Chapter0.9「『もしも』の夜」


 悠と共に泣き続けた夜の次の日、深夜に美月はまた外に出た。テュルフィングを探すため、夜の町を走り続けた。だが一向に見つかる気配はない。

「…駄目、見つかんない」

「まぁ、闇雲に探しても難しいだろうね」

 走るのを止め、座れそうな所を探す美月。目の前には『天海公園』があった。もはや、美月にとってはお馴染みの場所になっていた。

「今日は悠って子とずっと一緒だったね」

 そのアスモデウスの言葉に美月は顔を紅くする。恥ずかしくて。アスモデウスの言う通り、今日美月は一日中悠と共に行動していた。朝、学校行く時も昼食も、帰る時も。果ては2人でクレープを食べに寄り道し、美月1人では絶対に行かないカラオケにまで行った。それはまるで、

「デートみたいだったね」

 と、見ていた第三者に言われ、余計に顔を紅くした。

「…今まで散々突き放してきたからさ。離れてた分を早く取り戻さないといけないんだよ」

「素直に大好きだからいちゃつきたい、って行った方が楽じゃないかい?」

「…茶化すなよ」

 公園にある噴水の淵に腰掛け、美月は月を眺める。キレイな満月だ。

「悠には言わないのかい?自分が戦っていることとかを」

「言ってどうすんの。…言っても負担になるだけだって」

 そう言って、美月はふと考えた。もし自分のしていれことを明かしたら悠はどう反応するのか、を。

「もしかしたら、側にいてくれなくなるかもしれない」

 ヒトでないモノの力を使って、
 ヒトでないモノと戦って、
 そんな人間の側にいてくれるだろうか?ましてや自分は復讐のために戦っている。そんな自分を受け入れてくれるのだろうか。そう考えると、美月の肩が震えた。戦っている時にすら感じることがなかった恐怖が、美月を包む。

「…やっぱり言わないよ。これは私の問題だし」

「…悠は変わらず美月の側にいてくれると思うよ」

「それでも、『もしも』が起きるのが怖いんだよ、アタシは」

 離れていて気付いた、そしてまた一緒になって美月は気付かされた。自分が悠をどれだけ大切にしているのか、そしてどれだけ好きなのかを。

「アタシは悠を失いたくない」

「なら、頑張って守ることだね。あの子をさ」

 言われなくてもそのつもりだった。もう失う辛さを知るのは美月もごめんだった。

「強くならないとね。…悠を失わないように」

 力も、心も。そう心の中で付け足し、美月は立ち上がった。その時、公園に何か音が伝わってくる。それはギターの音と、歌声だった。その声は何度も聞いたことのある心地よい声。

「悠の、歌だ」

「へぇ、上手いね。それに良い曲だ。何ていう歌なんだい?」

「えっと、この歌はたしか『knight of night』だったかな?」

「夜の騎士、か。今の君にぴったりだね」

 自分の纏う黒衣。更に自分が戦う時間は決まって深夜だった。確かに合ってなくもなかった。だが素直に頷くには抵抗があった。

「…騎士じゃないから」

「そうかい?悠を守るナイトだろ?君は」

 本気なのか冗談なのか判断出来ず、美月は呆れて溜め息をつくしかなかった。

「でも、もしも悠にばれたらどうしよう」

 今、何も知らずに唄い続けている悠。もし彼女に全てを知られた時、自分はどうしたら良いのか。

「どうもしないだろう」

「は?」

 アスモデウスの無責任な一言に苛立った美月だったが、アスモデウスは気にせず話を続ける。

「いつも通りの君でいればいい。そうしたらあの子もいつも通りに接してくれるさ」

「…そうかな?」

 納得のいかないものがあったが、結局それしか方法はないのだろうな、と自分に言い聞かせた。
と、その時

‐カラーン、カラーン、カラーン‐

 と、あの音が鳴る。

「しかし、どうせなら悠の歌だけ聞いて気持ち良く帰りたいものだったね」

「それには激しく同感。…嫌な音聞いちゃった」

 美月はそう吐き捨てると、音の方へと走っていった。