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Chapter5.2「三人の笑顔」


 疲労が残る中、目を覚ましたひなた。周りを見渡すと、見知らぬ風景が広がっていた。目を右に左に動かし、その見知らぬ風景の中、知っているものがあったのでそこに視線を合わせた。悠だった。

「起きた、ひなた?」

「悠さん…、ここは?」

「美月の部屋。…さすがにこんな夜更けに倒れた女の子を私の家に連れて行く訳にはいかないから。…上手く説明できないし」

 適切な判断だと感じ、笑みを浮かべた。ひなたは体を起こした。どうやら、美月のベッドで寝ていたらしい。疲れは残っているものの、傷は癒えていた。
 それでも自分の具合を確認するために体を見ようとしたが、その際自分の着ている服を見て止まってしまった。ひなたが今着ている服は、戦闘時に着ていた服でも、ひなたの私服でもなかったからだ。服のサイズは自分よりも一回りも二回りも大きかった。

「ごめん、勝手に着替えさせちゃった。美月のパジャマなんだけど。…あとで美月にも謝っておかないと」

「いえ、感謝します。私服で寝ていては寝苦しくて起きていたでしょう」

 美月のパジャマを少し見つめた後、ひなたは美月の部屋を見回した。必要最低限の物しか置いておらず、とても年頃の女子高生の部屋には見えなかった。そんな中、目が行ったのがドアの近くに貼ってあるコルク生地のボードだった。そこには美月と悠の二人で撮った写真が何枚もあった。

「あぁ、あれ?意外だよね。美月って結構写真とか好きみたい」

「そうみたいですね」

 悠も写真を眺めて、少しだけ顔を赤くする。その顔の火照りが思い出を気恥ずかしく感じてなったものではなく、別の感情から来たものだと、何となくひなたは理解した。

「悠さん、一つ聞いて良いですか?」

「うん?何?」

「アナタ、美月さんのことが好きなんですか?それも、友達以上に」

 それは質問という感じではなく、断定した言い方だった。悠はみるみる顔を赤くし、どう答えて良いのか戸惑った。その反応にひなたは肯定と認めた。

「すみません、もう少しオブラートに包むべきでしたね」

「い、いいの。…ひなたの言う通りだよ。私、美月のこと、好き」

 二人の間で一瞬の沈黙が流れる。悠は勇気を出して続きを話す。

「し、信じてもらえるかどうかは分らないけど。私、別にそういう人じゃないんだよ?多分。でも、いつの間にか好きになってて…。き、気持ち悪いよね。こんなの」

 泣きそうな顔をし、それでも必死で堪えて話す悠に、ひなたは何も嫌悪を感じることはなかった。むしろ、そこまで真剣に人を愛することが出来る悠を羨ましく感じた。

「別に悪いと思ってはいませんよ。好きになった相手がたまたま女子だっただけではありませんか」

「ひなた…」

「委員長としては律するべきなのかもしれませんが、友達としては応援しますよ」

 ひなたは小さく微笑む。その笑顔を見て悠は元気を取り戻した。

「美月さんには内緒にしておくので、その点はお気にせず」

「ありがと」

 二人の会話が一通り終わると、遠くで玄関のドアが開く音がする。となれば、この部屋の本来の住人が帰ってきたのだ。ひなたは悠に耳元で話しかける。

「両想いになれると良いですね」

「い、い、いいよ。べ、別に。私はそ、側にいられたら、それで…!」

「本当に?」

「いや…、出来ればお付き合いしたいです」

「安心してください。私が全力を持って力を貸しますので」

 小さな胸を大きく張り、ひなたは何故かやる気満々だった。悠はふと、生徒会役員が同性愛を推して良いのか、とかやっぱり言うんではなかったと後悔したりしていた。

「ただいま」

 美月は部屋に入るなり、ベッドに横になる。スペースの為にひなたが少し移動する。

「お疲れ様です、終わったようですね」

「何とかね。…疲れた」

「今日は熟睡かな?」

 悠がそう言うと、美月は苦笑いを浮かべた。疲労から察するに次の日も熟睡するだろうと美月は予想した。

「という訳で明日起こしてね」

「明日は学校も休みなのでいっそのこと一日中寝てしまっては?」

「それはもったいないし。それに悠の朝御飯が食べられなくなる」

「うわ、私が用意するの勝手に決まってるし」

 そんなやり取りをしながら三人は笑う。三者三様の笑顔で。悠とひなたも横になる。美月を挟むようにベッドの中に三人並ぶ。少し狭いが、悪い気はしなかった。

「そうだ、せっかくだし三人で写真でも撮ろっか?」

「いきなりですね」

「でも、良いんじゃない?」

 美月は携帯電話を開きカメラモードにする。美月は右手側にいる悠を抱き寄せ、携帯電話を持った右手を伸ばして三人がフレームに入るように合わせる。ひなたも少し美月に寄り、画面に入るように移動する。

「はいはい、笑って」

 三人が笑顔を作ると、丁度タイミングよくシャッター音が鳴る。美月は撮り映えを確認した。悠は満面の笑顔なのに、美月は相変わらず皮肉っぽいぎこちない笑顔で、ひなたも笑っているのか分かりにくいほど小さな笑顔だった。

「…ひなた、もう少し笑いなよ」

「美月さんこそ、もう少し可愛らしく笑ってはいかがですか?」

 などと口論する二人。だがこれが自分達の笑顔なのだと認識し、写真を保存する。携帯電話をたたむと、

「お休み!」

 と言って我先にと、布団を被り眠り始める。それを合図に三人は目をつむる。その中で一番に眠りについたのはひなただった。

「ひなた、早っ」

 美月は目を開けて、ついひなたにつっこむ。当の本人からは何の反応も返って来ないが。

「美月も、いつもあんな感じだよ?」

「あ、そう?」

 悠はひなたが本気で寝ていると確信し、美月の腕をしっかりと握り締めた。美月は、ケガ等を心配しているのだと思い、悠に笑顔を見せた。しかし美月の考えとは裏腹に、悠から出た言葉は意外なものだった。

「あのさ…、ひなたと仲良くなるのは良いけど。…一番は私だからね」

「………はい?」

 じぃっと睨みつける悠。

「悠、ヤキモチ?」

 と、冗談交じりで言ったが、

「…悪い?」

 悠は本気で返した。もし美月が男子だったら今のやり取りで、一撃で恋に落ちていたかもしれない。美月は珍しく女の子っぽく笑い、悠の頭を撫でた。

「大丈夫、当たり前でしょ?」

 納得していない表情の悠に、美月は溜め息をつくと、悠をしっかりと抱きしめた。

「悠がいないと、アタシは何も続けられないよ」

「うん…。ごめん、変なこと言って」

「良いってば」

 悠を嫁にもらうヤツは大変そうだ、と他人事のように考える美月。悠は納得したのか、嬉しそうに美月の腕にしがみついて眠りにつく。美月はもう一度溜め息をついてから、残った腕で携帯電話を開き、先程撮った写真を眺めた。ふと、アスモデウスの声が耳元で響く。

「守らないといけない笑顔が一つ増えたね」

「いや、ひなたは私が守らなくても大丈夫でしょ」

「そうかもね」

 ただ、自分に友達が増えたのは確からしい。携帯電話を閉じて、美月も眠りにつく。先程の写真をもう一度頭で思い浮かべ、これからはどうやらこの三人の笑顔が『いつも通り』になるらしい、と感じながら…。