Chapter1.2「天使光臨」
三人はあれから意気投合してすっかり話し込んでしまい、夜まで店にいた。店員が注意していなければ、あるいはもっと遅くまでいたかもしれない。それでも時刻は九時を回っていた。
「ごめん、委員長遅くまでつき合わせちゃって。親御さん、心配してるんじゃない?」
「いえ、この時間ならまだ仕事で、帰ってきていないと思います。普段は私が寝る頃に帰ってきますから」
その答えに美月は少し安心した。もっとも、彼女の家庭環境を知ってしまい、諸手を上げて、とはいかなかったが。帰り道を歩こうとした途端、携帯電話の着信音が鳴り響いた。美月のでも、悠のでもなく、ひなたのものだった。ひなたは電話を取り出し、耳に当てる。
「もしもし。…あぁ、明久さん。何も連絡せずにすみません。これから帰りますので」
そう言って、電話を切った。
「どうしたの?天導さん。家族、じゃないよね?」
先程家族は遅くに帰ってくると聞いたばかりだし、ひなたの話しぶりから家族と会話しているようには見えなかった。
「彼氏か?」
「違いますよ。半田 明久-はんだ あきひさ-さん。私の身の回りを世話してくれている方です」
その答えに美月と悠は硬直する。身の回りを世話する人。それも、男。それはいわゆる、
「執事、さん?」
「まぁ、世間ではそういうらしいですね」
照れながら答えるひなた。ならば、と美月はどうしても聞きたいことがあった。
「ま、まさか『お嬢様』なんて呼ばれてないよね?」
「呼ばれていますね。私は嫌だと何度も言っているのですが」
美月と悠は口が開いたまま硬直してしまった。目の前にいる少女はクラス委員長で、警察監と弁護士の娘で、お嬢様だと言う。
「どんだけハイスペックなクラスメートだよ…」
「美月、駄目よ。普通に接して欲しいって言ってたんだから」
ひなたに聞こえないように二人は声を小さくして話す。そんな会話をしていると、今度は美月の携帯電話が鳴る。携帯電話を開くと、そこには着信中以外にはデタラメな数字が並んでいるだけだった。だが美月は何も不思議に思わず電話に出た。
「…何、アスモデウス」
相手はアスモデウスだった。悠の提案で、美月がアスモデウスと会話する時、周りに人がいても不自然に見られないように、電話で話しているふりをすればいい、というものだった。この方法のお陰で、少し声が大きくなっても回りから不審がられて見られることは無かった。アスモデウスから話しかけてくる場合は今 のようにデタラメな数字が表示されるから美月も一目瞭然だった。
「美月、今すぐ二人をその場から引き離すんだ。…悪魔が近付いてる。低位の悪魔だが、ヤツの息のかかった悪魔だ」
「了解。…て言うか今まで黙り込んでたくせに、こういう時は出てくるんだ」
「今は、そんなことを言ってる場合じゃないだろう。…いや、もう遅いか。お出ましだ」
そう言うと通話が切れた。それと同時に、空からいきなり異形のモノが飛来してくる。コウモリの羽根の様な翼を持った、全身が灰色の悪魔。ソレは現れるなり、雄叫びを上げて爪を振るってきた。
「委員長、危ない!」
美月はひなたを抱き上げると一気に後方に下がった。
「助かりました」
「どう致しまして…!」
携帯電話を取り出し、急いで美月は慣れた手つきでキーを押していく。美月が『黒衣の剣士』になるためには、アスモデウスの力を呼び出さなければいけない。その召喚方法が『asmodeus@devil』宛にメールを送る、という方法だった。送信しようとした瞬間に、悠の手がそれを遮る。そして、無言でひなたを指差した。
「…やべ」
つい勢いで『変身』しかけたが、美月が『黒衣の剣士』であることは、美月本人以外では悠しか知らない。無用な巻き添えを避けるため、美月はずっと自分の正体は周りに黙っていたのだ。
(悪魔が出たら即変身ってのが体に染み付いてたな…)
そうこうしている内に、悪魔はもう一度爪を振るう。美月は危な気なくそれをかわす。
「悠、委員長連れて逃げて!」
「わ、分かった」
悠はひなたの手を取り、逃げようとするが、ひなたはその手を軽く振り払った。
「神薙さん、何を言っているのです。クラスメートを置いて逃げるなど、クラス委員長としてあるまじき行為です」
「いや、本当に大丈夫だから!早く逃げてってば」
(逃げてくれないと、戦えないんだよっ!)
