赤ちゃんの味覚の謎 | jasmin jasmin 女医の子育て。

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ほぼ毎日、描いているマンガなどです。

今日は赤ちゃんの味覚について書きます。

私達が感じる味は、甘味、酸味、塩味、苦味、旨味
という基本感覚の組み合わせであると考えられています。

味蕾というのが舌、口蓋、咽頭、喉頭にあって
味を感じるのですが、それはなんとお母さんの
お腹の中にいる時からあって働いているんですって。


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De Soo Kが1937年に行った有名な研究があります。
胎児は羊水を定期的に嚥下しています。胎児X線造影時に
苦味のあるリピオドールを羊水に注入すると8ヶ月の胎児
では、飲み込む羊水量が減少し、甘いサッカリンでは
飲み込む回数が増加していたそうです。



たいていの能力は小さい頃は未熟で、大人になると能力が
高くなると考えがちじゃないですか。しかし、味覚に
関しては違うようなんです。


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味蕾は胎生後期から乳児期にかけて多く存在しますが、
その後は次第に数が減り、成人になると分布範囲も減少
するので、味蕾の数や分布から考えるともっとも味覚に
鋭敏な時期は生後から哺乳期である
と考えられます。

↓ここからの引用。

歯と口の健康百科 家族みんなの健康のために/伊藤公一

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うーん、赤ちゃんの味覚恐るべし。
同じく「歯と口の健康百科」にはこう書いてあります。
甘味→顔の表情が緩み、吸綴運動が見られます。
酸味→口をすぼめ、鼻にシワを寄せます。
苦味→口をへの字にして舌を突き出します。

旨味→本には書いていなかったんですが、甘味刺激と
同様の反応があるようです。
しかし!塩味に対してはどうだと思いますか?
何の変化もないんですって。


小児は食物の中で甘味や旨味を本能的に好みます。
これはそれぞれ生命維持の基本となるエネルギーや
タンパク質に対する味覚なので、生理的要求と一致する
ためですが、心理的満足感が得られる甘味嗜好は
非常に強いものがあります。--中略--塩味に対する嗜好
傾向は生理的要求とあまり関係ないようです。

山本隆「脳と味覚ーおいしく味わう脳のしくみ。」共立出版1996



塩味の味覚は離乳期から始まる後天的な食体験により
形成されていき、4歳頃には食塩の濃度に対して大人と
同じように嗜好が認められるようになります。実際に、
塩味の濃いものを食べている人は、塩味に対する味覚が
鈍感になっており、薄味になれている人は敏感になって
いるようです。
二木武「摂食から排泄まで。小児の発達栄養行動ー生理・
心理・臨床ー」医歯薬出版1984



うーん、うーん、ますます謎が深まった。
赤ちゃんは塩味がわからないのだろうか???


実は、「お母さんが◯◯を食べると母乳がしょっぱくなって、
赤ちゃんが飲むのを嫌がる」という話をよく聞くんです。
科学的根拠が示されたことはありません。
それなのに、お母さん達に「母乳がしょっぱくなるから◯◯
を食べちゃ/飲んじゃダメ。」
と言う人がいるんです。
新生児期~乳児期に塩味がわからないというのが本当なら、
あの助産師達の”指導”は一体、なんなのか???と
私は途方に暮れました。


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そこで彗星のごとく登場したのが前川喜平先生。
っていうか、有名な先生のこの興味深い文献を私が
探せていなかっただけなんですが。
小児科診療1986.12 p2265によると、酒石酸と食塩の濃度を
変えた水を新生児に飲ませたところ、酒石酸をすっぱいと
感じた最低値、食塩をしょっぱいと感じた最低値は大人の
1/2の濃度だった、つまり成人の二倍敏感な識別能力が
あった
という結果でした。

ということは、いくら赤ちゃんの味蕾の数はたくさんでも
味の認知はされていないのでは?という人がいても疑念は
払拭される訳です。赤ちゃんは甘味、酸味、塩味という味覚に
敏感なのです。写真のように甘味にも反応がありました。


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ということで、やはり赤ちゃんは塩味がわかるんですね。
「歯と口の健康百科」に載っていた研究結果と矛盾するの
ですが、もしかしたら食塩水濃度が違うのかも知れません。
記載がないのでわかりませんが。

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前川先生はこういった味覚反応は当然、大人と同じく大脳皮質
由来だと思っていたところ、脳障害のある新生児でも同様の
反応が出たこと、月齢が進むと味覚に対する鋭敏さが消失する
ことから、この新生児期の味覚反応は大脳皮質ではなく、脳幹
由来の反射的要素が強いと推論しています。

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だから生まれた時は味に敏感でも、3-5ヶ月頃一時的に鈍感に
なりまた、大人の味覚に近づいてくるらしいです。

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ということで、赤ちゃんは塩味がわかるとは言え「お母さんが
ファストフードを食べると母乳がしょっぱくなって、赤ちゃんが
飲むのを嫌がるからファストフードをやめなさい。」という
都市伝説を肯定するものではありません。

乳腺炎になると母乳がしょっぱくなると言われているのに
味覚センサで、乳腺炎のない母の母乳と比較して有意差が
出なかったり(吉田倫子 母性衛生2012.1)、

生後3-4ヶ月になると却って塩分を好むという論文が
ありったりします(Beauchamp Dev Psychol 1986)。

なので、もちろん昔から日本人が食べてきた物をバランスよく
食べることがいいとは思いますが、科学的根拠がない話で
お母さん達の食生活を制限するのはよくないと思います。






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最近、毎週金曜日は医療について書いてます。