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Chapter2.0「美月と悠」


‐キーン、コーン、カーン、コーン

「ん、終わったか」

 授業の終わりのチャイムが鳴り、美月はゆっくりと体を起こした。深く熟睡していたらしい。何か夢を見ていた気がするが、思い出すことが出来ない。夢なんてそんなものだろう、と深く考えるのは止め、スカートの中から携帯電話を取り出して時間を確認する。時刻は3時30分を表示している。

「あー、6時限終わってるし。帰ろ、帰って寝よ」

 さっさと教室から出ようとする美月。が、席から立ち上がると同時に両肩を押さえられ、無理矢理、強制的に席に座らされた。

「何帰ろうとしてるの、美月!」

 美月は首だけを後ろに向け、両肩を押さえた犯人を確認する。そこに居たのは自分と同じクラスの女の子。髪を肩より少し長い程度まで伸ばしている少女で、美月がこの学校でもっともよく知っている人物だった。

「いや、帰らせて。もしくは寝かせて、悠」

 後ろにいた少女の名は久地 悠‐くじ はるか‐。美月とは小学生からの付き合いで、いわゆる幼なじみ。…兼、お目付役である。

「夜遅くバイトに行くからだわ。…奨学金も補助金も出てるんだから、生活にさほど困ってないでしょ?」

「悠、私は社会勉強のためにバイトしてるの。金のためじゃない」

「社会のことを考えてるんなら、まずルールを守りなさい。夕礼にもちゃんと出なさい」

 などと2人がやり取りしている間に教室に担任の教師が入ってくる。悠は自分の席に戻る。美月は寝てしまおうと顔を伏せるが、メール受信時のバイブで起こされてしまう。相手は悠だった。件名も本文も「寝るな!」だった。顔を向けると美月をじっと睨んでいる。寝ようとするとまたメールで起こされそうなので、観念して起きることにした。と言ってもこれはいつものやり取りなわけだが。

「夕礼始めるぞー」

 入ってきた教師は開口一番にそう言うとプリントを配り始めた。美月の元にも渡り、それに目を通す。そこには朝のニュースでしていた連続殺人事件の話だった。後は夜出歩かないこと、なるべく1人で行動しないことなど云々書いてある。教師も内容をそのまま読むだけだった。

「では、みんな気をつけて帰るように」

 教師のその一言で生徒達が勝手に教室を出て行く。美月もゆっくりとした動作で教室を出ようとする。

「美月、一緒に帰ろ」

「ん、おっけ」

 先ほどとは違い、満面の笑顔の悠と共に教室を出る美月。
 校門をくぐり、下校通路を歩く2人。美月のマンションは学校から歩いて10分程の位置で、ほとんど一本道だ。悠の住まいも美月と同じマンションのため下校の時はいつも一緒だ。
 他愛のない話をしていると、美月の携帯電話が突然振るえる。携帯電話を開き、中身を確認する。

「どうしたの?」

「ん、バイトの子からメール。今日代わって、だってさ」

 美月はコンビニで働いている。学校が終わった後は夜かあるいは深夜に働いている。

「ま、いっか。代わっても」

 慣れた手つきで返信メールを打っていく。

「…相変わらず美月は打つの早いよね」

「そうかな?悠が遅いだけでしょ」

「私は普通だよ」

 メールが送れたことを確認するとスカートのポケットにしまった。

「夜、気をつけてね」

「悠こそあんまり出歩いちゃ駄目だよ」

 と言うと悠は苦笑いを浮かべた。美月は知っていることだが、悠は路上ライブをよくしている。悠のお気に入りの青いギターを持って、天海市一番の交通手段、天海駅の広場でよく歌っている。中々評判は良いらしく、アンコールに付き合って帰りが夜遅くになることも多い。そのせいで、悠の親に頼まれて美月がバイトの帰りに迎えに行くことも多かった。

「大丈夫、早めに帰るようにはするから。…それに何かあったら『黒衣の剣士』が助けてくれるよ」

悠の言葉に美月が足を止めた。

「は、何?黒衣の…?」

「知らない?今ネットで流行ってるよ?今毎日のように人が殺されてるでしょ?でも殺されてない日もあるけど、あれは犯人が殺さなかったんじゃなくて、その『黒衣の剣士』が助けてくれたの」

「あぁ、都市伝説の類ね」

 美月はネットを見ないため、その手の話は疎かった。

「本当だよ。実際殺されかけた人たちはみんな同じ格好した人に助けられたって言ったらしいし。被害者以外にも目撃した人もいるんだよ」

「ふーん」

「本当だってば。うちの学校にもいるんだよ、助けられた人」

 悠は真剣に語る。いつの間にか握り拳すら作っている。

「しかし何で『黒衣の剣士』なんて名前なの?」

「全身真っ黒の服着てるの。黒のマントみたいな服着て、黒のブーツ履いてるの。で、黒の手袋つけてるし、髪の毛も真っ黒。で、真っ黒の剣を持って現れたから」

 次々と特徴を挙げていく悠。美月は言われた姿を頭の中で描く。

「…ソイツ、ファッションセンスゼロだな」

「そ、そうかな?格好よくない?」

「ま、なんかあったら、その黒い人に助けてもらえ」

「全っ然、信じてないでしょ」

 と口を尖らせて言ったが、美月は意に介さず先々と歩き始めた。置いて行かれないようにように悠も歩く速度を上げる。

「バイト、慣れた?」

「今月始めたばっかりだから、まだよく分かんない」

「そう。無理はしないでね」

 そう言って悠は微笑みを見せる。その笑顔に少し照れてしまったが、美月も同じように優しく微笑み返した。