2010.04.21 朔月/新月
10:20pm頃見た夢
手入れのよい花梨の卓の上に
黒猫(♀)はいた。
寝そべって手足を胴の下に畳み、
頭を前に向けた姿が猫餅のようであった。
自分は卓の横に立ち、黒猫(♀)を間近に見ていた。
卓は高く、黒猫(♀)の横腹が自分の目の前にあるのだった。
窓から射す日は遠く、しかし
白熱灯が明るく部屋を照らしていた。
克明に見える黒猫(♀)の毛並みは瑕一つなく艶やかだった。
黒猫(♀)の金目が不機嫌に細められた。
自分は黒猫(♀)を抱き、
静かな話声と足音に満ちた広い部屋を
扉の方へ向かった。
扉の外は短い渡り廊下で、
渡り廊下の長さ全体分の幅を持つ階段に、続いていた。
階段の終わりはガレージのようにただ四角い形で、
そこから差し込む光は
渡り廊下までは届きかねているのだった。
渡り廊下に出ると、鉄をアイボリーの塗料で塗っただけの
扉が見える。
扉の向こうは百貨店の売り場になっているはずだった。
黒猫(♀)を抱いて渡り廊下に出た。
黒猫(♀)は強く体を捻り、階段へ飛び降りた。
黒猫(♀)はあり得ない速さで階段を駆け降りた。
兔のように大きく跳躍する背中が見えた。
黒猫(♀)が走り去った後、
階段の向こうに
土の上に粗末な小石を撒いたような裏口と、
センターラインの無い二車線ほどの道路が見えた。
道路は雑木林に添って下っており、
早期林の暗い影と、明るいアスファルト、
埃っぽく乾ききった裏口の土と
不自然に掃除の行きとどいた階段が、
出口の矩形そのままに切り取ら
れて明るく見えた。
雑木林の梢に、
午前の終わりの、強く澄んだ光が
反射していた。
自分は階段の上に立ち、
課題を済ませてから黒猫(♀)を探しに行こう、と
考えた。
一瞬後、
直ぐ後を追わないと黒猫(♀)に追いつけない、
という考えに取り憑かれた。
自分もまたあり得ない速さで、
階段を駆け降り、アスファルトを走り、
行き止まりで畑へ飛び降りた。
自分は泣きわめきながら畑を走りまわった。
黒猫(♀)は気配すら無かった。
走り回る靴越しに、
柔らかく肥沃な畑の土と、不似合いに尖った小石の感触が、
生々しかった。
陽はいつか薄雲に覆われ
土いきれも草いきれもなく、ただ、
土と小石と陽の温いあたたかさだけが感じられた。
自分は尚も黒猫(♀)を呼んで泣きわめき
走り回った。
ふと
黒猫(♀)には二度と会えない。
ということが直感された。
立ちつくし、遠くまで広がる畑を感じたところで
目が覚めた。