Chapter6.O「終わらない日々」
携帯電話が鳴り響く。曲名は『in the sky』。朝にいつも鳴る馴染みの曲が美月の部屋に流れる。美月は布団の中に完全に埋まっており、右手だけを布団から出して携帯電話を探す。しばらく右往左往した後にようやく見つかり、適当にボタンを押した。曲が鳴り止み、美月は携帯電話を何処かに投げ捨てると布団の中に手を引っ込めた。まるで亀である。
「…お願い寝かせて、悠」
等と寝言が布団から聞こえてくる。だが思いはむなしく携帯電話がまた鳴り響く。曲名はやはり『in the sky』である。
「…おのれスヌーズモード」
手を伸ばすが携帯電話は何処にもない。それもそのはず先程適当に投げ飛ばしたのだ、手の届くところにあるわけがなかった。布団から顔を出し、携帯電話を目で探す。部屋のドアの手前にそれはあり、どう考えても布団から出なければ止められない距離だった。
「時々思うけどアタシって結構真面目だよな。ちゃんと朝起きて学校行くんだから」
自分を誉めてあげて奮起させ、布団からずるずると這い出た。…亀の脱皮の瞬間である。もっとも甲羅である掛け布団は「邪魔」の一言で美月に蹴り飛ばされることになる。携帯電話まで歩み寄り、拾い上げて目覚まし機能を完全に切った。
「…やっと金曜日か」
携帯電話に表示されている日付を見てそう呟いた。以前に悠と電話して一つの約束をしていた。今日は悠が天海駅の駅前広場で歌を唄うと言っていた日で、自分も聞きに行くと約束していた。
「楽しみにしておくか」
美月はこの日を実は待ち詫びていた。美月は悠の歌が大好きであった。悠は常に満面の笑顔で元気に唄い、体全身を使って目一杯ギターを演奏している。その姿はいつも美月に元気を与えていた。悠の歌を聞いた美月は、時に心を激しく昂揚させ、時に何故か心を落ち着かせる。どの歌にせよ、聞けば美月は親を亡くした辛さや、ヒトでないモノと戦い続けている自分を忘れさせてくれた。そして何より
「…アタシは1人じゃないって教えてくれるんだよな」
無論、悠本人にはそれを言ったことはなかった。そんなことをすれば「やっぱり美月は私がいないとダメね!」と言ってあの小さな胸を大きく張るのだろう、と美月は予想しているからだ。
「いや、逆に感極まって泣くか?」
と別の考えを想像してつい笑みをこぼした。
‐ピーン、ポーン‐
インターフォンが鳴る。玄関に向かいドアを開けると悠がいた。すでに制服に身を包んでおり、手には何故かスーパーの袋を持っていた。
「おはよ、美月」
「…別に迎えに来るのは良いけど、来るの早すぎ。今起きたとこなんだけど。」
「だって早く来ないと朝ご飯作る時間ないもの」
スーパーの袋を見せつけ、悠は勝手に家に入ってそのまま台所に向かった。悠はここ数日間美月を起こしに毎朝、顔を出している。それも美月が起きる時間に合わせて。
「最近どうしたの?…と言うか本当に早く来すぎなんだけど悠」
「さぁ?何ででしょうね」
苛立ちながら聞く美月だが、それを鼻歌交じりに悠はスルーする。スーパーの袋から食材を取り出し、朝食の準備を始める。
「ほら、ご飯すぐに作るから。早く着替え済ませちゃって」
「…きっと悠を嫁にしたヤツは幸せ者だよ」
精一杯の皮肉のつもりだが、当の本人は顔を真っ赤にして黙り込んだ。答えに詰まった悠を見て美月まで恥ずかしくなったのでその場を離れた。リビングに置いてある制服を手に取り、袖を通していく。
「そう言えば美月」
声に平静さが戻っている。何とか立ち直れたようだ。
「連続殺人事件のことだけど」
「あぁ、あれか」
天海市で起きていた連続殺人事件は止まっていた。ここ数日間被害者は1人も出ていない。それもそのはずだ。美月があの夜連続殺人事件の犯人、テュルフィングを倒したため、これ以上殺人事件が起きるわけはないのだ。自分のおかげと思ったことはないが、町がいつも通りになって良かったと美月は感じていた。
(少なくとも悠が無事なら別にいいさ)
台所に目を向けると、それに合わせたかの様に悠が顔を覗かせる。
「被害者、久しぶりに出たんだって」
それだけ言うと顔を引っ込めた。だが美月は今の悠の言葉を受け止められずに硬直していた。思考が回復し、悠の元へ歩み寄った。
「そ、それ本当!?」
「ニュースでやってたよ?」
冗談を言っている顔ではなかった。美月はテレビを点け、いつも見ているニュースにチャンネルを合わせる。そこでは丁度例の連続殺人事件について報道していた。数日ぶりの被害者、今までと同じ犯行方法であることなどをニュースキャスターが丁寧に伝えていた。
「…嘘、でしょ?」
呆然とする美月とは逆に悠は淡々としていた。
「いつになったら終わるのかな。この連続殺人」
「…本当だよ、いつになったら終わるんだ」
倒したと思っていた、今度こそ確実に。だが終わっていなかった。美月の耳元でアスモデウスの声が響いた。
「…ボクの理解の外の話だ」
