Chapter4.1「暴走する悪意」
美月の目の前で、大きな爆煙が広がる。あまりの威力に立ち尽くすしかなかった。美月はひなたが放つ攻撃から離れる為に10メートル以上は後退した。だが、それでも爆煙はすぐそこまで迫っていた。
「凄い威力…」
一向に煙が晴れることがなく、美月はことの成り行きを見守るしか出来なかった。煙の中から、一つの影が飛び出す。ひなただ。美月の元に飛び、無事に着地した。
「凄い武器だね、それ」
「威力が大きすぎるのであまり使いたくはなかったのですが、そうも言っていられませんからね」
盾を構えなおし、煙を見据えるひなた。
「この武器は、相手に対して『等しく裁きを与える』ものです。いかに相手が強力な防御手段を使用していても、その全てを無視して攻撃できる。それこそがこの武器の最大の利点です」
ひなたが自分の武器について説明を始める。つまり、当れば確実にダメージを与えることが出来るというのだ。
「ってことは、流石に倒したかな?」
ひなたの説明を聞いて安心した美月は大きく伸びをした。目の前で今まで見たことのない威力の武器を見せられれば、美月も流石に安心した。
「ただし、当れば、の話ですが」
「え?」
ひなたの意味深な言葉と同時に、煙から影が飛び出る。フェンリルだった。真上に上昇し、巨体に似合わず、器用に電線の上に着地した。無傷とは言えなかったが、致命傷を与えている様にも見えなかった。フェンリルはこちらを睨みつけた後に、夜空へと飛んで行った。
「お母さん!」
いつの間にか、悠の元から離れて美月の足元にいる小さなフェンリル。空に向かって吠えるが、母の姿は何処にもなかった。
「…ちび、アイツ本当にお前の母親か?全然、話聞いてくれなかったぞ」
「お母さんだよ、間違いなく…。でも、全然意識を感じなかった」
美月はフェンリルを持ち上げて抱きかかえると、頭を撫でる。
「美月、大丈夫?凄い音がしたけど…」
駆けつけた悠が、フェンリルを受け取る。美月は苦笑いを浮かべながらも、自分が平気だったことを伝える。ひなたも一瞬だけ悠と視線を合わせるが、すぐにまだ晴れない煙の方へと視線を移す。
「さて、悠さん。せっかく来て頂いたところ申し訳ございませんが、また隠れてくれませんか?…生憎、まだ戦いは終わっていませんので」
「え?」
美月と悠の声が重なる。ひなたの視線は変わらず煙の方へ向けられている。煙は段々と晴れてきた。
「ラミエルを使って倒せない敵はまず、いません。フェンリルと言えど倒せたでしょう。…ですが、それが出来なかったのは、攻撃のインパクトの瞬間に邪魔されたためです。お陰で本来の威力の半分も出せませんでした」
「邪魔って誰に?」
ひなたは無言で煙に向かって指差す。やがて晴れた煙の中から、一つの影が現れる。その姿は、成人男性のようだったが、すぐに人間でないと分かった。全身を鳥の羽のついたコートを羽織っており、髪の毛の一部や、手先や足先から、羽が生えていたからだ。左手には細長い剣を持っており、ソイツは空を見上げてい た。
「あーあ、逃げちゃったじゃないか。せっかく見つけたのに」
アイツは空に顔を向けたまま、視線を美月たちに向ける。
「何、お前?」
美月は剣を構え、相手と対峙した。油断しないように、相手をしっかりと見据える。只ならぬ雰囲気を感じ取り、相手が普通ではないことを察知したためだ。
「美月、アレはカイムという悪魔だ」
アスモデウスの声が耳元で響く。ひなたも構えは解かず、視線だけをこちらに向ける。アスモデウスは相手の説明を続けた。
「魔界でも結構、有名な奴でね。マッドが付くような科学者だよ。…しかし、進んで戦場に出てくるような奴ではないんだが」
カイムと呼ばれた悪魔は美月たちに体を向ける。体の全貌を見て美月は驚愕した。右腕が丸ごと吹き飛んでいたのだ。カイムは美月の視線が自分の右腕に向かっていることに気付き、自分で説明を始めた。
「いやぁ、凄い威力だったね。ラミエルと言ったかい、その武器?奇襲をかけて攻撃を中断させたのに、まさか腕が吹っ飛ぶほど威力があるなんてね。誤算だったよ」
妙に気さくに話しかけてくるので、美月は完全に意表を衝かれた。カイムは魔法陣を残った左腕の指で描き、そこに吹っ飛んだ体を押し付ける。するとみるみると右腕が構築され、完全に再生した。