悪魔の攻撃を避けながら、それでも携帯電話は離さず、いつでも送信出来るようにはしていた。悠とひなたの方へ目を向けると、そこには自信満々の眼差しを向けているひなたがいた。
「安心してください、神薙さん。この程度の悪意に、私の正義は一片も揺るぎません」
そう言うと、ひなたは携帯電話を取り出してキーを順番に押していく。その動きは、まるで自分を見ているようで美月は戸惑った。
そして現にひなたがしていることは、美月が今変身するためにしていたことと、何ら遜色がなかった。
Eメール
新規作成
宛先入力
rapheael@angel
送信
送信完了と共に、着信音が鳴り響く。
「う、うそ」
美月は目の前で起きていることに驚きを隠せずにいた。ひなたの前で白い魔法陣が光り、彼女を包み込む。そして光の中から出てきたひなたは、制服とはまったく違う純白の衣装になっていた。翼のような装飾のスカートが、まるで天使の羽かと思わせる。
「さぁ、貴方の世界の神に祈りなさい…」
ひなたは右手に純白の拳銃を握り、銃口を悪魔に向けた。
「…もっとも、居るかどうかは知りませんが?」
その言葉が紡がれたと同時に、悪魔は美月ではなくひなたに向かっていった。振り下ろされる爪を交わし、ひなたは引き金を引いて銃弾を浴びせる。悪魔から繰り出される攻撃に対して、ひなたは体を回転させながら避け、回転の終わり際に更に弾丸を放った。衝撃に耐えかねた悪魔は態勢を崩し、地面に倒れる。
(まるで踊ってるみたいだ)
ひなたの動きはまさに流れるようで、美月はついその動きに見とれていた。先程までは、早く変身して戦わなければとか、何故委員長が変身しているんだ、といったことが頭にあったはずだったが、それらが見事に霧散した。
「ヌアァァァッ!」
悪魔は体を起こすと、羽を広げ空に舞った。しかしそこから攻撃する素振りは見せず、体の向きを変え、美月達から離れようと飛び立つ。
「逃がしませんよ」
ひなたは銃を悪魔のいる空へと向ける。一度深呼吸し、その次には銃口から大きな白い魔法陣が広がる。
「サン・ライト・ライン!」
引き金を引くと、一本の光線が夜空に放たれた。そしてその光は放たれたと同時に凄まじい速度となり一瞬で悪魔の元まで届く。悪魔は体を貫かれ、雄叫びと共に爆散した。あまりの光量だったためかだろうか。銃身と、放たれた光線の軌跡を、プラズマ化した光が電流のように音を鳴らして流れる。
「他愛もないですね」
ひなたが振り返ると、美月と悠が目を丸くして棒立ちしていた。流石の美月も、クラスメートの予想外の行動に驚かざるを得なかった。
「えーっと、委員長?」
「あ、えっと…!」
慌てて銃を隠すひなた。美月と目が合い、しばらく黙ってしまう二人。悠も流石に何も言えず、ことの成り行きを見守るしかなかった。
「こ、困りましたね。何から言えばいいのか」
照れながら笑うひなた。しまいには顔を赤くして俯いてしまう。そんな中美月の耳元でアスモデウスの声が響く。
「…やはり、いたか。天使の力を継いだ者が」
…と。
三人はあれから意気投合してすっかり話し込んでしまい、夜まで店にいた。店員が注意していなければ、あるいはもっと遅くまでいたかもしれない。それでも時刻は九時を回っていた。
「ごめん、委員長遅くまでつき合わせちゃって。親御さん、心配してるんじゃない?」
「いえ、この時間ならまだ仕事で、帰ってきていないと思います。普段は私が寝る頃に帰ってきますから」
その答えに美月は少し安心した。もっとも、彼女の家庭環境を知ってしまい、諸手を上げて、とはいかなかったが。帰り道を歩こうとした途端、携帯電話の着信音が鳴り響いた。美月のでも、悠のでもなく、ひなたのものだった。ひなたは電話を取り出し、耳に当てる。
