神々の戦いから三年。闇の剣神が消えた世界に、新たな魔の手が忍び寄る。見たこともない凶暴な魔物があちこちに出現し、人々は恐怖におののき、平和とは程遠い生活を強いられていた。
「こうも頻繁に魔物が現れるとは…国家戦士も人不足と聞くし…」
無数の印が書き込まれた地図を見ながら、ふと溜め息をつく女性。そばに控えていた男がそっと近づき、何事か囁く。
「でも、まだ…」
黒髪のポニーテールを揺らして渋る女性を男は軽々と抱き上げると、走り回る防衛省職員を見つけて声をかける。
「エイスは休ませる。用があるなら俺に言え」
「は、了解しました、ローハさん」
パタパタと走り去る職員を見送り、男は執務室の隣の仮眠室に女性を連れ込んだ。
「ちょっと…下ろしてよ、アズール…」
「わりぃわりぃ」
アズールはすぐにソーサをベッドに下ろした。怒らせると蹴りをお見舞いされるので気をつけなければ。
「少しは休めよ。働き過ぎだぜ?」
「仕方ないじゃない…緊急事態なんだから」
膨れるソーサの頬をつつき、アズールは溜め息をついた。
「国家戦士と防衛省が連携するなら、国家戦士をまとめてるあいつと話し合わねえといけねえだろ?そんなやつれた顔してたら心配されるぜ」
下ろしてあるブラインドの隙間から、窓の外を眺めたあと、毛布にくるまっているソーサに向き直る。
「…今ごろ…どうしてるのかな…」
ソーサの呟きにアズールはさあなと返し、ベッド脇に置いてある簡易の椅子に腰掛けた。
「とにかく休め」
「うん…」
毛布をかぶり、目を閉じるソーサ。穏やかな日差しがブラインドの隙間から漏れる。遠慮がちなノックがなければ、アズールもうとうとと居眠りしそうな心地よさだった。
「ローハさん、エイス指揮官と面会を希望する方がお見えなのですが…」
ドアを開けると、職員が困ったような表情でアズールを見上げていた。
「エイスは今休ませてる。誰が来てるんだ?」
「キラ・ヨーハル、という方です」
懐かしい名前だとアズールは思った。三年前に一緒に旅し、別れて以降逢っていない、同郷の親友。彼がここに来ているという。
「この部屋に通してくれ」
踵を返す職員の背を見送り、アズールは窓のブラインドを上げる。柔らかな日差しが部屋の中を照らした。
この再会が、何を意味するのか。青年はまだ知る由もない。