Chapter9.0「本当の決着」


 テュルフィングにとって誤算が2つあった。1つは自分の本体が鞘であるということが相手にばれたこと。もう1つはその相手が異常に強くなっていたということ。力も速度も上がっており、自分を倒した一撃は認識することが出来ないほどであった。

「早く、鞘に戻り、再生しなければ」

 だが鞘の位置は割れておらず、その点では安心していた。鞘があれば何度でも復活できる。ましてや位置の把握など出来るはずがない、と踏んでいたからだ。

「まさか追いかけられる程早くはあるまい」

 そう自信を持っていた。事実、魔力だけになったテュルフィングは早かった。…だが、

「!この気配!ヤツが追ってきている。しかも、追いついてきているだと!?」

 魔力となったテュルフィングは辺りを確認した。自分の通ってきた道をそのまま追いかけてくる音と、そして紫の塊があった。

「な、なんだアレは!?」

 段々と近づいてき、ついに目視できる距離まできた時、テュルフィングは更に驚愕した。そこにいたのは先ほど戦っていた美月だった。それは理解できた。だが彼女はある物に乗っていた。それは、

「な、なんだソレはーっ!?」

「…悪いな、正義の味方にバイクは付き物なんだ」

 …だった。美月は紫に輝くバイクに乗っていたのだ。バイクからは排気は一切なく、代わりに光の粒子がこぼれている。

「ま、魔力を放出して推進力にしているのか、ソレは!」

「さ、だから滅茶苦茶早いよ。少なくともアンタを追い抜くくらいには」

「ぐ、く…!」

 美月は更にスピードを上げた。

「なるほど、美月行き先が分かったよ。地面を見てごらん」

 余所見運転はいけないのだが、美月は地面を凝視した。そこには細い傷のようなものがずっと続いていた。

「…なに、これ?」

「ヤツのつけた傷跡だよ。アイツが現れる時、いつも剣を地面に擦らせていただろ?…アレは帰り道を残すためにしていたんだよ」

「…パフォーマンスじゃなかったんだな。まぁいいや。行き先が分かったんなら、全力で飛ばす!」

 こぼれる光の粒子が多くなり、美月は爆発的に加速した。その姿はまるで、

「ひ、一筋の流星のようだ…!」

 であった。
 美月たちが辿り着いたのは小さな廃工場だった。門を体当たりで吹き飛ばし、更に工場まで飛び込んでいく。

「見つけた、アレだ!」

 工場の真ん中で鉄材が詰まれており、その中に埋もれているかのように鞘が突き刺さっていた。様々な色の宝石が散りばめられた煌びやかな鞘だった。鞘の宝石たちが発光し、光の輪が現れ、鞘を包み込む。

「ナニ?光ってる」

「…防御的な魔法だね。生半可な攻撃じゃ破れないと思うよ?」

「…元から徹底的にやるつもりだったから問題なし」

 バイクから飛び降り、剣を両手に構えた。

「アスモデウス、アレやるよ」

「そうだね、カッコ良く決めようか」

 息を大きく吸い込み、意識を集中させる。美月の前に黒い魔法陣が現れる。魔法陣に勢いよく剣を突き刺す。すると魔法陣の光が次々と剣に吸い込まれ、そして剣から黒い光が溢れる。光は際限なく大きくなり、まるで長い長い刃を表すかの様に剣から伸びていく。

「行くよ!」

「行こうか!」

 美月は大きな光の刃となった剣を一気に振るった。

「『闇月、一閃!』」

 2人の声が重なり、振るわれた一撃が、振るわれた一閃が、全てを切り裂いた。刻まれた線と共に、美月の目の前の全てが一刀両断された。光の輪を纏っていた鞘も、光ごと真っ二つになり、そして粉々に砕け散った。

「…やった!?」

 目の前で相手が粉々に砕け散ったが、安心出来ずに居た。今まで何度も復活した相手だからだ。疑心暗鬼になっている美月を光の粒子が包み込む。それがテュルフィングの魔力だとすぐ分かった。

「見事、我を倒すとは」

「あぁ、勝ったんだアタシ」

「うむ、お陰でこれで我もアイツから解放される」

 やはり操られていたのか、と美月は心に思ったが、口にはしなかった。言ってしまえば、ソイツを許してしまう気がしたからだ。

「…アンタは消えるのか?」

「帰るべき場所を無くしたからな」

 その言葉に一瞬美月はドキリとした。自分はコイツがしたのと同じように、居場所を奪うモノになってしまったのか、と。だが、奇しくも相手の発した次の言葉が美月を安心させる。

「だが礼を言う。あのまままでは無駄に人殺しを続けていた」

「…そう」

 今まで連続殺人をしていた者とは思えない言葉であった。

「このまま我は消えるのだが、…どこに消えても文句はなかろう」

 そう言うと魔力の光は美月の剣へと消えていく。そして剣が光を放ち、形状が変わっていく。

「ちょ、何!?」

「…テュルフィングの魔力が吸収されているんだ」

「な、何で?アタシ何にも約束とかしてないよ」

「あぁ、今までとは違う。ソイツが僕の剣と融合してるだけであって、君と契約しているわけじゃないからね」

 実は今手に持っている剣が元々アスモデウスの剣であることを若干忘れていた美月であった。完全に形が変わり、一回り大きくなる剣。

「武器っていうのは、持ち手を選べない。だけど真の持ち手と出会えた時、武器は本当に幸せなんだ。たとえ持ち手がどんなヤツであってもね。コイツは自分を負かした君を認めて、君の剣になりたいと心から純粋に思ったんだ。…だから、自分の消え行く先をソコに決めたんだろうね」

 新しくなった剣は、黒の刀身に赤い装飾が入った剣になっていた。だが色合いとは裏腹に、禍々しさは感じられず、むしろ美しく仕上がっていた。

「…元々無銘の剣だったけど、丁度いい機会だ。今日からその剣の名前はテュルフィングにしよう」

 新しくなった剣を見て美月は溜め息をついた。

「…何が『文句はなかろう』だよ」

 スレイプニルにまたがり、もう一度改めて剣を見る。

「憎むに憎めなくなったじゃないか…」

 頬を少し赤らめ、美月はスレイプニルで夜の町を走った。