「ここが○○で、そこがこうするとこで~」
僕は櫻井君に一通り社内を説明してあげて、
最後にはトイレの場所まで説明してあげた。
「じゃあこれぐらいで社内の説明は終わり。
結構広いけど櫻井君ならすぐ覚えられるね?」
やつはすでに女子に人気みたいなので
少し嫌味っぽい言い方をしてみたが、やつは
すごくいい返事をしてきて、終いには僕のことを
二宮先輩と言ってきた。
僕は生まれてきてから一回も誰かに先輩と
言われたことがなかった。
だから正直嬉しくて、不覚にもドキッとしてしまった。
「あ、ああ。
え、えーと百合子先輩の所に行って仕事もらってきな。
僕からはもう教えることないからさ。」
「はい!」
「あっ、あとこれ…よかったら飲んで?
まぁあんまりこれ飲む人いないけど…」
「え、いいんですか?では遠慮なく頂きます!
にしても先輩、イカスミドリンクって結構
変わってる物飲みますね!でもありがとうございます!」
「お、おう…」
モテる人は何でモテるのか今日何となくわかった気がする。
やつはどんなに嫌味ったらしいことを言われようとそこで
挫けず、このフィールドでどう生きていくかという術を
知ってるんだ。
つまり僕みたいな地味で嫌やつとはちがうんだ。
「…いいやつじゃん」
「あーあ、今日も残業か…ちょっと休憩しよ」
今日も僕は時間に間に合わず残業になってしまった。
ここ最近残業ばっかりで疲れている。
でもあの新人君はやっぱり優秀らしく、僕を越す勢いにいる。
「今日は何にしようかな~」
一人で自動販売機を眺めながらブツブツ言ってると、
どこからともなく他の人の声がしてきた。
それは少し苦しそうにしている人の声だった。
何だろうと思いながらもいつも通りイカスミドリンクを買って
またすぐに戻ろうと思っていたが、
その声は次第に大きくなっていくので、何となく気になって
買ったばっかりのイカスミドリンクを持って、
その声のする方へゆっくり歩いて行った。