Chapter1.0「いつもの日常」
晴天の朝、美月はあくびをしながら、学校に向かっていた。昨夜の戦いで疲れはあるものの、本職が学生である以上、通わなければいけない。彼女の通う学校、天海学校は市内どころか県内ではそれなりに名の通っている学校で、進学校だ。そのため欠席どころか遅刻が少し目立つだけでうるさく言われてしまう。それは めんどうと感じ、取り敢えず美月は必ず学校に行っている。もっともその後は一日中眠ったりしていたりするが…。
「しかし、昨日の光はなんだったんだろ。一応、悪魔を狙ってたんだから。敵じゃないよね」
昨日のことが頭に残っており、つい独り言を言ってしまう。美月はヒトでないモノ、悪魔と戦う『黒衣の剣士』だ。だが、美月は今まで自分以外に悪魔を倒している事を見たことがなかった。
「まぁ、考えてもしょうがないか」
そうこう考えている間に学校に辿り着き、美月は校内靴に履き替えると教室に向かった。扉を開け、席に座ると、
「おはよう、美月」
と、明るい声がすぐに飛んでくる。声の方を向くと、一人の少女が立っていた。髪の毛を肩より少し長い位置で揃えており、満面の笑顔で話しかけてくる。
「おはよ、悠」
久地 悠-くじ はるか-。美月の幼馴染で唯一の親友であり、心の拠り所だった。悠は美月の耳元で小さく話しかける。
「…昨日も戦ってたの?」
そして悠は美月が『黒衣の剣士』であることを知っている人間で、その事情を全て知っていた。無論、美月と共にいるアスモデウスや悪魔のことも。
「まぁ、ね。楽勝だったけどさ」
皮肉っぽく笑う美月。それを見ると悠は安堵の表情を見せた。
「ただ、気になることがあってさ」
「何かあったの?」
美月は昨日の戦いのことを話した。美月の攻撃以外で、悪魔を一撃で倒した光のことを。
「それって、美月以外にも悪魔と戦ってる人がいるってこと?」
「だと思うけど。…ただ、アスモデウスはあの光を見てからずっと考え込んでるし。多分ただ事じゃないんだと思う」
携帯電話を取り出し、天井に届くまで上に投げる美月。落ちてきた携帯電話をしっかりと受け取ると、それを睨みつけた。
「うんともすんとも反応しないし」
というやり取りを見て、悠は
(…普段は投げたら反応するの?アスモ君)
と思わずにはいられなかった。因みに悠はアスモデウスの名前は長すぎると言うことで、『アスモ君』と呼んでいる。もっとも、当初アスモデウスは相当嫌がっていたが。
「また厄介なことが起きなきゃいいけど」
つい先日、美月たちの住む町、天海市では一つの大きな事件が起きていた。一日一人のペースで無惨な殺し方をする猟奇殺人事件が起きていたのだ。起こしていた張本人はテュルフィングという魔剣で、今は美月に倒されアスモデウスの剣と同化している。町には再び日常が戻った。
しかしこのテュルフィングという魔剣は、アスモデウスが追っている『倒すべき敵』によって操られているモノ達の一体にすぎなかった。美月はテュルフィングとの戦いの後も、その敵たちと戦いを続けていた。もっとも、現れた敵たちは全て一撃で倒せるような敵ばかりで、アスモデウス曰く
「斥候みたいなものさ。テュルフィングが倒されたことで、この町にある程度力のある者がいると向こうに知られたのだろう。下級悪魔で町をしらみつぶしにしているんだろうさ」
だった。美月としても、テュルフィング以上に強力な相手とは戦ったことはなく。アスモデウスの言葉は納得できた。
「あんなテュルフィングみたいに強いのとは、もう戦いたくないなぁ」
などと言いながら苦笑いを浮かべた。それを見て悠もつられて笑う。美月の安全を祈りながら。
その後、二人は他愛もない話をしていた。次回の悠のライブの日程や、次の休日どこに行くか、など。そしてそんな二人の会話が続き、そろそろ始業チャイムが鳴るか鳴らないか、という時間に近付いた頃、二人に近付く一人の人間がいた。
「神薙さん、少し良いですか?」
呼ばれた美月は声の方に顔を向けた。そこに立っていたのは一人の少女で、何よりも特徴的なのは、腰以上に長い位置で揃えられた髪の毛は金色だった。背丈は美月よりも一回りも二回りも小さく、中学生か、下手したら小学生に間違えられそうだ。しかし、しっかりと向けられる眼差しがそれをさせず、一人の女性で あると認識させていた。
だが美月の目が行ったのは彼女の外見ではなく、その左胸についている『生徒会役員』という胸章だった。この学校では生徒会役員はイコールクラスの委員長を務めている。
「よう、委員長。何の用?」
美月は彼女のことを名前ではなく、役職で呼んだ。皮肉とかではなく、人の顔と名前を覚えるのが苦手な美月はそう呼ぶしかなかった。
「アルバイト許可証、提出されていませんよ。…今日中に出してください」
美月の学校ではアルバイトをするには許可証を提出しなければいけなかった。それも月に一回。面倒くさいと感じる美月だったが、出さずにアルバイトをすれば色々と説教を受け、余計面倒くさいことが起きると考え、
「悪い。すっかり忘れてた。すぐ書くよ」
と言うと美月は鞄から一枚の紙を出してすぐに書き終え、それをそのまま渡した。
「んじゃ、よろしく」
「はい、確かに」
それだけ言うと少女は自分の席へと戻っていった。
「…相変わらずのド金髪だな。生徒会役員がアレで良いの?」
「知らないの?あの子、クォーターなんだよ?だから遺伝かなんかで、アレは地毛。それより美月、クラスメートの名前まだ覚えてないでしょ?せめて委員長の名前くらいは覚えてたら?」
「…これを機に覚えておくよ。で、名前は?」
「天導ひなたさん。『天を導く』って書いてテンドウって読むんだって。」
二人が委員長、ひなたの話をしていると始業チャイムが鳴った。それを聞くと悠は自分の席に向かったが、ふとあることを思い出した。
「あれ?アルバイト許可証の提出期限って一週間前だったような…」
そう思い、悠はひなたの方に顔を向けた。当の本人は冷静でじっと前を見つめ、教師が入って来たと同時に
「起立」
と言って、自分の仕事を静かにこなしていた。
