Chapter4.0「黒衣の剣士」
バイトも終わり、学校の制服に着替えを済ますと美月は特に会話もせず、さっさと店を出た。時刻は12時を回ったところで、日付が丁度変わったところだ。
「早く帰って寝よ」
バイトで疲れたこともあるが、美月は今日1日のほとんどを寝て過ごしていた。寝不足が溜まっていることを自覚したのだ。
家まであともう少し、というところで携帯電話が鳴り響く。携帯を開いてみると、画面には悠からの電話を表示していた。心配して電話してきたのだろうな、と解釈して電話にでようとしたその時、
‐カラーン、カラーン、カラーン‐
と金属をするような音が聞こえてくる。まるで一年前の事件を思い出させるかのような、あの音が。
‐カラーン、カラーン、カラン‐
悠からの電話も鳴り止み、周囲の音はいよいよ例の金属音だけになった。そしてよく聞くと、その音は美月の帰ろうとした方角から聞こえてくる。
‐カラン、カラン、カラン‐
美月は家とは反対方向に走った。そしてそれに気づいたのか、金属音の間隔が短くなっていく。走って追いかけてきているのだと容易に想像できた。
‐カラン、カラン、カラ、カラ‐
「…ったく、近所迷惑だろーが!」
美月は逃走ルートを頭に描き、迷うことなくその道を走る。
‐カラ、カラ、カラカラカラカラカラ!‐
だが相手との距離の差は開くことはなく、むしろ縮まっていた。その間も悠から電話がかかってくるが無視した。というより今の彼女にそんな余裕はなかった。
曲がり門を曲がると、道は一直線に伸びており、美月は更に走る速度をあげた。相手も曲がり角から出てきた。剣を地面に擦らせながら走っており、その姿は一年前の事件の男を彷彿させた。
ただあの時とは違い、剣を持った男は人の形をしていなかった。全身が灰色の肌で、耳の近くから大きな突起物を生やしていた。まるで鬼の角を思わせる。
「逃げても無駄だぁっ!」
しかし姿とは裏腹に、日本語をしっかり話してくる。相手の言葉に美月は恐れるどころか、笑みを浮かべた。とりあえず会話は出来るのだな、と。
走り続けていると、敷地の広い公園に辿り着く。表札に『天海公園』と書かれており、その公園に入る。公園の真ん中には大きな噴水があり、そこまで走ると美月は振り返った。向こうも公園の門をくぐったところで立ち止まった。
「もう逃げないのかぁ?」
その言葉には一切反応せず、携帯電話を取り出す。そして慣れた手つきでキーを早押ししていく。手順はメール、新規作成、宛先入力。
「何だぁ、携帯なんて出して。助けでも呼ぶ気かぁ?」
今度の言葉には美月は反応した。
「驚いた、アンタは携帯知ってるんだ。てっきり、人間以外は携帯知らないもんだと思った」
話をしながら美月はキーを打つのを止めない。話しながらでも、画面を見なくても正確に打てる自信が彼女にはあった。今日までに何度も練習したからだ。
「別に助けなんて呼ぶ気ないよ」
「なら何だ?お友達にお別れのメールか?いいぜ、待ってるよ。俺様は優しいんだ」
「お気遣いどーも、でももう良いよ。打ち終わったし」
美月は相手に携帯の画面を見せ付けた。そこにはメールの作成画面が映っていた。しかし件名にも本文にも何も書かれていなかった。宛先だけが書かれており、そこにはこう書かれている。
asmodeus@devil
…と。
「何だ、ソレは?」
そこに表示されているのはまともな送信先ではなかった。にも関わらず、美月は迷うことなく送信のキーを押した。小さな言葉とともに。
「いくよ、アスモデウス…!」
画面に送信完了と表示され、そして大した間を置かず、着信音がなる。画面が切り替わり、メール受信完了と表示された。
「いこうか、美月…!」
何処かからか男の声が聞こえた。それと同時に美月の前に光の円が描かれ、次々と文字が浮かび上がる。
「魔法陣。しかし、何だその魔法陣は!見たことがない!」
「デジャブ、って言うんだろーね、前にも似たセリフ聞いたことあるよ。…あんたの言うとおり、コレは召還じゃない」
描かれた魔法陣は美月の体と重なり、黒い光を放つ。あまりの光量に相手は目を覆った。やがて光が少しずつ収まり、視界が鮮明になる。そしてそこから現れたのは先程と違う格好の美月であった。
白の制服が一転して全身真っ黒になっていた。マントにも見える黒いジャケット。黒のブーツに手袋。ジャケットの下も黒のシャツに黒のスカートとまさに黒一色だった。右手には美月のような女の子には似合わない漆黒の剣を持っている。
「き、貴様!その姿は!」
男は美月の格好に心当たりがあった。何故なら自分を何度も邪魔した相手の格好だったからだ。しかし中身が女性だとは想像すらしていなかった。
「…世間では『黒衣の剣士』って言われてるらしい」
美月は逃げていたわけではなかった。自分が全力で戦える広い場所に行きたかっただけなのだ。
「さてと、せっかくの良い夜なんだし」
美月は持っていた剣の、その切っ先を相手に向けた。そして、
「迷わず、闇に還れ…!」
