Chapter4.2「重なる想い」
相手の懐に飛び込んでからの美月は、息も吐かせない程の素早さで連続攻撃を仕掛ける。剣による斬撃に加え、素早い蹴り技を何度も繰り出す。ひなたも攻撃に加わろうとするが、ひなたが攻撃に加わる隙間がないほどに美月の攻撃は絶え間が無かった。その連続攻撃の中で、美月は確かな実感を得ていた。
(いける…、コイツの戦闘能力は高くない)
現に、美月の攻撃を凌ぐことに精一杯で、カイムは反撃の糸口を見つけられずにいた。また、攻撃を凌いではいるものの、とても剣の扱いに慣れている者の動きとは言えない、ぎこちない動きだった。
「喰らえ!」
相手の腹に蹴りをお見舞いし、カイムは遥か後方まで吹き飛ばされた。剣を杖代わりにし、カイムは何とか立ち上がる。
「調子に乗るなよ人間!」
カイムは剣先から炎の塊を生成し、それを美月に放った。美月は体を捻らせて火球を避ける。カイムは続けて連続で放ってくる。
「これだけの力の魔法を連発するなんて。少しはやるじゃないか」
耳元でアスモデウスが感心した声を上げる。美月は火球を避けながら、接近するタイミングを図る。しかし、ソレは一向に見つけられない。
「多少のダメージは覚悟して突っ込むか…!」
多少の被害で済むかどうかは分らないが、美月は迫ってくる火球を睨む。と、その火球が途中で光の弾丸によって撃ち落される。美月はひなたの方に顔を向けた。ひなたはラミエルを外しており、最初に装備していた拳銃を構えている。
「私の存在を忘れてませんか?飛び道具は私が抑えますから、一気に決めてください」
「サンキュ!」
ひなたの射撃は正確無比だった。カイムの放つ火球に確実に命中させ、相殺していく。美月は安心して飛び込んだ。美月の目の前に黒い魔法陣が浮かび、それに剣を差し込んだ。美月の剣から黒い光が溢れる。
「さぁ、闇に還れ…!」
剣を両手に構え、一気に振るう。黒い光の剣がカイムに襲い掛かる。だが、それに対しカイムが起こした行動は、右手を突き出すというものだった。当然、そんなことで止められる筈がないと、その場にいた全ての者が確信していた。唯一本人、カイムを除いて。
「闇月一閃!!」
-パリーン!-
黒い光の剣はカイムに当る直前、音を立てて割れる。それはまるでフェンリルに魔法を無効化された時と同じ感覚であった。目の前で起きた光景を信じられず、一瞬硬直する美月。その隙にカイムは炎の弾を美月に向けて放つ。美月は飛び退いてそれを交わした。
「…今のは!?」
「なるほど、そういうことか…」
アスモデウスにはすぐに見当がついたようだ。そしてすぐに美月も気付く。カイムの右腕に、何か鎖が巻かれていることを。
「あの鎖…。まさかフェンリルと同じ?」
「ご名答だよ、人間の女よ。…もっとも、ただのコピー品で本家には劣るがね。まぁ、本家本元を装備してしまったら私自身も魔法を使えなくなってしまうから御免だがね」
カイムはあの歪んだ表情を見せる。
「では、これならどうですか?」
ひなたの方に美月とカイムの視線が向かう。ひなたはまたも、ラミエルを装備していた。そして既に突進体勢になっている。
「…確かに、ソレは防げないな」
カイムが答えるより先にひなたが突撃する。初速で既に最高速度となっており、まるでひなた自身が弾丸になったかの如く猛スピードでカイムに向かう。
「だが、要は私が喰らわなければ良いだけの話だ」
カイムは剣を地面に突き刺す。すると、地面から人間の型をした骨が何対も現れる。カイムはそれを壁にして、後ろに下がった。いきなりのことでひなたも攻撃を止める事が出来ず、その骨に向かって攻撃を放ってしまう。辺りに爆煙が広がった。
「その武器の最大の弱点は、強すぎることだ。強すぎる武器は咄嗟の対応も出来なければ…」
