Chapter5.0「決着の一閃」
カイムの放った攻撃が美月に当るほんの数秒だった。そのやり取りがあったのは。フェンリルが消え、それでもなお美月はフェンリルに向けて語りかけていた。
「ちび、アンタの想いと願いはアタシが必ず叶える。…『約束』する。だから、ちび。アタシは欲しい。あんたの『約束』を叶える力を…!」
「美月、キミには知っている筈だ。あの子犬の小さな願いに応える方法を。そしてフェンリル、キミは知っている筈だ。美月の小さな願いに応える方法を」
アスモデウスの声が美月の耳元で響く。美月は、自然とソレをしていた。携帯電話を取り出し、キーを叩く。
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fenrir@devil
送信。
「ちび、いや…」
送信完了と共に、受信完了の着信音が響く。
「行くよ、フェンリル!」
「行こう、お姉ちゃん!」
消えたはずのフェンリルの声と想いが、そして力が美月に流れ込む。美月の目の前に朱色の魔法陣が浮かぶ。美月はその魔法陣に身を任せた。その瞬間美月の服が変わり、目の前に迫ってくる火球が跡形もなく弾け飛んだ。
「せっかくの良い夜なんだ…」
美月は倒すべき敵をしっかりと指差し、力強く告げる。
「さぁ、迷わず闇に還れ…!」
美月はカイムに向かって走る。突進してくる美月に対してカイムは連続で火球を放った。だが、それらは美月に当る前に砕け散る。その理由は至って簡単だった。美月の手足に装備されている甲。それらには全てフェンリルの巻いていた物と全く同じ、全ての魔法を無効化する『グレイプニール』があったからだ。
この装備を信頼し、美月は何の回避動作も、防御姿勢もとらずに突っ走る。相手の火球を物ともせず、美月は一気にカイムの懐まで踏み込む。勢いよく回し蹴りを繰り出す美月。カイムは辛うじてその蹴りを剣で受け止めた。
「なるほど、フェンリルと契約したのか。考えたな、人間…!」
美月の足に付いた甲とカイムの剣で鍔迫り合いが続き、火花が散る。
「…アンタ、ちょっと黙れ」
足を一旦下げ、渾身の右ストレートでカイムを殴る。体勢を崩したカイムに何度も回し蹴りを連続で放つ。嵐のような連続攻撃にカイムは防ぐことで精一杯だった。そして、美月は防御の甘いところを見つけることが上手かった。的確に隙を攻撃し、確実に体勢を崩していく。
「吹き飛べ!」
カイムの腹に蹴りを放ち、カイムは衝撃で膝を崩す。更に美月は小さく跳び上がり、回し蹴りを顔面に浴びせる。渾身の一撃は、カイムを遥か後方まで吹き飛ばした。だがカイムもただ吹き飛ぶだけではなかった。空中で体勢を崩し、剣先に炎を溜める。大きくなる炎は今まで撃ってきた火球よりも遥かに大きかった。
「調子に乗るなよ…!いくらグレイプニールが魔法を打ち消すと言っても、それは持ち手が未熟では意味が無いのだ。それは先程で既に証明済みだ」
美月は数分前の光景を思い出す。確かに、フェンリルは大質量の火球の前に敗れた。そして今、目の前で展開されている火球はそれよりも大きかった。魔力の素養が少ない美月が喰らえば耐え切れないかもしれなかった。だが、美月は退く気にはなれなかった。フェンリルとの『約束』のため、そしてそれ以上にフェン リルの力を信じていた。
「そう思うなら、やってみなよ…」
両手を交叉させ、手の甲についている鎖が揺れる。カイムは美月に向かって火球を放った。その火球を寸前で受け止める。だが、威力は衰えずに美月の目の前で燻っている。カイムは更に力を込めるため、剣を両手に持ち、前面に押し出す。
「ちっ…!」
思わず舌打ちが漏れる。思っていた以上に威力が大きかったのだ。今は何とか均衡を保っているが、少し力を込められたらすぐに崩れてしまいそうな状況だった。
「ここまでだ、人間!」