「もしもし。…あぁ、明久さん。何も連絡せずにすみません。これから帰りますので」
そう言って、電話を切った。
「どうしたの?天導さん。家族、じゃないよね?」
先程家族は遅くに帰ってくると聞いたばかりだし、ひなたの話しぶりから家族と会話しているようには見えなかった。
「彼氏か?」
「違いますよ。半田 明久-はんだ あきひさ-さん。私の身の回りを世話してくれている方です」
その答えに美月と悠は硬直する。身の回りを世話する人。それも、男。それはいわゆる、
「執事、さん?」
「まぁ、世間ではそういうらしいですね」
照れながら答えるひなた。ならば、と美月はどうしても聞きたいことがあった。
「ま、まさか『お嬢様』なんて呼ばれてないよね?」
「呼ばれていますね。私は嫌だと何度も言っているのですが」
美月と悠は口が開いたまま硬直してしまった。目の前にいる少女はクラス委員長で、警察監と弁護士の娘で、お嬢様だと言う。
「どんだけハイスペックなクラスメートだよ…」
「美月、駄目よ。普通に接して欲しいって言ってたんだから」
ひなたに聞こえないように二人は声を小さくして話す。そんな会話をしていると、今度は美月の携帯電話が鳴る。携帯電話を開くと、そこには着信中以外にはデタラメな数字が並んでいるだけだった。だが美月は何も不思議に思わず電話に出た。
「…何、アスモデウス」
相手はアスモデウスだった。悠の提案で、美月がアスモデウスと会話する時、周りに人がいても不自然に見られないように、電話で話しているふりをすればいい、というものだった。この方法のお陰で、少し声が大きくなっても回りから不審がられて見られることは無かった。アスモデウスから話しかけてくる場合は今 のようにデタラメな数字が表示されるから美月も一目瞭然だった。
「美月、今すぐ二人をその場から引き離すんだ。…悪魔が近付いてる。低位の悪魔だが、ヤツの息のかかった悪魔だ」
「了解。…て言うか今まで黙り込んでたくせに、こういう時は出てくるんだ」
「今は、そんなことを言ってる場合じゃないだろう。…いや、もう遅いか。お出ましだ」
そう言うと通話が切れた。それと同時に、空からいきなり異形のモノが飛来してくる。コウモリの羽根の様な翼を持った、全身が灰色の悪魔。ソレは現れるなり、雄叫びを上げて爪を振るってきた。
「委員長、危ない!」
美月はひなたを抱き上げると一気に後方に下がった。
「助かりました」
「どう致しまして…!」
携帯電話を取り出し、急いで美月は慣れた手つきでキーを押していく。美月が『黒衣の剣士』になるためには、アスモデウスの力を呼び出さなければいけない。その召喚方法が『asmodeus@devil』宛にメールを送る、という方法だった。送信しようとした瞬間に、悠の手がそれを遮る。そして、無言でひなたを指差した。
「…やべ」
つい勢いで『変身』しかけたが、美月が『黒衣の剣士』であることは、美月本人以外では悠しか知らない。無用な巻き添えを避けるため、美月はずっと自分の正体は周りに黙っていたのだ。
(悪魔が出たら即変身ってのが体に染み付いてたな…)
そうこうしている内に、悪魔はもう一度爪を振るう。美月は危な気なくそれをかわす。
「悠、委員長連れて逃げて!」
「わ、分かった」
悠はひなたの手を取り、逃げようとするが、ひなたはその手を軽く振り払った。
「神薙さん、何を言っているのです。クラスメートを置いて逃げるなど、クラス委員長としてあるまじき行為です」
「いや、本当に大丈夫だから!早く逃げてってば」
(逃げてくれないと、戦えないんだよっ!)