煙の中からカイムが現れ、剣でひなたに向かって突きをする。咄嗟に盾の部分で攻撃を防ぐが、その突きは攻撃のための布石だった。切っ先から炎が溢れ、ひなたに向け放たれる。
「攻撃の後は、反動でまともに動くことが出来ない」
カイムの言う通りだった。ひなたは頭で理解していても、攻撃をかわすことが出来ず、カイムの放った火球を喰らってしまう。盾の部分で直撃は免れたものの、地面に倒れてしまい、隙をさらしてしまった。
「なまじ強いから、防がれた経験などなかったのだろう?だが、最大の攻撃の後は最大の弱点だ」
カイムは今まで放ってきた火球よりも更に大きな火球を作り出し、ひなたに照準を合わせる。先程のダメージもあり、ひなたはまともに動けなかった。
「まぁ、キミにはもう必要のない知識かな?」
迫り来る火球に対し、ひなたは覚悟を決めて目をつぶった。だが、一向に火球は自分に向かって来なかった。恐る恐る目を開けると、自分の目の前には美月が立っており、彼女が代わりに火球を受け止めていた。が、あまりの質量のため受け止めきれず、美月は炎に包まれる。すぐに炎は消え、美月は震える両足で何と か体を支えた。
「だ、大丈夫?委員長」
「か、神薙さん。何て無茶を…!」
「美月!」
戦いの行方を見守っていた悠が美月の元に駆け寄る。倒れそうな美月を抱える悠。カイムはその光景を見ると、呆れたような仕草を取った。
「やれやれ、次はその子を焼かないといけないのかい?何回撃たせる気だ、キミ達は」
無論、悠がカイムの攻撃を受けたらひとたまりもない。盾になるどころか一瞬で蒸発してしまうだろう。それでも悠は物怖じせず、カイムを睨みつける。
「仲良く、消えて無くなれ!」
カイムは容赦なく火球を悠に向けて放つ。だが、その火球が悠に届くことはなかった。それよりも前に、小さなフェンリルが飛び出して、その身を盾にしたのだ。
「お姉ちゃん達は、僕が守る!」
「ち、ちび!」
フェンリルの鎖ならば、あるいは防げるかと思ったが、フェンリルは火球に耐え切れずに吹っ飛ぶ。美月はその小さな体をしっかりと受け止めた。
「無茶して!」
飛んできたフェンリルの呼吸は荒かった。
「成程、いかにグレイプニールの鎖でも持ち手が未熟ならば防ぎきれないものか」
カイムは一人納得したように喋っている。だが、それを聞いている者は一人もいなかった。フェンリルの体が少しずつ灰になっていく。美月はそれが何を表しているのか、よく分かっていた。
「何でアタシ達を守ったりなんかしたの…!?別に、仲間でもなんでもないのに」
「お姉ちゃん達じゃないと、もうお母さんを止められないと思うから。だから、死んで欲しくなかったから…」
消え行く体と声が美月に伝わる。そんな光景を目にしていても、カイムは容赦なく次に放つ火球の準備を始める。もう、彼女達を守る物は何もない。
「お姉ちゃん、アイツを倒して。そして、お母さんも倒して。…もう、これ以上お母さんに酷いことをさせないであげて…」
そして、ついにフェンリルの体が完全に消える。それと同時に美月たちに火球が放たれる。美月は立ち上がり、それをしっかりと見据えた。
「消え失せろ、人間の女よ!」
火球は美月に向かって直撃するはずだった。
‐パリーン‐
だが、その遥か手前で火球は弾け飛んだ。まるで、ガラスが割れるような音を立てて。カイムは目の前で起きた光景に目を疑った。
「せっかくの良い夜なんだ…」
弾けた火球から現れた美月は、黒衣ではなかった。白と朱色の服を身に纏い、手足には鎖の付いた甲を装備している。そして、狼のような耳と尻尾に似た装具をつけている。
「さぁ、迷わず闇に還れ…!」
カイムに向かって指差し、猛る怒りとは裏腹に、静かにそう告げた。
