Chapter0.7「泪の夜」
マンションのホール。美月はエレベーターを呼び出して乗り込んだ。自分の部屋の階を押し、壁にもたれかかる。携帯電話を開き、時刻を確認した。深夜の2時を回っており、深く溜め息をつく。
「…アイツ、見つからなかった。でも、次こそは」
ここ数日、美月は両親の仇、テュルフィングを探す毎日が続いていた。だが良い結果は出ていない。エレベーターが到着し、美月は部屋へと向かう。部屋まで辿り着くと、美月は立ち止まった。自分の部屋の前に、
「あ、おかえり美月」
悠がいたからだ。眠そうな目をこすり、部屋の前で立っている。
「遅かったね。どこ行ってたの?」
気さくな笑顔で話しかけてくるが、美月は無視して部屋に入ろうとする。ドアに手を掛けるが、その手を悠が力強く握り締める。
「…なんで最近、私と話してくれないの?」
「…」
両親を失った美月は、誰かを失う辛さを知った。そのため、美月は以来誰とも話すことを止めた。いずれいなくなるなら、辛い思いをするのなら元からいない方が良いと考えたからだ。独りになれば辛い思いをしなくて済む、と。そしてそれは幼なじみの悠に対しても一緒だった。
「疲れてるんだ、寝かせて」
手を払いのけると、美月は部屋に入り込む。扉を閉めようと振り向き、美月は止まった。悠も部屋に入り込んでいたのだ。
「…教えてくれるまで、帰らないから」
鋭い目つきが美月に刺さる。普段の悠からは考えられない目つきであった。美月は観念し、自分の気持ちを打ち明けた。だが、悠の目を見ることが出来ず、俯きながら話をする。
「…悠だって、いつかは消えるんだ。アタシは嫌なんだよ、もうあんな辛い思いをするのは。だから、誰とももう関わりたくないんだ」
「それが、理由?」
「…そうだよ、分かったら。とっとと帰れ。それから、もうアタシには関わるな」
突き放そうと、言葉に力を込めて話す。恐る恐る視線を上げる美月。そこにいたのは笑顔の悠だった。美月は自分の目を疑った。何故、悠が笑っているのか理解出来なかったからだ。そして、悠は意外な言葉を言った。
「…良かった」
「え?」
怒声か、あるいは泣き声が響くと覚悟していたが、悠から発せられた言葉は静かなものだった。
「別に私のことが嫌いになった訳じゃないのね」
悠は美月の手を握る。先程のような力強いものではなく、優しく、包み込むように。
「美月、私子どもじゃないわ。美月に言われなくても、そんなこと分かってる。いつかは離れ離れになるだろうし、そのせいで辛い思いをするってことも理解してるつもり」
「悠…」
「…それが大事な人だからこそ、そんな思いをしてしまうってことも、ね」
優しく語りかける悠。美月は止まってしまった。突き放さなければいけないのに、それが出来ずにいた。
「だけど美月、いつ来るか分からない未来のために今を突き放すことはないと思う。それにいつか来るって分かってるからこそ、今を大事にするべきだと思う」
美月の目から涙が流れる。慌てて涙を拭うが、涙は止まることなく溢れ出てくる。自分でも涙の理由が分からず、戸惑うばかりだった。
「美月、泣いてるの?」
「ば、ばか、見んな…!」
「…分かった、見ないわ」
次第に増える涙に困惑する美月を、暖かく、柔らかく、優しいものが包み込む。それが悠の胸の中だと美月はすぐに分かった。
「こうすれば、見えないでしょ?」
悠の手が何度も美月を撫でる。美月はついに大声を上げて泣き出した。
「美月が泣きたい時も、笑いたい時も、いつでも一緒にいる。そしてもし…」
美月はふと顔を上げる。そこには満面の笑顔で大粒の涙を流す悠がいた。
「もしも美月が泣きたくても泣けない時は私が代わりに泣く。笑いたい時に笑えない時は私が代わりに笑う」
美月は悠を力強く抱きしめ、悠も負けないくらい力強く抱きしめる。2人の泣き声が辺りに響くが、2人は気にせず泣き続けた。