悪魔の攻撃を避けながら、それでも携帯電話は離さず、いつでも送信出来るようにはしていた。悠とひなたの方へ目を向けると、そこには自信満々の眼差しを向けているひなたがいた。
「安心してください、神薙さん。この程度の悪意に、私の正義は一片も揺るぎません」
そう言うと、ひなたは携帯電話を取り出してキーを順番に押していく。その動きは、まるで自分を見ているようで美月は戸惑った。
そして現にひなたがしていることは、美月が今変身するためにしていたことと、何ら遜色がなかった。
Eメール
新規作成
宛先入力
rapheael@angel
送信
送信完了と共に、着信音が鳴り響く。
「う、うそ」
美月は目の前で起きていることに驚きを隠せずにいた。ひなたの前で白い魔法陣が光り、彼女を包み込む。そして光の中から出てきたひなたは、制服とはまったく違う純白の衣装になっていた。翼のような装飾のスカートが、まるで天使の羽かと思わせる。
「さぁ、貴方の世界の神に祈りなさい…」
ひなたは右手に純白の拳銃を握り、銃口を悪魔に向けた。
「…もっとも、居るかどうかは知りませんが?」
その言葉が紡がれたと同時に、悪魔は美月ではなくひなたに向かっていった。振り下ろされる爪を交わし、ひなたは引き金を引いて銃弾を浴びせる。悪魔から繰り出される攻撃に対して、ひなたは体を回転させながら避け、回転の終わり際に更に弾丸を放った。衝撃に耐えかねた悪魔は態勢を崩し、地面に倒れる。
(まるで踊ってるみたいだ)
ひなたの動きはまさに流れるようで、美月はついその動きに見とれていた。先程までは、早く変身して戦わなければとか、何故委員長が変身しているんだ、といったことが頭にあったはずだったが、それらが見事に霧散した。
「ヌアァァァッ!」
悪魔は体を起こすと、羽を広げ空に舞った。しかしそこから攻撃する素振りは見せず、体の向きを変え、美月達から離れようと飛び立つ。
「逃がしませんよ」
ひなたは銃を悪魔のいる空へと向ける。一度深呼吸し、その次には銃口から大きな白い魔法陣が広がる。
「サン・ライト・ライン!」
引き金を引くと、一本の光線が夜空に放たれた。そしてその光は放たれたと同時に凄まじい速度となり一瞬で悪魔の元まで届く。悪魔は体を貫かれ、雄叫びと共に爆散した。あまりの光量だったためかだろうか。銃身と、放たれた光線の軌跡を、プラズマ化した光が電流のように音を鳴らして流れる。
「他愛もないですね」
ひなたが振り返ると、美月と悠が目を丸くして棒立ちしていた。流石の美月も、クラスメートの予想外の行動に驚かざるを得なかった。
「えーっと、委員長?」
「あ、えっと…!」
慌てて銃を隠すひなた。美月と目が合い、しばらく黙ってしまう二人。悠も流石に何も言えず、ことの成り行きを見守るしかなかった。
「こ、困りましたね。何から言えばいいのか」
照れながら笑うひなた。しまいには顔を赤くして俯いてしまう。そんな中美月の耳元でアスモデウスの声が響く。
「…やはり、いたか。天使の力を継いだ者が」
…と。