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Chapter3.0「ひとときの間」


 昼休み。昨日とは立場が違い、今度はひなたが美月を探していた。教室中を見渡すが、美月の姿もいなければ、常に一緒にいるであろう悠の姿も見つからなかった。

「すみません。神薙さんを見かけませんでしたか?」

 ひなたは近くで談笑している男子生徒達を捕まえて聞き出した。

「あぁ、屋上で見たよ。久地も一緒に居たけど」

「ありがとうございます」

 礼だけは言うと、ひなたはすぐに向かおうとする。

「しかし、あの二人流石に『アレ』は仲良すぎだろ」

「だよな。俺も混ざりてー」

 聞き出した男子生徒がそんな会話をしたので、ひなたは疑問符が一瞬頭をよぎったが、特に気にせず、屋上に向かった。


 屋上は普段使う人間が少なかった。特に学校側で規制している訳ではないが、この学校では他にも中庭やカフェなども常備しているため、休憩目的ならばそちらを使う生徒が多いからだ。吹きさらしな上、殺風景な屋上で時間を過ごす者はあまりいなかった。

「神薙さん、お話が…」

 屋上の扉を開けて、ひなたはいきなり言い放った。屋上には特に障害物もないため、扉を開ければ全体を見渡せる。屋上には美月と悠しか居なく、すぐに二人を見つけることが出来た。そして二人を見つけてひなたは硬直した。

「あ、ひなた」

 悠が手を振ってくるが、ひなたはとてもそれを返す気分にはなれなかった。
 美月と悠は確かに居た。しかし、美月は眠っていたのだ。それも、悠の膝の上で、いわゆる膝枕で。

「なるほど、先程の男子達のセリフはこういうことですか…」

 健全な男子高校生ならば、女子が女子の膝枕を借りている光景を目にすれば、元気にもなるし、混ざりたいなどと思うかもしれない。しかし、ひなたからすればこの空気は混ざりにくいこと、この上なかった。だがこのままでは話が進まないので、意を決して二人の元へ歩み寄る。

「ごめんひなた。美月、昨日の戦いで疲れたらしくて、しばらく寝かせてあげて」

 悠の言うとおり、美月は見事なまでに熟睡していた。起こす気が湧かない程に気持ちよさそうに。しかし、その寝相は女子として如何なものだった。スカートであることを忘れて、両足が大きく開かれ、口も開きっぱなしだった。しかし両手はしっかり悠を掴んでおり離そうとしない。

「えぇ、私もそれは構わないと思います。人間にとって睡眠は一番の回復方法でしょう。ですが、そんなことよりも!」

 ひなたは勢いよく美月の足を蹴り飛ばした。いきなりのことに悠は驚いたが、蹴られた本人は更に驚いた。体を起こしてしまうほどに。

「あ、委員長。悪い、疲れてるから寝かせて…」

 それだけ言うと、悠の膝に戻ろうとしたので、ひなたはその頭を両手で止めた。

「神薙さん…!貴女が何時何処で寝ようが、何を枕にしようが、寝言を言おうが、いびきを掻こうが、私には関係がありません。個人の自由ですから…!ですが、私にも譲れないことがあります!」

「な、何?」

「寝るのならば、せめて足を閉じなさい!あなたには女子としての自覚はないのですか!?誰かに見られたらどうするんです!?」

 美月は自分の寝易い姿をイメージした。何度考えても、その姿は足を広げている。

「い、いいじゃん!寝易いんだから!」

「よくありません!」

「あ、じゃあ、私が美月のスカート押さえておくってのは、どうかな?」

「それで良い、悠。よろしく。任せた。おやすみ」

 さっそく悠法案を試す二人。だが、それよりも先にひなたの抗議の方が早かった。

「そういう問題ではありません!…第一、二人のそんな光景を誰かに見られたらどうするんです!?たちまち校内に悪い噂が流れますよ!?」

「じゃぁ、どうすれば良いの?」

「足を閉じてください。それが出来ないのであれば、下にジャージを履きなさい!」

 足をピッタシ閉じて寝ている自分、ジャージを履きながら寝ている自分。どちらを想像しても、とてもではないが似合っていなかった。

「いや、ごめん無理。それ、アタシじゃない。…て言うか委員長。アタシの寝相をわざわざツッコミに来たの?」

「もちろん、違います。ですが、黙っていられなかっただけです!」

 このままでは美月の寝る時の姿勢について延々議論することになりそうだったので、美月は寝るのを諦めて、体を起こしてコンクリートの床の上に座った。

「次までに新法案を考えておくよ。それより、何の用?委員長」

「そうですね。本題に入りましょう」

 軽く咳払いをし、ひなたは美月と向かい合うように座った。行儀よく正座だった。

「昨日、戦ったようですね」

「あぁ、滅茶苦茶だよアイツ。結局逃げられちゃったし」

「フェンリルって言うんだよね?魔法効かないっていってたけど…。どうするの?」

 悠の問いに美月は頭を悩ませた。実際の話、どうしようもなかった。魔法が効かないのであれば、打撃だけで戦わなければいけなかった。だが、それで倒せるほど簡単な相手ではないことは、昨日の戦いで文字通り痛いほどよく分かった。

「魔法が効かないんですか?」

「うん。なんか、鎖に絡まった狼なんだけど。その鎖が魔法を打ち消すんだって。まぁ、あの鎖のおかげで向こうもかなり力を抑えられてるみたいだけどね」

 美月は横になり、結局悠の膝の上に戻る。文句が言われないように一応足は閉じた。居心地は悪いようだが。

「委員長も、何か思いつかない?いい方法」

「魔法が効かないのであれば、純粋な殴打武器を使う以外に解決法はないでしょうね」

 期待はしていなかったが、改めて提示された回答に美月は溜め息をついた。

「じゃあさ、次戦う時は委員長も手伝ってよ。流石に一人じゃきついかも」

「元よりそのつもりです。…と言うより、それを言いに来たんですよ」

 -キーン、コーン、カーン、コーン-

 昼休み終了のチャイムが鳴る。美月は体を起こし、悠とひなたも立ち上がった。

「とにかく、一人で無茶はしないで下さいね」

「分かってるって」

 美月はひなたのあたまをクシャクシャと撫でると、先に屋上の扉に向かっていく。遅れないように悠も早足で美月に追いつき隣を歩く。

「委員長、置いてくよー」

 振り向きもせずに、そう言い放つ美月。クシャクシャに乱れた髪を直しながら二人の元に歩み寄る。結局授業が始まるまで髪型は乱れたままだったが、不思議とひなたは嫌な気分にはなれなかった。