マンションのホール。美月はエレベーターを呼び出して乗り込んだ。自分の部屋の階を押し、壁にもたれかかる。携帯電話を開き、時刻を確認した。深夜の2時を回っており、深く溜め息をつく。
「…アイツ、見つからなかった。でも、次こそは」
ここ数日、美月は両親の仇、テュルフィングを探す毎日が続いていた。だが良い結果は出ていない。エレベーターが到着し、美月は部屋へと向かう。部屋まで辿り着くと、美月は立ち止まった。自分の部屋の前に、
「あ、おかえり美月」
悠がいたからだ。眠そうな目をこすり、部屋の前で立っている。
「遅かったね。どこ行ってたの?」
気さくな笑顔で話しかけてくるが、美月は無視して部屋に入ろうとする。ドアに手を掛けるが、その手を悠が力強く握り締める。
「…なんで最近、私と話してくれないの?」
「…」
両親を失った美月は、誰かを失う辛さを知った。そのため、美月は以来誰とも話すことを止めた。いずれいなくなるなら、辛い思いをするのなら元からいない方が良いと考えたからだ。独りになれば辛い思いをしなくて済む、と。そしてそれは幼なじみの悠に対しても一緒だった。
「疲れてるんだ、寝かせて」
手を払いのけると、美月は部屋に入り込む。扉を閉めようと振り向き、美月は止まった。悠も部屋に入り込んでいたのだ。
「…教えてくれるまで、帰らないから」
鋭い目つきが美月に刺さる。普段の悠からは考えられない目つきであった。美月は観念し、自分の気持ちを打ち明けた。だが、悠の目を見ることが出来ず、俯きながら話をする。
「…悠だって、いつかは消えるんだ。アタシは嫌なんだよ、もうあんな辛い思いをするのは。だから、誰とももう関わりたくないんだ」
「それが、理由?」
「…そうだよ、分かったら。とっとと帰れ。それから、もうアタシには関わるな」
突き放そうと、言葉に力を込めて話す。恐る恐る視線を上げる美月。そこにいたのは笑顔の悠だった。美月は自分の目を疑った。何故、悠が笑っているのか理解出来なかったからだ。そして、悠は意外な言葉を言った。
「…良かった」
「え?」
怒声か、あるいは泣き声が響くと覚悟していたが、悠から発せられた言葉は静かなものだった。
「別に私のことが嫌いになった訳じゃないのね」
悠は美月の手を握る。先程のような力強いものではなく、優しく、包み込むように。
「美月、私子どもじゃないわ。美月に言われなくても、そんなこと分かってる。いつかは離れ離れになるだろうし、そのせいで辛い思いをするってことも理解してるつもり」
「悠…」
「…それが大事な人だからこそ、そんな思いをしてしまうってことも、ね」
優しく語りかける悠。美月は止まってしまった。突き放さなければいけないのに、それが出来ずにいた。
「だけど美月、いつ来るか分からない未来のために今を突き放すことはないと思う。それにいつか来るって分かってるからこそ、今を大事にするべきだと思う」
美月の目から涙が流れる。慌てて涙を拭うが、涙は止まることなく溢れ出てくる。自分でも涙の理由が分からず、戸惑うばかりだった。
「美月、泣いてるの?」
「ば、ばか、見んな…!」
「…分かった、見ないわ」
次第に増える涙に困惑する美月を、暖かく、柔らかく、優しいものが包み込む。それが悠の胸の中だと美月はすぐに分かった。
「こうすれば、見えないでしょ?」
悠の手が何度も美月を撫でる。美月はついに大声を上げて泣き出した。
「美月が泣きたい時も、笑いたい時も、いつでも一緒にいる。そしてもし…」
美月はふと顔を上げる。そこには満面の笑顔で大粒の涙を流す悠がいた。
「もしも美月が泣きたくても泣けない時は私が代わりに泣く。笑いたい時に笑えない時は私が代わりに笑う」
美月は悠を力強く抱きしめ、悠も負けないくらい力強く抱きしめる。2人の泣き声が辺りに響くが、2人は気にせず泣き続けた。