「かもね。…でもアンタ、一つ忘れてるよ」
「何?」
カイムには美月が何を言いたいのか理解できなかった。だが、それはすぐ形となって現れる。美月が火球と競り合っている隣を何かがすり抜ける。ソレは更に加速し、カイムに向かって一直線に突進してくる。ひなただ。ラミエルを構え、迷うことなく突進する。
「き、貴様!」
「先程の様に防いでみては如何ですか?」
それは無理な注文だった。カイムは美月に向かって放っている火球の制御で手一杯だった。先程ラミエルを防いだ時のように、何かを呼び出して盾にするなどという芸当をする余裕などないのだ。
「『最大の攻撃の後は最大の弱点』でしたか?…確かに、良い勉強になりました」
真顔で皮肉を言い、ひなたはラミエルをカイムに押し付ける。
「授業料は、キチンと支払いますよ!」
耳を衝くような炸裂音が響き、爆風が当たり一面に広がる。カイムは衝撃で大きく吹き飛んだ。グレイプニールが装備されていた右腕が吹っ飛び、右胸等も損傷していた。ひなたはというと、渾身の一撃を放ち、疲労からその場に立ち尽くす。カイムは次の攻撃が来る前に、すぐさま逃げようとする。が、ひなたと入れ 替わるようにひなたの側を通り過ぎる影がある。今度は美月だった。いつの間にか服が黒衣に変わっており、右手にはテュルフィングを持っている。
「締めはお任せしましたよ、神薙さん。いえ…」
風のように通り過ぎた美月に向かって、
「…美月さん」
小さく微笑み語りかけるひなた。その笑顔は本当に小さく、多分真正面から見なかったら笑っていると気付かなかっただろう。だが、美月はその笑顔をしっかりと見ていた。
「任せといて委員長、いや…」
美月もひなたに笑顔で返す。皮肉めいた、ぎこちない笑顔で、
「ひなた…!」
黒い魔法陣が美月の目の前で浮かぶ、その力全てを剣に込めて、剣を大きく振る。
「かっこよく決めるよ!アスモデウス!」
「あぁ、終わりにしようか」
二人の声が重なる、一振りの剣閃に合わせて。
「闇月一閃!!」
黒い光の剣閃は、カイムをしっかりと捉え、一刀両断した。
「ば、ばかな…!に、人間に!?この私が…!?ぐぁぁぁぁぁっ!」
カイムは大きな断末魔を上げ、灰となって散った。辺りには何も残らず、その光景を確認した美月とひなた、そして二人の戦いを見守っていた悠も安堵の溜め息をもらす。
「ひなた」
美月はひなたの元に駆け寄ると、手を上げる。ひなたもそれに呼応して手を上げ、二人はハイタッチした。気持ちの良い音が鳴り、二人は再び笑った。それぞれの笑顔で。
「美月!」
悠は美月の元に駆け寄る。悠と目が合うと、いきなり美月は悠の体を抱きしめる。咄嗟のことに戸惑う悠だったが、すぐに美月が謝る。
「ごめん、悠。少しだけ…」
美月は悠の体を力強く抱きしめる。よく見ると、美月の体は小刻みに震えていた。それは今の戦いによる恐怖ではなく、怒りや悲しみや、そう言ったものから来るものだと悠は察した。
だから、悠はそれを黙って受け止めた。悠の体を締め付けるように抱きしめる美月。抱きしめる力は痛い程に、身を裂くほどに強いが、それは美月が今感じている痛みなのだと、受け止めた。その代わり、悠は目一杯優しく美月を抱きしめる。今、誰かに優しく出来ない美月の分まで優しく悠は接する。
「ありがと、悠」
美月は悠から体を離す。携帯電話を取り出し、今度はスレイプニルを呼び出した。紫色に光るバイクが目の前に現れ、美月はそれにまたがった。
「ごめん、行ってくる。ひなたのこと、よろしく」
美月にはやらなければいけないことがもう一つある。フェンリルとの『約束』を果たすために。
「美月さん…、気をつけて下さいね」
そう言うと、ひなたは近くの壁にもたれ、目を閉じる。疲労が溜まったのだろう、寝息を上げて眠り始める。
「美月…!」
「大丈夫、必ず帰る。約束する」
