Chapter9.5「想い続ける者」
美月が走り去った後、悠はその場で待ち続けた。帰ってくることを信じて。携帯電話を開き、電話をかけようかと指が動いたが、すぐに止まる。今電話をかけたら、美月の戦いの邪魔になる。いや、もしかしたら
(今までも、邪魔していたのかもしれない)
夜に電話をしたことはこれまでもあった。だが、全く電話に出てくれない時もあった。もしかしたら、その時美月は戦っていたのかもしれない。今日のように。悠はそう考えた。
(私、美月に何を言えばいいのかな…)
などと考えていると、何かが近づいてくる音が聞こえ、悠はそちらに目を向けた。美月だった。服は先ほど戦っていた時に着ていた黒衣ではなく私服に戻っていた。
「帰るよ、悠」
そこにいた美月の笑顔は、どこかぎこちなく、皮肉っぽい笑顔だった。そして悠にとってはいつも見ている笑顔で、美月が無理をしていない時の、いつも通りの笑顔だと知っていた。
(私、何考えてたんだろ。美月にとっては『いつも通り』じゃない…。だったら、)
悠は満面の笑顔を浮かべる。いつも通りの、自分の笑顔を。それを見た美月は安堵の様な表情を浮かべた。
「うん、帰ろ。美月」
2人は夜道を歩き、マンションへと帰っていった。
美月の部屋に着くなり、美月はベッドへと倒れ込んだ。
「あー、疲れた」
悠は美月の隣に座り、言葉を探した。流石に聞きたいことが山ほどあったからだ。何故、美月が『黒衣の剣士』なのか、いつから戦い続けているのか。それを聞きたかった。
「ごめん悠。本気で疲れたから爆睡する。…起きれないと思うから朝起こして」
「え?美月?」
自分が了解するよりも前に美月は瞼を閉じる。数秒も経たないうちに、寝息を上げ、深い眠りについた。何度か体をゆするが、起きる気配を見せない。
「…勝手なんだから」
時間を確認すると、もう夜の2時になろうとしていた。こんな時間に帰っても親にしつこく追求されるだけだと考え、
『美月の家で泊まる』
てメールを打って送ると、電源を切って携帯電話を投げ捨てた。悠もベッドに入り込み、美月の隣で横になる。子どものように無防備に眠っている寝顔を見て、悠は聞きたかったことがどうでも良い物の様に感じてしまった。
「もう、卑怯だわ。こんな時だけ『女の子』になるんだから」
美月の寝顔を覗き込み、そんなことを呟く。年頃の女の子の寝顔。もしかしたらそれよりも幼く感じさせる寝顔。
「だけど、美月は戦っていたのね。多分、ずっと。…これからも」
その時は『女の子』でなくなる。『黒衣の剣士』になってしまう。ならばせめて、
「私と一緒の時だけは、『女の子』でいさせてあげよう…」
聞きたかったことは聞かずにいよう、向こうから少しずつ教えてくれるはずだから。そう心に思い、その問いたちを深く沈めた。
「それに、」
自分が言うべき言葉はそんなことではない。もっと他に言うべきことがあるはずだ。悠は美月の髪をかきあげ、頬を何度もさする。本当に熟睡しているらしく、何の反応も返って来ない。それを確認すると、顔を近付け、耳元で
「…取り敢えず、お疲れ様」
と、囁いた。
「私、美月のことが好き。…多分、自分の命以上に大切に想ってる。…私に何が出来るか分からないけど、これからは私も一緒に戦うね」
そして、照れながら、恥じらいながら、戸惑いながら、悠は美月の頬に唇を乗せ、キスをした。すぐに慌てて唇を指で隠す。顔が赤くなるのを感じ、それを隠すように布団に顔を埋めた。
「あと、ありが…」
と言いかけて途中で止めた。美月の寝顔をもう一度覗き、ニコリと微笑んだ。
「…は、起きてから言うね。ちゃんと、美月の目を見て」
それだけ言うと、悠も瞼を閉じる。もっとも、昴ぶってしまった熱のせいで、彼女が眠りについたのはその更に一時間後のことであった。