「委員長、フェンリルにダメージを与えられなかった理由って」
「えぇ、あのカイムという悪魔に邪魔されて…。インパクトの瞬間に相手が攻撃してきたので、咄嗟に態勢を崩して、カイムに向かって放ったのですが…」
カイムは再生した右腕の動きを確かめると。左手に持っていた剣を右腕に持ち直した。そしてすぐに剣を鞘にしまった。相手の意外な行動に美月たちは呆気にとられる。カイムは柔和な笑顔を見せて話し始める。
「勘違いしてもらっては困るから先に言おう。私はキミ達と戦うつもりなどないよ。ただあのフェンリルを取り戻せればいいんだ」
「…取り戻す?」
「実は今、色々と研究中でね。まだフェンリルへの実験は途中なんだよ。まだまだ試したいことがあったのに、困ったことに途中で逃げ出してしまってね。…で、ようやく見つけることが出来たんだが、また逃げられてしまった」
「実験?」
あぁ、と相槌を打つと、カイムはその笑みを大きく歪ませた。見ている者を戦慄させる程に。
「魔法が効かないと言っても、全てを無効化するとは考えられなくてね。様々な方法を試しているのさ。単純だろう?」
確かに単純な話だった。美月にでもすぐ分かる程に。それはつまり、
「…あのフェンリルに色んな魔法をぶつけてるってこと!?」
「あぁ、すまない。キミ達にはそう表現した方が伝わり易かったのかな?…次からは気をつけよう」
歪ませていた笑みを更に歪ませ、カイムは笑う。だが美月には何故、それがおかしいのか皆目見当がつかなかった。唯一、美月にとって救いだったのは、悠もひなたも自分と同じように一切の笑みを浮かべず、相手を睨んでいることだった。
「一つ質問してよろしいでしょうか?」
ひなたは一歩前に出てカイムに問いかけた。
「あのフェンリルはこちらの会話に一切答えることをしませんでした。…心当たりは?」
「あぁ、アレか。アレは私も驚いていてね。催眠術に似た方法なら効くかどうか試してみたんだが。結果、ああなってしまってね。ちょっと悪意を増幅してやっただけで、何も言うことを聞かなくなって…、ほとほと困っていたんだよ」
両手をあげて、お手上げのポーズを取るが、その歪んだ笑みだけは崩さなかった。
「私からも、質問」
目の前にいる悪魔に対し、膝を震わせながら。悠が一歩前に出る。小さなフェンリルは今の会話で完全に体を丸くしていた。悠はそんなフェンリルを力強く、そして優しく抱いている。
「…アナタは、何がそんなに楽しいんですか?」
悠は歪んだ笑みを浮かべるカイムに問いただす。カイムは笑みを消し、何故そんな質問をするのか理解できないといった表情を浮かべた。
「楽しいに決まっているだろう。成否に関わらず、実験の結果は私に更なる知識を与えてくれる。それが楽しくないはずがないだろう?」
カイムは声を上げて大笑いする。そしてその瞬間、美月の中で何かがキレた。側にいた悠とひなたには勿論、カイムにもそれは見えなかった。美月は一回の踏み込みで、一気にカイムの懐まで飛び込み、剣を振るう。カイムは後ろに飛び、それを寸前で避ける。反応が一瞬遅れていたら両断されていただろう。カイムの 表情からは余裕が消えていた。
「人間の少女よ、冷静に考えたまえ。あのフェンリルは私が面倒を見ることが出来る。キミらとて、あんな化け物とは戦いたくないだろう?私は、アレが回収できればキミ達には何の興味もない。キミ達との戦いにもね。なら私と戦う必要などないはずだ」
カイムの提案に、美月は考えをめぐらせる。彼の言う事は本来なら魅力的な提案なのだろう。フェンリルは強敵で、とてもではないがまともに戦える相手ではない。それを何とかしてくれる、というのならメリットこそあれ、それをふいにすることはデメリットでしかないのだ。
だが、美月にとっては、それが酷くどうでも良いように感じた。
「…フェンリルのことは自分で落とし前つけるよ。だが、その前に…」
美月は剣を力強く構える。それに応じて、カイムも溜め息交じりに剣を抜く。
「アンタを、倒すことにする…!」
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それだけ言うと、美月はカイムに向かって飛び込んだ。
