Chapter2.1「『悠さん』と『ひなた』」
放課後になり、生徒達が帰る中、下駄箱に悠はいた。靴を履き替え、校門を出ようとする彼女に近付く者がいた。ひなただった。
「あ、天導さん。今帰り?」
ひなたの存在に気付き、悠は気さくにひなたに放しかけた。頷くと、ひなたも悠に応える。
「はい。今日は生徒会もないので。…久地さん、神薙さんは?」
「美月なら先帰っちゃったよ?なんか、バイト交代になったみたい」
「そうですか、私としても神薙さんから聞きたいことがあったのですが」
ひなたも靴を履き替えた。二人で校門をくぐり、帰路を歩く。ひなたの低い身長と金髪は学校外では目立ち、自然と視線が彼女に集まる。そんな中をひなたは無反応で平然と歩くので、大物だなと悠は素直に感心した。
「そう言えば、歌聴いてくれてありがとう」
悠は三人でケーキを食べに行ったとき、ひなたが自分のCDを持っていることを思い出し、ひなたにそう言った。
「いえ、むしろお礼を言うのは私の方ですね。…貴女の歌を聴くと、力が湧きます」
「美月にも似たこと言われたことあるけど、何か照れちゃうね」
頬を赤くし、悠は指で頬を掻いた。
「私は、『in the sky』が一番好きです。サビの『飛べるから飛ぶんじゃないんだ。飛びたいから飛ぶんだ。私には行きたい所があるから』の部分が好きで…」
ひなたは携帯電話を開き、何度も開けたり閉めたりする。その携帯電話は、ひなたにとって力を具現化するための道具。それを大切そうに握り締め、悠に話す。
「私も、力があるから戦っているのではなく、戦うべき理由がある、と胸を張って言えるようになりたいものです」
ひなたの言葉に悠はクスクスと笑った。
「変ですか?」
「ううん、違うの。美月と天導さんって、性格とか全然違うのに、何か似た者同士だなって思って。美月がね、前に言ってたんだ。『アタシには戦う理由が、戦わなければいけない理由がある。力があるから、アスモデウスがいるからっていう理由で戦ってる訳じゃない』って。天導さんも、美月と同じように『戦う理由 』について考えているんだって思うと、似てるなって思っちゃって」
そこまで言うと、悠は笑った。その笑顔は美月がしたような、皮肉っぽくて、それでいて照れたようなぎこちない笑顔だった。だがすぐに、一旦目をつむり、いつもの悠の笑顔に戻った。
「美月は私に、自分が戦う理由とか、アスモ君とどんな約束をしたとか、全然話してくれないけど。でも、多分きっと美月にはそれが凄く大事なことなんだよね。天導さんの戦う理由も、大事なものだと思う。胸を張っても良いことなんだと思う」
悠の言葉に、今度はひなたがクスクスと笑った。
「変なこと言ったかな?」
「いえ、すみません。ただ私の戦う理由が胸を張れるものかはさて置き。神薙さんの戦う理由と言うものが、私からすれば一目瞭然だったもので。久地さんが気付いていないのが少しおかしくて、つい」
と言い、ひなたも美月のようなぎこちない笑顔を試してみるが、やはり上手くいかないので、自分の笑顔に戻した。微かに微笑み、正面に立たないと笑っていると気付かないような小さな笑顔。
「天導さんは、分かるんだ…。美月の『戦う理由』」
付き合いの長い自分より先に気付いたひなたに少し複雑な気分になる悠。ひなたは意地悪っぽく笑い、
「何となく、ですよ。まぁ、必要となったら神薙さんから話すでしょう」
と言った。
「本当は、『黒衣の剣士』と出会ったら、戦うのを止める様に言うつもりだったんです。自分以外の人間が危険な目に遭うのは、見ていられませんから。…ですが、神薙さんはきっと止めないでしょうね」
「うん、美月頑固だから。言い出したらキリがないんだもん」
「それもありますが…。ま、良いでしょう」
含みのある言い方をされ、首を傾げる悠だったが、深くは聞かないことにした。