美月が走り去った後、悠はその場で待ち続けた。帰ってくることを信じて。携帯電話を開き、電話をかけようかと指が動いたが、すぐに止まる。今電話をかけたら、美月の戦いの邪魔になる。いや、もしかしたら
(今までも、邪魔していたのかもしれない)
夜に電話をしたことはこれまでもあった。だが、全く電話に出てくれない時もあった。もしかしたら、その時美月は戦っていたのかもしれない。今日のように。悠はそう考えた。
(私、美月に何を言えばいいのかな…)
などと考えていると、何かが近づいてくる音が聞こえ、悠はそちらに目を向けた。美月だった。服は先ほど戦っていた時に着ていた黒衣ではなく私服に戻っていた。
「帰るよ、悠」
そこにいた美月の笑顔は、どこかぎこちなく、皮肉っぽい笑顔だった。そして悠にとってはいつも見ている笑顔で、美月が無理をしていない時の、いつも通りの笑顔だと知っていた。
(私、何考えてたんだろ。美月にとっては『いつも通り』じゃない…。だったら、)
悠は満面の笑顔を浮かべる。いつも通りの、自分の笑顔を。それを見た美月は安堵の様な表情を浮かべた。
「うん、帰ろ。美月」
2人は夜道を歩き、マンションへと帰っていった。
美月の部屋に着くなり、美月はベッドへと倒れ込んだ。
「あー、疲れた」
悠は美月の隣に座り、言葉を探した。流石に聞きたいことが山ほどあったからだ。何故、美月が『黒衣の剣士』なのか、いつから戦い続けているのか。それを聞きたかった。
「ごめん悠。本気で疲れたから爆睡する。…起きれないと思うから朝起こして」
「え?美月?」
自分が了解するよりも前に美月は瞼を閉じる。数秒も経たないうちに、寝息を上げ、深い眠りについた。何度か体をゆするが、起きる気配を見せない。
「…勝手なんだから」
時間を確認すると、もう夜の2時になろうとしていた。こんな時間に帰っても親にしつこく追求されるだけだと考え、
『美月の家で泊まる』
てメールを打って送ると、電源を切って携帯電話を投げ捨てた。悠もベッドに入り込み、美月の隣で横になる。子どものように無防備に眠っている寝顔を見て、悠は聞きたかったことがどうでも良い物の様に感じてしまった。
「もう、卑怯だわ。こんな時だけ『女の子』になるんだから」
美月の寝顔を覗き込み、そんなことを呟く。年頃の女の子の寝顔。もしかしたらそれよりも幼く感じさせる寝顔。
「だけど、美月は戦っていたのね。多分、ずっと。…これからも」
その時は『女の子』でなくなる。『黒衣の剣士』になってしまう。ならばせめて、
「私と一緒の時だけは、『女の子』でいさせてあげよう…」
聞きたかったことは聞かずにいよう、向こうから少しずつ教えてくれるはずだから。そう心に思い、その問いたちを深く沈めた。
「それに、」
自分が言うべき言葉はそんなことではない。もっと他に言うべきことがあるはずだ。悠は美月の髪をかきあげ、頬を何度もさする。本当に熟睡しているらしく、何の反応も返って来ない。それを確認すると、顔を近付け、耳元で
「…取り敢えず、お疲れ様」
と、囁いた。
「私、美月のことが好き。…多分、自分の命以上に大切に想ってる。…私に何が出来るか分からないけど、これからは私も一緒に戦うね」
そして、照れながら、恥じらいながら、戸惑いながら、悠は美月の頬に唇を乗せ、キスをした。すぐに慌てて唇を指で隠す。顔が赤くなるのを感じ、それを隠すように布団に顔を埋めた。
「あと、ありが…」
と言いかけて途中で止めた。美月の寝顔をもう一度覗き、ニコリと微笑んだ。
「…は、起きてから言うね。ちゃんと、美月の目を見て」
それだけ言うと、悠も瞼を閉じる。もっとも、昴ぶってしまった熱のせいで、彼女が眠りについたのはその更に一時間後のことであった。