蒼穹騎士の隠れ家 -2ページ目

蒼穹騎士の隠れ家

全力妄想投球場。ロボと戦闘機大好きすぎて、それしか書かない多分。
そんなブログ。
詳細はfirst&aboutで。


「キラ、久しぶりだなぁ!」
職員に案内された親友がソーサの執務室に入るなり、アズールは声をかけた。知的な紫の瞳は、初めて出逢った頃と変わらない穏やかな眼差しをアズールに向ける。
「元気そうで良かったわ。さ、座って」
ソファーを勧めるソーサ。キラもありがとうと礼を口にし、ソファーに腰を下ろす。
「二人とも元気そうで何よりだよ」
キラは鼻眼鏡をクイッと上げ、アズールとソーサを交互に見ながら、安堵と懐かしさが入り混じったような、そんな微笑みを浮かべた。
 キラと逢うのは、三年前の旅が終わって以来。何を話そうか、アズールは親友を見ながら考えていた。成人したキラは、以前より増して冷静で知的な雰囲気を纏っており、同い年なのだが、大人の風格・貫禄というのが備わっているように感じる。そして、どことなく疲れている、そんな雰囲気も少しばかりあった。
「突然訪問して、迷惑じゃなかったかい?」
「いいえ、そんなことはないわ。丁度一区切りついていたし…」
ソーサが横に首を振る。そっか、と安心したようにキラは頷くと、単刀直入に用件を切り出す。
「つもる話もたくさんあるけど…、今日は二人に警告しにきたんだ」
「警告?」
アズールはソーサとほぼ同時に、キラの言葉を復唱した。
「うん。最近、世界情勢が思わしくないのは知ってるだろ?」
「ああ、新種の魔物や、通常より強力な個体が頻繁に現れてるな。それがどうした?」
キラは鞄から様々な資料を取り出し、机に広げた。ソーサはそれを手に取り、目を通す。
「…ZIA(ジア)?」
アズールも資料を手に取り、ざっと確認する。それによれば、最近になって現れた謎の組織・ZIAが、この騒動を引き起こしているそうだ。
「何のために、こんな騒ぎを…」
ソーサが資料から顔を上げ、ふと溜め息をつく。三年前、命がけで実現した穏やかな平和が壊されていく。それに対するソーサの嘆きは至極もっともだ。
「やり方は少し違うが、四天王がやってたことに似てるな」
この事件における死傷者のデータを見て気づいたことを素直に述べた途端、キラがさらに深刻そうな表情を浮かべた。
「アズールもそう思うんだね。…警告っていうのは、まさにそれなんだ。目的はまだわからないけれど、ZIAのしていることが、過去に闇の剣神が行ったことに似ているんだ。ライラも構成員に襲われたらしいし、ひょっとしたら、二人も狙われるんじゃないかって」
口を閉ざしたキラは眼鏡をかけ直し、ソファーに身を沈める。アズールは少し考え、疲れている様子のキラに疑問を投げかけた。
「キラは大丈夫なのか?」
「…僕はまだ大丈夫。目的がハッキリしたら、また伝えに行くね」
鞄に纏めた資料を入れ、ソファーから立ち上がったキラを見上げた。ソーサが送ろうと立ち上がる。
「お気遣いありがとう、ソーサ。でも、大丈夫だよ」
部屋から出て行くキラの背中からは、不安を背負っているかのように元気があまり感じられなかった。
「…キラ…」
親友の身を案じて呟いた言葉は、彼には届いていない。

 真夜中、アズールは寝付けずに、寝室のベッドの上で寝返りばかり打っていた。しかし、いつまで経っても眠気はこない上、ますます目が冴えてしまう。隣のベッドではソーサが熟睡しており、規則正しい寝息を立て、時々もじもじと可愛らしく手を動かしていた。
「可愛い奴……ん?」
ソーサの寝顔を眺めていたら、何か聞き慣れない音が部屋の外から聞こえることに気付いた。何か重いものを引きずっているような、そんな音。アズールは起き上がってベッドの近くに立てかけている槍を手に取り、音を立てないようにドアを細く開いて、隙間から様子を窺う。
「…」
音はだんだん近付いているようだが、主の姿は見えない。重いものを引きずる音に混じって、足音と息遣いも聞こえ始め、血生臭い臭いがつんと鼻をついた。どうしようかとドアから離れた刹那、いきなりドアが強い力で引っ張られ開かれた。
「!?」
部屋の入口に佇む、大鎌を持った魔物。赤色の瞳が身構えたアズールを見据えたあと、眠ったままのソーサを捉える。
〈ヒカリノミコ、ハッケン〉
片言の言葉を喋り、魔物はアズールには目もくれず、ソーサに走り寄ろうとする。
「!ソーサ!!」
アズールの声に飛び起きたソーサは、目の前で大きな鎌を振り上げる魔物に向かって渾身のパンチを決める。思わぬ反撃を受けた魔物はよろけ、その隙を突いて、アズールは槍で大鎌を弾き飛ばした。
「一体何なのよ!」
〈ミコ、ワレラノモノ。ヌシ、ササゲル。ミコ、テニイレル〉
「ごちゃごちゃうっせーんだよ!!」
アズールの薙ぎ払いが華麗に決まり、魔物は崩れ落ちるように倒れ、クカカカという不気味な笑い声を上げて大鎌と共に跡形もなく消滅する。
「…何なの…」
すっかり怯えているソーサを抱き寄せ、アズールは槍を床に降ろした。