませんか」
「…あ。そっか」
などと話していると、教室の扉が開き、一人の少女が入ってくる。真っ黒な髪を腰まで伸ばして、眠そうな目をこすっている。それでも右手に持っている携帯電話を器用に手元でクルクルと回している。彼女が、今二人が話していた神薙 美月-かんなぎ みづき-だ。
「…先生の話って、授業じゃなくても眠くなるもんだね」
「それは、ただ単に美月さんが寝不足なだけです」
美月は悠の隣に座ると、その肩に頭を乗せる。目を瞑り、このままでは寝てしまいそうだ。
「…寝る前に、美月さん。悠さんが貴女に言いたいことがあるそうですよ?」
「え?」
いきなりのことに悠が戸惑う。そして先程の会話を思い出し、一気に顔を真っ赤にしてしまう。
「ん、何?」
「え、いや、その…!」
しどろもどろとする悠に怪訝そうな表情を見せる美月。仕方ない、と溜め息をついてひなたが代弁する。
「クリスマス、二人で過ごしたいそうです」
「え、誰と誰?」
悠は自分と美月を交互に指差す。理解した美月は一応確認する。
「アタシと悠で?」
「う、うん」
「いいよ、別に」
悠と違いあっさりと答える美月に対し、即オッケーを貰ったことに喜ぶべきか、それとも自分が何にも意識されていないことを嘆くべきか、戸惑う悠。
「ひなたは?無理なの?」
いきなりひなたにも矛先が向かうが、ひなたは至極冷静だった。
「申し訳ございませんが、家族と約束があるもので」
「あぁ、なら邪魔しちゃ駄目か」
先程の悠との会話を思い出し、確実に回避できるであろう選択肢を用意し、見事に回避するひなた。この冷静さを見習うべきだと、悠は密かに思った。
「でも、クリスマス。アタシはバイトあるから。夜になるけど良い?九時位だけど」
「うん、全然大丈夫」
「なら、それで」
と言うと、美月は眠りに衝いた。それを見計らって悠は小さくガッツポーズを取った。何故か、対面にいるひなたの方が大きくガッツポーズを取っていたのが不思議でしょうがなかった。