Chapter8.0「決意の黒衣」


 自分の過去を思い出した美月。走るのを止め、悠の顔を見つめる。そして悠の言葉を思い出した。

 私子どもじゃないわ
 大事な人だからこそ
 今を突き放すことはない
 今を大事にするべきだと思う

 そして、

「…アタシは悠の代わりに泣くことや、笑うことは出来ない」

 それは悠だからこそ出来る強さであって、自分には出来ない強さだから。

「でも、悠の代わりに、悠のために戦うことは出来る…!」

 それは自分にしか出来ない強さ。美月は携帯電話を取り出し、そして

asmodeus@devil

「行くよ!アスモデウス!」

「行こうか!美月!」

 黒い光に包まれ、美月は黒衣をまとう。悠はそれを形容する言葉を知っており、その言葉をつい発してしまう。

「『黒衣の剣士』…!?」

「…って言うらしいね。世間では」

 悠に向かい、苦笑いを見せる。悠からどんな言葉が返ってくるか、美月は身構えたが、悠から返ってきた言葉は、

「それなら、そうと言ってよ」

 一瞬困った顔を見せるが、すぐにいつも通りの満面の笑顔を見せ、しっかりと美月の顔を見据えた。

「…やっぱり、悠はすげーよ」

「え?何?聞こえなかった」

「いいよ、気にしないで」

 聞こえるように言ったつもりはないのだ。それで良かった。
 そんなやり取りをしている間にテュルフィングが追いついてくる。大剣が美月たちに向かって振るわれるが、美月は剣を抜くと片手でそれを受け止めた。

「な、なに!?」

「…倒し方が分かったってのもあるけど。悪いな、今のアタシはアンタなんかに負ける気しないよ」

 剣を弾き、美月は相手の腹に蹴りをお見舞いする。衝撃で遥か後方まで吹き飛ばされるテュルフィング。

「…あれ、アタシの蹴りってこんなに強かったっけ?」

 自分の放った蹴りの威力に戸惑い、そのまま硬直する美月。上がったままの脚を悠に叩かれ、ゆっくりと脚を下ろした。

「…愛のなせる技だね」

「茶化すな」

 アスモデウスの言葉を真に受けず、剣を構える。だが両手で持とうとはせず、片手で構えるだけだった。それで十分な気がしたからだ。

「それより美月。倒し方が分かったって本当かい?」

「…確証はないけどね。アスモデウスのテュルフィングに関する話を思い出して、思いついたんだ。…見なよ」

 美月は剣の切っ先をテュルフィングに向ける。

「アスモデウスの話で『鞘から剣を抜く』ってくだりがあったでしょ?でも、アイツは鞘なんて持ってない。今までの戦いだってそうだった。多分どっかに置いてきてるんだと思う。…ってことはさ」

「鞘が本体の可能性が高い、ということか。本体が傷つかない所に逃がしておいて戦う、か。…なるほど、考えたな」

「もっとも、肝心の鞘の位置が分からないんだけどね」

 テュルフィングは立ち上がり、美月に向かってくる。2人の剣が弾け合い、あまりの衝撃に辺りに火花が散る。

「よく気付いたな。だが、鞘の位置が分からなければ意味があるまい」

「…改めて言うなって」

 言葉とは裏腹に美月は安堵した。相手の言葉を信じるなら、どうやら美月の考えは正解らしい。

「お前は俺を倒すことはできん!」

「…どうかな?そうとも限らないよ?」

 答えたのはアスモデウスだった。

「美月、ヤツを倒すんだ。僕にも考えがある」

「なら。遠慮なく!」

 アスモデウスの言葉を信じ、美月は剣を両手に持ち直した。本気で倒すために。斬撃と蹴りの連続攻撃で、相手の体勢を崩していく。相手の姿勢が崩れたのを見逃さず、相手の剣を弾き飛ばした。そして、衝撃で相手の両腕が上がり、無防備になったテュルフィングの胴に向かって、

「喰らえ!!」

 一閃した。

「がぁぁぁぁっ!」

 断末魔が響き渡り、肉体と持っていた剣は、まるでガラスが割れるように粉々に砕け散った。

「で、どうするの?…ってあれ?」

 美月は自分の目を疑った。自分の周りを小さな光が浮いているのだ。そしてその光がどこかへ飛ぼうとしている。

「いくら本体が無事でも、再生ってのは元となる魔力が無ければ出来ないんだ。この光は今倒した肉体と剣の魔力だよ」

「…アタシ、こーいうの見れるようになったの?」

「僕が見えるようにしているんだ。その光は再生するために鞘に逃げるはずだ。それを追えば鞘の位置に辿り着く」

 そんな会話をしている間にも光は飛んでいく。

「逃がすか!」

「ま、待って美月!」

 追おうとする美月を悠が止める。

「絶対帰ってきてよ?」

「分かってる」

「負けても良いから、お願い。絶対帰ってきてよ?」

「分かってる。大丈夫だから」

 悠に笑いかけ、光を追って走る美月。だが、光の逃げていくスピードは思いの外早く、距離が広がるばかりだった。

「駄目だ、結構早い!」

「なら、アイツの出番かな?」

「だね」

 美月は携帯電話を開き、そしてキーを押していく。
 Eメール
 新規作成
 宛先入力
 sleipnir@devil
 送信
 送信完了と共にメールを受信し、着信音が鳴り響く。

「行くよ!スレイプニル!」

「承知!我が主よ!」

 アスモデウスとは別の声が響き、着信音と共に美月の目の前に紫の魔法陣が現れる。美月は走る勢いそのままに、その中に飛び込んだ。