美月の目の前で、大きな爆煙が広がる。あまりの威力に立ち尽くすしかなかった。美月はひなたが放つ攻撃から離れる為に10メートル以上は後退した。だが、それでも爆煙はすぐそこまで迫っていた。
「凄い威力…」
一向に煙が晴れることがなく、美月はことの成り行きを見守るしか出来なかった。煙の中から、一つの影が飛び出す。ひなただ。美月の元に飛び、無事に着地した。
「凄い武器だね、それ」
「威力が大きすぎるのであまり使いたくはなかったのですが、そうも言っていられませんからね」
盾を構えなおし、煙を見据えるひなた。
「この武器は、相手に対して『等しく裁きを与える』ものです。いかに相手が強力な防御手段を使用していても、その全てを無視して攻撃できる。それこそがこの武器の最大の利点です」
ひなたが自分の武器について説明を始める。つまり、当れば確実にダメージを与えることが出来るというのだ。
「ってことは、流石に倒したかな?」
ひなたの説明を聞いて安心した美月は大きく伸びをした。目の前で今まで見たことのない威力の武器を見せられれば、美月も流石に安心した。
「ただし、当れば、の話ですが」
「え?」
ひなたの意味深な言葉と同時に、煙から影が飛び出る。フェンリルだった。真上に上昇し、巨体に似合わず、器用に電線の上に着地した。無傷とは言えなかったが、致命傷を与えている様にも見えなかった。フェンリルはこちらを睨みつけた後に、夜空へと飛んで行った。
「お母さん!」
いつの間にか、悠の元から離れて美月の足元にいる小さなフェンリル。空に向かって吠えるが、母の姿は何処にもなかった。
「…ちび、アイツ本当にお前の母親か?全然、話聞いてくれなかったぞ」
「お母さんだよ、間違いなく…。でも、全然意識を感じなかった」
美月はフェンリルを持ち上げて抱きかかえると、頭を撫でる。
「美月、大丈夫?凄い音がしたけど…」
駆けつけた悠が、フェンリルを受け取る。美月は苦笑いを浮かべながらも、自分が平気だったことを伝える。ひなたも一瞬だけ悠と視線を合わせるが、すぐにまだ晴れない煙の方へと視線を移す。
「さて、悠さん。せっかく来て頂いたところ申し訳ございませんが、また隠れてくれませんか?…生憎、まだ戦いは終わっていませんので」
「え?」
美月と悠の声が重なる。ひなたの視線は変わらず煙の方へ向けられている。煙は段々と晴れてきた。
「ラミエルを使って倒せない敵はまず、いません。フェンリルと言えど倒せたでしょう。…ですが、それが出来なかったのは、攻撃のインパクトの瞬間に邪魔されたためです。お陰で本来の威力の半分も出せませんでした」
「邪魔って誰に?」
ひなたは無言で煙に向かって指差す。やがて晴れた煙の中から、一つの影が現れる。その姿は、成人男性のようだったが、すぐに人間でないと分かった。全身を鳥の羽のついたコートを羽織っており、髪の毛の一部や、手先や足先から、羽が生えていたからだ。左手には細長い剣を持っており、ソイツは空を見上げてい た。
「あーあ、逃げちゃったじゃないか。せっかく見つけたのに」
アイツは空に顔を向けたまま、視線を美月たちに向ける。
「何、お前?」
美月は剣を構え、相手と対峙した。油断しないように、相手をしっかりと見据える。只ならぬ雰囲気を感じ取り、相手が普通ではないことを察知したためだ。
「美月、アレはカイムという悪魔だ」
アスモデウスの声が耳元で響く。ひなたも構えは解かず、視線だけをこちらに向ける。アスモデウスは相手の説明を続けた。
「魔界でも結構、有名な奴でね。マッドが付くような科学者だよ。…しかし、進んで戦場に出てくるような奴ではないんだが」
カイムと呼ばれた悪魔は美月たちに体を向ける。体の全貌を見て美月は驚愕した。右腕が丸ごと吹き飛んでいたのだ。カイムは美月の視線が自分の右腕に向かっていることに気付き、自分で説明を始めた。
「いやぁ、凄い威力だったね。ラミエルと言ったかい、その武器?奇襲をかけて攻撃を中断させたのに、まさか腕が吹っ飛ぶほど威力があるなんてね。誤算だったよ」
妙に気さくに話しかけてくるので、美月は完全に意表を衝かれた。カイムは魔法陣を残った左腕の指で描き、そこに吹っ飛んだ体を押し付ける。するとみるみると右腕が構築され、完全に再生した。