悠にそう約束すると、美月は紫の光と共に走って行った。
カイムの放った攻撃が美月に当るほんの数秒だった。そのやり取りがあったのは。フェンリルが消え、それでもなお美月はフェンリルに向けて語りかけていた。
「ちび、アンタの想いと願いはアタシが必ず叶える。…『約束』する。だから、ちび。アタシは欲しい。あんたの『約束』を叶える力を…!」
「美月、キミには知っている筈だ。あの子犬の小さな願いに応える方法を。そしてフェンリル、キミは知っている筈だ。美月の小さな願いに応える方法を」
アスモデウスの声が美月の耳元で響く。美月は、自然とソレをしていた。携帯電話を取り出し、キーを叩く。
Eメール
新規作成
宛先入力
fenrir@devil
送信。
「ちび、いや…」
送信完了と共に、受信完了の着信音が響く。
「行くよ、フェンリル!」
「行こう、お姉ちゃん!」
消えたはずのフェンリルの声と想いが、そして力が美月に流れ込む。美月の目の前に朱色の魔法陣が浮かぶ。美月はその魔法陣に身を任せた。その瞬間美月の服が変わり、目の前に迫ってくる火球が跡形もなく弾け飛んだ。
「せっかくの良い夜なんだ…」
美月は倒すべき敵をしっかりと指差し、力強く告げる。
「さぁ、迷わず闇に還れ…!」
美月はカイムに向かって走る。突進してくる美月に対してカイムは連続で火球を放った。だが、それらは美月に当る前に砕け散る。その理由は至って簡単だった。美月の手足に装備されている甲。それらには全てフェンリルの巻いていた物と全く同じ、全ての魔法を無効化する『グレイプニール』があったからだ。
この装備を信頼し、美月は何の回避動作も、防御姿勢もとらずに突っ走る。相手の火球を物ともせず、美月は一気にカイムの懐まで踏み込む。勢いよく回し蹴りを繰り出す美月。カイムは辛うじてその蹴りを剣で受け止めた。
「なるほど、フェンリルと契約したのか。考えたな、人間…!」
美月の足に付いた甲とカイムの剣で鍔迫り合いが続き、火花が散る。
「…アンタ、ちょっと黙れ」
足を一旦下げ、渾身の右ストレートでカイムを殴る。体勢を崩したカイムに何度も回し蹴りを連続で放つ。嵐のような連続攻撃にカイムは防ぐことで精一杯だった。そして、美月は防御の甘いところを見つけることが上手かった。的確に隙を攻撃し、確実に体勢を崩していく。
「吹き飛べ!」
カイムの腹に蹴りを放ち、カイムは衝撃で膝を崩す。更に美月は小さく跳び上がり、回し蹴りを顔面に浴びせる。渾身の一撃は、カイムを遥か後方まで吹き飛ばした。だがカイムもただ吹き飛ぶだけではなかった。空中で体勢を崩し、剣先に炎を溜める。大きくなる炎は今まで撃ってきた火球よりも遥かに大きかった。
「調子に乗るなよ…!いくらグレイプニールが魔法を打ち消すと言っても、それは持ち手が未熟では意味が無いのだ。それは先程で既に証明済みだ」
美月は数分前の光景を思い出す。確かに、フェンリルは大質量の火球の前に敗れた。そして今、目の前で展開されている火球はそれよりも大きかった。魔力の素養が少ない美月が喰らえば耐え切れないかもしれなかった。だが、美月は退く気にはなれなかった。フェンリルとの『約束』のため、そしてそれ以上にフェン リルの力を信じていた。
「そう思うなら、やってみなよ…」
両手を交叉させ、手の甲についている鎖が揺れる。カイムは美月に向かって火球を放った。その火球を寸前で受け止める。だが、威力は衰えずに美月の目の前で燻っている。カイムは更に力を込めるため、剣を両手に持ち、前面に押し出す。
「ちっ…!」
思わず舌打ちが漏れる。思っていた以上に威力が大きかったのだ。今は何とか均衡を保っているが、少し力を込められたらすぐに崩れてしまいそうな状況だった。
「ここまでだ、人間!」
「かもね。…でもアンタ、一つ忘れてるよ」
「何?」