…と。
携帯電話が鳴り響く。曲名は『in the sky』。朝にいつも鳴る馴染みの曲が美月の部屋に流れる。美月は布団の中に完全に埋まっており、右手だけを布団から出して携帯電話を探す。しばらく右往左往した後にようやく見つかり、適当にボタンを押した。曲が鳴り止み、美月は携帯電話を何処かに投げ捨てると布団の中に手を引っ込めた。まるで亀である。
「…お願い寝かせて、悠」
等と寝言が布団から聞こえてくる。だが思いはむなしく携帯電話がまた鳴り響く。曲名はやはり『in the sky』である。
「…おのれスヌーズモード」
手を伸ばすが携帯電話は何処にもない。それもそのはず先程適当に投げ飛ばしたのだ、手の届くところにあるわけがなかった。布団から顔を出し、携帯電話を目で探す。部屋のドアの手前にそれはあり、どう考えても布団から出なければ止められない距離だった。
「時々思うけどアタシって結構真面目だよな。ちゃんと朝起きて学校行くんだから」
自分を誉めてあげて奮起させ、布団からずるずると這い出た。…亀の脱皮の瞬間である。もっとも甲羅である掛け布団は「邪魔」の一言で美月に蹴り飛ばされることになる。携帯電話まで歩み寄り、拾い上げて目覚まし機能を完全に切った。
「…やっと金曜日か」
携帯電話に表示されている日付を見てそう呟いた。以前に悠と電話して一つの約束をしていた。今日は悠が天海駅の駅前広場で歌を唄うと言っていた日で、自分も聞きに行くと約束していた。
「楽しみにしておくか」
美月はこの日を実は待ち詫びていた。美月は悠の歌が大好きであった。悠は常に満面の笑顔で元気に唄い、体全身を使って目一杯ギターを演奏している。その姿はいつも美月に元気を与えていた。悠の歌を聞いた美月は、時に心を激しく昂揚させ、時に何故か心を落ち着かせる。どの歌にせよ、聞けば美月は親を亡くした辛さや、ヒトでないモノと戦い続けている自分を忘れさせてくれた。そして何より
「…アタシは1人じゃないって教えてくれるんだよな」
無論、悠本人にはそれを言ったことはなかった。そんなことをすれば「やっぱり美月は私がいないとダメね!」と言ってあの小さな胸を大きく張るのだろう、と美月は予想しているからだ。
「いや、逆に感極まって泣くか?」
と別の考えを想像してつい笑みをこぼした。
‐ピーン、ポーン‐
インターフォンが鳴る。玄関に向かいドアを開けると悠がいた。すでに制服に身を包んでおり、手には何故かスーパーの袋を持っていた。
「おはよ、美月」
「…別に迎えに来るのは良いけど、来るの早すぎ。今起きたとこなんだけど。」
「だって早く来ないと朝ご飯作る時間ないもの」
スーパーの袋を見せつけ、悠は勝手に家に入ってそのまま台所に向かった。悠はここ数日間美月を起こしに毎朝、顔を出している。それも美月が起きる時間に合わせて。
「最近どうしたの?…と言うか本当に早く来すぎなんだけど悠」
「さぁ?何ででしょうね」
苛立ちながら聞く美月だが、それを鼻歌交じりに悠はスルーする。スーパーの袋から食材を取り出し、朝食の準備を始める。
「ほら、ご飯すぐに作るから。早く着替え済ませちゃって」
「…きっと悠を嫁にしたヤツは幸せ者だよ」
精一杯の皮肉のつもりだが、当の本人は顔を真っ赤にして黙り込んだ。答えに詰まった悠を見て美月まで恥ずかしくなったのでその場を離れた。リビングに置いてある制服を手に取り、袖を通していく。
「そう言えば美月」
声に平静さが戻っている。何とか立ち直れたようだ。
「連続殺人事件のことだけど」
「あぁ、あれか」
天海市で起きていた連続殺人事件は止まっていた。ここ数日間被害者は1人も出ていない。それもそのはずだ。美月があの夜連続殺人事件の犯人、テュルフィングを倒したため、これ以上殺人事件が起きるわけはないのだ。自分のおかげと思ったことはないが、町がいつも通りになって良かったと美月は感じていた。
(少なくとも悠が無事なら別にいいさ)
台所に目を向けると、それに合わせたかの様に悠が顔を覗かせる。
「被害者、久しぶりに出たんだって」
それだけ言うと顔を引っ込めた。だが美月は今の悠の言葉を受け止められずに硬直していた。思考が回復し、悠の元へ歩み寄った。
「そ、それ本当!?」
「ニュースでやってたよ?」
冗談を言っている顔ではなかった。美月はテレビを点け、いつも見ているニュースにチャンネルを合わせる。そこでは丁度例の連続殺人事件について報道していた。数日ぶりの被害者、今までと同じ犯行方法であることなどをニュースキャスターが丁寧に伝えていた。
「…嘘、でしょ?」
呆然とする美月とは逆に悠は淡々としていた。
「いつになったら終わるのかな。この連続殺人」
「…本当だよ、いつになったら終わるんだ」
倒したと思っていた、今度こそ確実に。だが終わっていなかった。美月の耳元でアスモデウスの声が響いた。
「…ボクの理解の外の話だ」
…と。