「神薙さんと連絡を取り合うことがあれば伝えておいて下さい。公にはなっていませんが、この町で猟奇殺人事件が発生しています。…まぁ、世間がそう言っているだけであって、勿論悪魔による仕業です。相手は人間を殺した後に、捕食しています。現場に大きな爪の様な跡が多数あり、近くで巨大な犬を見たといった 証言が多発しています。このことから獣の様な生物によるものだと思われます」
淡々と説明するひなた。確かに悠はニュースや新聞で見たことも聞いたこともないことだった。
「公になってないって…、どこで調べたの?」
「…昼休みに生徒会室のパソコンを借りて、警察のパソコンに失敬しました」
それはいわゆるハッキングでは、とか、生徒会役員がそんなことをして良いのか、とか色々な疑問が頭に浮かんだが、悠は聞かないことにした。
「悪魔が現れるのはまず決まって夜ですから気をつけてください、と。あと悠さん、貴女もなるべく外出は控えてください」
「善処します」
「承服してください」
などとやり取りをしていると、十字路の一角でひなたの足が止まる。
「では、私はこちらですので」
「うん、また明日天導さん」
手を振り、角を曲がろうとしたひなたの足がふと止まる。そして悠に体を向きなおしてこう言った。
「久地さん、私のことはひなた、と呼んでください。その…、天導の名を時々重みに感じることがあるので」
体をもじもじさせながら、照れながらそう言うひなた。
「うん、分かった。それじゃぁ、私のことも悠って呼んでね、ひなた」
「えぇ、分かりました。悠さん」
ひなたは大げさな程に深々と頭を下げて、小走りで走っていく。歩調が少し跳ねているように見え、悠はくすりと笑った。だが、その表情はすぐに暗くなる。
「美月、また戦いに巻き込まれるのかな」
携帯電話を開くと、そこに表示される待ち受け画面は悠と美月のツーショットだった。携帯電話を握り締め、祈るように呟く。
「…ちゃんと、私の所に帰ってきてね、美月」
それだけ呟くと、悠も家に向かい歩き始めた。
放課後になり、生徒達が帰る中、下駄箱に悠はいた。靴を履き替え、校門を出ようとする彼女に近付く者がいた。ひなただった。
「あ、天導さん。今帰り?」
ひなたの存在に気付き、悠は気さくにひなたに放しかけた。頷くと、ひなたも悠に応える。
「はい。今日は生徒会もないので。…久地さん、神薙さんは?」
「美月なら先帰っちゃったよ?なんか、バイト交代になったみたい」
「そうですか、私としても神薙さんから聞きたいことがあったのですが」
ひなたも靴を履き替えた。二人で校門をくぐり、帰路を歩く。ひなたの低い身長と金髪は学校外では目立ち、自然と視線が彼女に集まる。そんな中をひなたは無反応で平然と歩くので、大物だなと悠は素直に感心した。
「そう言えば、歌聴いてくれてありがとう」
悠は三人でケーキを食べに行ったとき、ひなたが自分のCDを持っていることを思い出し、ひなたにそう言った。
「いえ、むしろお礼を言うのは私の方ですね。…貴女の歌を聴くと、力が湧きます」
「美月にも似たこと言われたことあるけど、何か照れちゃうね」
頬を赤くし、悠は指で頬を掻いた。
「私は、『in the sky』が一番好きです。サビの『飛べるから飛ぶんじゃないんだ。飛びたいから飛ぶんだ。私には行きたい所があるから』の部分が好きで…」
ひなたは携帯電話を開き、何度も開けたり閉めたりする。その携帯電話は、ひなたにとって力を具現化するための道具。それを大切そうに握り締め、悠に話す。
「私も、力があるから戦っているのではなく、戦うべき理由がある、と胸を張って言えるようになりたいものです」
ひなたの言葉に悠はクスクスと笑った。
「変ですか?」
「ううん、違うの。美月と天導さんって、性格とか全然違うのに、何か似た者同士だなって思って。美月がね、前に言ってたんだ。『アタシには戦う理由が、戦わなければいけない理由がある。力があるから、アスモデウスがいるからっていう理由で戦ってる訳じゃない』って。天導さんも、美月と同じように『戦う理由 』について考えているんだって思うと、似てるなって思っちゃって」