カイムには美月が何を言いたいのか理解できなかった。だが、それはすぐ形となって現れる。美月が火球と競り合っている隣を何かがすり抜ける。ソレは更に加速し、カイムに向かって一直線に突進してくる。ひなただ。ラミエルを構え、迷うことなく突進する。
「き、貴様!」
「先程の様に防いでみては如何ですか?」
それは無理な注文だった。カイムは美月に向かって放っている火球の制御で手一杯だった。先程ラミエルを防いだ時のように、何かを呼び出して盾にするなどという芸当をする余裕などないのだ。
「『最大の攻撃の後は最大の弱点』でしたか?…確かに、良い勉強になりました」
真顔で皮肉を言い、ひなたはラミエルをカイムに押し付ける。
「授業料は、キチンと支払いますよ!」
耳を衝くような炸裂音が響き、爆風が当たり一面に広がる。カイムは衝撃で大きく吹き飛んだ。グレイプニールが装備されていた右腕が吹っ飛び、右胸等も損傷していた。ひなたはというと、渾身の一撃を放ち、疲労からその場に立ち尽くす。カイムは次の攻撃が来る前に、すぐさま逃げようとする。が、ひなたと入れ 替わるようにひなたの側を通り過ぎる影がある。今度は美月だった。いつの間にか服が黒衣に変わっており、右手にはテュルフィングを持っている。
「締めはお任せしましたよ、神薙さん。いえ…」
風のように通り過ぎた美月に向かって、
「…美月さん」
小さく微笑み語りかけるひなた。その笑顔は本当に小さく、多分真正面から見なかったら笑っていると気付かなかっただろう。だが、美月はその笑顔をしっかりと見ていた。
「任せといて委員長、いや…」
美月もひなたに笑顔で返す。皮肉めいた、ぎこちない笑顔で、
「ひなた…!」
黒い魔法陣が美月の目の前で浮かぶ、その力全てを剣に込めて、剣を大きく振る。
「かっこよく決めるよ!アスモデウス!」
「あぁ、終わりにしようか」
二人の声が重なる、一振りの剣閃に合わせて。
「闇月一閃!!」
黒い光の剣閃は、カイムをしっかりと捉え、一刀両断した。
「ば、ばかな…!に、人間に!?この私が…!?ぐぁぁぁぁぁっ!」
カイムは大きな断末魔を上げ、灰となって散った。辺りには何も残らず、その光景を確認した美月とひなた、そして二人の戦いを見守っていた悠も安堵の溜め息をもらす。
「ひなた」
美月はひなたの元に駆け寄ると、手を上げる。ひなたもそれに呼応して手を上げ、二人はハイタッチした。気持ちの良い音が鳴り、二人は再び笑った。それぞれの笑顔で。
「美月!」
悠は美月の元に駆け寄る。悠と目が合うと、いきなり美月は悠の体を抱きしめる。咄嗟のことに戸惑う悠だったが、すぐに美月が謝る。
「ごめん、悠。少しだけ…」
美月は悠の体を力強く抱きしめる。よく見ると、美月の体は小刻みに震えていた。それは今の戦いによる恐怖ではなく、怒りや悲しみや、そう言ったものから来るものだと悠は察した。
だから、悠はそれを黙って受け止めた。悠の体を締め付けるように抱きしめる美月。抱きしめる力は痛い程に、身を裂くほどに強いが、それは美月が今感じている痛みなのだと、受け止めた。その代わり、悠は目一杯優しく美月を抱きしめる。今、誰かに優しく出来ない美月の分まで優しく悠は接する。
「ありがと、悠」
美月は悠から体を離す。携帯電話を取り出し、今度はスレイプニルを呼び出した。紫色に光るバイクが目の前に現れ、美月はそれにまたがった。
「ごめん、行ってくる。ひなたのこと、よろしく」
美月にはやらなければいけないことがもう一つある。フェンリルとの『約束』を果たすために。
「美月さん…、気をつけて下さいね」
そう言うと、ひなたは近くの壁にもたれ、目を閉じる。疲労が溜まったのだろう、寝息を上げて眠り始める。
「美月…!」
「大丈夫、必ず帰る。約束する」
悠にそう約束すると、美月は紫の光と共に走って行った。