と、静かにそう告げた…。
バイトも終わり、学校の制服に着替えを済ますと美月は特に会話もせず、さっさと店を出た。時刻は12時を回ったところで、日付が丁度変わったところだ。
「早く帰って寝よ」
バイトで疲れたこともあるが、美月は今日1日のほとんどを寝て過ごしていた。寝不足が溜まっていることを自覚したのだ。
家まであともう少し、というところで携帯電話が鳴り響く。携帯を開いてみると、画面には悠からの電話を表示していた。心配して電話してきたのだろうな、と解釈して電話にでようとしたその時、
‐カラーン、カラーン、カラーン‐
と金属をするような音が聞こえてくる。まるで一年前の事件を思い出させるかのような、あの音が。
‐カラーン、カラーン、カラン‐
悠からの電話も鳴り止み、周囲の音はいよいよ例の金属音だけになった。そしてよく聞くと、その音は美月の帰ろうとした方角から聞こえてくる。
‐カラン、カラン、カラン‐
美月は家とは反対方向に走った。そしてそれに気づいたのか、金属音の間隔が短くなっていく。走って追いかけてきているのだと容易に想像できた。
‐カラン、カラン、カラ、カラ‐
「…ったく、近所迷惑だろーが!」
美月は逃走ルートを頭に描き、迷うことなくその道を走る。
‐カラ、カラ、カラカラカラカラカラ!‐
だが相手との距離の差は開くことはなく、むしろ縮まっていた。その間も悠から電話がかかってくるが無視した。というより今の彼女にそんな余裕はなかった。
曲がり門を曲がると、道は一直線に伸びており、美月は更に走る速度をあげた。相手も曲がり角から出てきた。剣を地面に擦らせながら走っており、その姿は一年前の事件の男を彷彿させた。
ただあの時とは違い、剣を持った男は人の形をしていなかった。全身が灰色の肌で、耳の近くから大きな突起物を生やしていた。まるで鬼の角を思わせる。
「逃げても無駄だぁっ!」
しかし姿とは裏腹に、日本語をしっかり話してくる。相手の言葉に美月は恐れるどころか、笑みを浮かべた。とりあえず会話は出来るのだな、と。
走り続けていると、敷地の広い公園に辿り着く。表札に『天海公園』と書かれており、その公園に入る。公園の真ん中には大きな噴水があり、そこまで走ると美月は振り返った。向こうも公園の門をくぐったところで立ち止まった。
「もう逃げないのかぁ?」
その言葉には一切反応せず、携帯電話を取り出す。そして慣れた手つきでキーを早押ししていく。手順はメール、新規作成、宛先入力。
「何だぁ、携帯なんて出して。助けでも呼ぶ気かぁ?」
今度の言葉には美月は反応した。
「驚いた、アンタは携帯知ってるんだ。てっきり、人間以外は携帯知らないもんだと思った」
話をしながら美月はキーを打つのを止めない。話しながらでも、画面を見なくても正確に打てる自信が彼女にはあった。今日までに何度も練習したからだ。
「別に助けなんて呼ぶ気ないよ」
「なら何だ?お友達にお別れのメールか?いいぜ、待ってるよ。俺様は優しいんだ」
「お気遣いどーも、でももう良いよ。打ち終わったし」
美月は相手に携帯の画面を見せ付けた。そこにはメールの作成画面が映っていた。しかし件名にも本文にも何も書かれていなかった。宛先だけが書かれており、そこにはこう書かれている。
asmodeus@devil
…と。
「何だ、ソレは?」
そこに表示されているのはまともな送信先ではなかった。にも関わらず、美月は迷うことなく送信のキーを押した。小さな言葉とともに。
「いくよ、アスモデウス…!」
画面に送信完了と表示され、そして大した間を置かず、着信音がなる。画面が切り替わり、メール受信完了と表示された。
「いこうか、美月…!」
何処かからか男の声が聞こえた。それと同時に美月の前に光の円が描かれ、次々と文字が浮かび上がる。
「魔法陣。しかし、何だその魔法陣は!見たことがない!」
「デジャブ、って言うんだろーね、前にも似たセリフ聞いたことあるよ。…あんたの言うとおり、コレは召還じゃない」
描かれた魔法陣は美月の体と重なり、黒い光を放つ。あまりの光量に相手は目を覆った。やがて光が少しずつ収まり、視界が鮮明になる。そしてそこから現れたのは先程と違う格好の美月であった。
白の制服が一転して全身真っ黒になっていた。マントにも見える黒いジャケット。黒のブーツに手袋。ジャケットの下も黒のシャツに黒のスカートとまさに黒一色だった。右手には美月のような女の子には似合わない漆黒の剣を持っている。
「き、貴様!その姿は!」
男は美月の格好に心当たりがあった。何故なら自分を何度も邪魔した相手の格好だったからだ。しかし中身が女性だとは想像すらしていなかった。
「…世間では『黒衣の剣士』って言われてるらしい」
美月は逃げていたわけではなかった。自分が全力で戦える広い場所に行きたかっただけなのだ。
「さてと、せっかくの良い夜なんだし」
美月は持っていた剣の、その切っ先を相手に向けた。そして、
「迷わず、闇に還れ…!」
と、静かにそう告げた…。