そこまで言うと、悠は笑った。その笑顔は美月がしたような、皮肉っぽくて、それでいて照れたようなぎこちない笑顔だった。だがすぐに、一旦目をつむり、いつもの悠の笑顔に戻った。
「美月は私に、自分が戦う理由とか、アスモ君とどんな約束をしたとか、全然話してくれないけど。でも、多分きっと美月にはそれが凄く大事なことなんだよね。天導さんの戦う理由も、大事なものだと思う。胸を張っても良いことなんだと思う」
悠の言葉に、今度はひなたがクスクスと笑った。
「変なこと言ったかな?」
「いえ、すみません。ただ私の戦う理由が胸を張れるものかはさて置き。神薙さんの戦う理由と言うものが、私からすれば一目瞭然だったもので。久地さんが気付いていないのが少しおかしくて、つい」
と言い、ひなたも美月のようなぎこちない笑顔を試してみるが、やはり上手くいかないので、自分の笑顔に戻した。微かに微笑み、正面に立たないと笑っていると気付かないような小さな笑顔。
「天導さんは、分かるんだ…。美月の『戦う理由』」
付き合いの長い自分より先に気付いたひなたに少し複雑な気分になる悠。ひなたは意地悪っぽく笑い、
「何となく、ですよ。まぁ、必要となったら神薙さんから話すでしょう」
と言った。
「本当は、『黒衣の剣士』と出会ったら、戦うのを止める様に言うつもりだったんです。自分以外の人間が危険な目に遭うのは、見ていられませんから。…ですが、神薙さんはきっと止めないでしょうね」
「うん、美月頑固だから。言い出したらキリがないんだもん」
「それもありますが…。ま、良いでしょう」
含みのある言い方をされ、首を傾げる悠だったが、深くは聞かないことにした。
「神薙さんと連絡を取り合うことがあれば伝えておいて下さい。公にはなっていませんが、この町で猟奇殺人事件が発生しています。…まぁ、世間がそう言っているだけであって、勿論悪魔による仕業です。相手は人間を殺した後に、捕食しています。現場に大きな爪の様な跡が多数あり、近くで巨大な犬を見たといった 証言が多発しています。このことから獣の様な生物によるものだと思われます」
淡々と説明するひなた。確かに悠はニュースや新聞で見たことも聞いたこともないことだった。
「公になってないって…、どこで調べたの?」
「…昼休みに生徒会室のパソコンを借りて、警察のパソコンに失敬しました」
それはいわゆるハッキングでは、とか、生徒会役員がそんなことをして良いのか、とか色々な疑問が頭に浮かんだが、悠は聞かないことにした。
「悪魔が現れるのはまず決まって夜ですから気をつけてください、と。あと悠さん、貴女もなるべく外出は控えてください」
「善処します」
「承服してください」
などとやり取りをしていると、十字路の一角でひなたの足が止まる。
「では、私はこちらですので」
「うん、また明日天導さん」
手を振り、角を曲がろうとしたひなたの足がふと止まる。そして悠に体を向きなおしてこう言った。
「久地さん、私のことはひなた、と呼んでください。その…、天導の名を時々重みに感じることがあるので」
体をもじもじさせながら、照れながらそう言うひなた。
「うん、分かった。それじゃぁ、私のことも悠って呼んでね、ひなた」
「えぇ、分かりました。悠さん」
ひなたは大げさな程に深々と頭を下げて、小走りで走っていく。歩調が少し跳ねているように見え、悠はくすりと笑った。だが、その表情はすぐに暗くなる。
「美月、また戦いに巻き込まれるのかな」
携帯電話を開くと、そこに表示される待ち受け画面は悠と美月のツーショットだった。携帯電話を握り締め、祈るように呟く。
「…ちゃんと、私の所に帰ってきてね、美月」
それだけ呟くと、悠も家に向かい歩き始めた。