「委員長、フェンリルにダメージを与えられなかった理由って」
「えぇ、あのカイムという悪魔に邪魔されて…。インパクトの瞬間に相手が攻撃してきたので、咄嗟に態勢を崩して、カイムに向かって放ったのですが…」
カイムは再生した右腕の動きを確かめると。左手に持っていた剣を右腕に持ち直した。そしてすぐに剣を鞘にしまった。相手の意外な行動に美月たちは呆気にとられる。カイムは柔和な笑顔を見せて話し始める。
「勘違いしてもらっては困るから先に言おう。私はキミ達と戦うつもりなどないよ。ただあのフェンリルを取り戻せればいいんだ」
「…取り戻す?」
「実は今、色々と研究中でね。まだフェンリルへの実験は途中なんだよ。まだまだ試したいことがあったのに、困ったことに途中で逃げ出してしまってね。…で、ようやく見つけることが出来たんだが、また逃げられてしまった」
「実験?」
あぁ、と相槌を打つと、カイムはその笑みを大きく歪ませた。見ている者を戦慄させる程に。
「魔法が効かないと言っても、全てを無効化するとは考えられなくてね。様々な方法を試しているのさ。単純だろう?」
確かに単純な話だった。美月にでもすぐ分かる程に。それはつまり、
「…あのフェンリルに色んな魔法をぶつけてるってこと!?」
「あぁ、すまない。キミ達にはそう表現した方が伝わり易かったのかな?…次からは気をつけよう」
歪ませていた笑みを更に歪ませ、カイムは笑う。だが美月には何故、それがおかしいのか皆目見当がつかなかった。唯一、美月にとって救いだったのは、悠もひなたも自分と同じように一切の笑みを浮かべず、相手を睨んでいることだった。
「一つ質問してよろしいでしょうか?」
ひなたは一歩前に出てカイムに問いかけた。
「あのフェンリルはこちらの会話に一切答えることをしませんでした。…心当たりは?」
「あぁ、アレか。アレは私も驚いていてね。催眠術に似た方法なら効くかどうか試してみたんだが。結果、ああなってしまってね。ちょっと悪意を増幅してやっただけで、何も言うことを聞かなくなって…、ほとほと困っていたんだよ」
両手をあげて、お手上げのポーズを取るが、その歪んだ笑みだけは崩さなかった。
「私からも、質問」
目の前にいる悪魔に対し、膝を震わせながら。悠が一歩前に出る。小さなフェンリルは今の会話で完全に体を丸くしていた。悠はそんなフェンリルを力強く、そして優しく抱いている。
「…アナタは、何がそんなに楽しいんですか?」
悠は歪んだ笑みを浮かべるカイムに問いただす。カイムは笑みを消し、何故そんな質問をするのか理解できないといった表情を浮かべた。
「楽しいに決まっているだろう。成否に関わらず、実験の結果は私に更なる知識を与えてくれる。それが楽しくないはずがないだろう?」
カイムは声を上げて大笑いする。そしてその瞬間、美月の中で何かがキレた。側にいた悠とひなたには勿論、カイムにもそれは見えなかった。美月は一回の踏み込みで、一気にカイムの懐まで飛び込み、剣を振るう。カイムは後ろに飛び、それを寸前で避ける。反応が一瞬遅れていたら両断されていただろう。カイムの 表情からは余裕が消えていた。
「人間の少女よ、冷静に考えたまえ。あのフェンリルは私が面倒を見ることが出来る。キミらとて、あんな化け物とは戦いたくないだろう?私は、アレが回収できればキミ達には何の興味もない。キミ達との戦いにもね。なら私と戦う必要などないはずだ」
カイムの提案に、美月は考えをめぐらせる。彼の言う事は本来なら魅力的な提案なのだろう。フェンリルは強敵で、とてもではないがまともに戦える相手ではない。それを何とかしてくれる、というのならメリットこそあれ、それをふいにすることはデメリットでしかないのだ。
だが、美月にとっては、それが酷くどうでも良いように感じた。
「…フェンリルのことは自分で落とし前つけるよ。だが、その前に…」
美月は剣を力強く構える。それに応じて、カイムも溜め息交じりに剣を抜く。
「アンタを、倒すことにする…!」
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それだけ言うと、美月はカイムに向かって飛び込んだ。