父に「私の家に来ないか?」
と聞いてみた。
前に信者である兄に、父の面倒は忙しくて無理と言われたからだった。
会衆のお世話はそんなに大変なのだろうか?
父の身の回りの世話をするのにあたって、私の家から父の家まで通うのは物理的に無理なので、どう考えてもこちらに来てもらうしかない。
でも父は「死んでも嫌」だと言った。
長年住んでいる町、また長年住んだ家から出たくないという。
そうだよね。
それはそうだ。
高齢になって、住み慣れた家を離れたい人はほぼいない。
JWを離れた後、介護の資格を取った。
老人ホームで働いていた時、入居者が痴呆になったり、痴呆が酷くなったりしたのを見てきた。
住む場所が変わった事によるストレスが関係していた。
毎晩寂しくて、ナースコールをひっきりなしに押す方もおられた。
背中をさすって、一緒にホットミルクなどを飲んだりした。
すると気分が落ち着いて、笑顔がみられたりした。
人それぞれ家庭の事情がある。
みんな仕方がないのだけれど、一人で施設に来たその方をかわいそうに思った。
アルコール依存性な父。
飲むと瞬間沸騰器になる父。
お酒が切れると、手が震える父。
家の給料を半分持ち出して、一年も外国に遊びに行った父。
お金が無くてひもじかった、あの日々。
母は食事を私達に食べさせるため、自分はあまり食べなかった。
私が食べるように強く勧めても、母はご飯を食べなかった。
一年が経つ頃、母はかなり痩せた。
父を許せなかった。
もう、父はあの頃より一回り小さくなった。
うまく歩けなくて、ヨロヨロと歩くようになった。
怒鳴る事も少なくなった。
ただお酒を飲んで、酔い潰れる日々。
父を哀れに思うようになった。
不思議なもので、
父には余生を幸せに生きて欲しいと思うようになった。
母の分も。
また、兄とは話し合う必要が出てきた。
子供は3人いるのだから、それぞれができる事をすれば良いのである。